北側会
俺の名はロガーボ。
五村の北側を裏から取り仕切っている。
五村は小山をそのまま街……じゃなくて村にしたような場所だから、北側は日当たりが悪くて人気がない。
「ならば、日当たりを気にせぬ店を集めればよかろう」
村長代行様の指示で、五村の北側には夜の店が集められた。
主に娼館、カジノだ。
それらがあれば、周囲に飲食店や酒場、宿屋が出店してくる。
あっという間に賑やかになった。
男性の間では、「北側に行く」は女の子と遊ぶという意味で使われている。
俺の店も、北側を構成する店の一つ。
酒場兼娼館をやっている。
元はもっと西にある街で似たような店を持っていたのだが、人間との戦争によって店は焼かれてしまった。
その後は、俺と一緒に行動するしかない女たちと共に各地を移動巡業。
苦しい日々だった。
五村の話を聞き、ここに来ることを決めて本当によかった。
また店を持てるようになるとは。
村長代行様には頭が上がらない。
いや、感謝もあるが物理的にも。
なにあの人、めっちゃ怖い。
これまで、各地の名主や村長、街長、領主、それに裏を取り仕切る怖い人たちと出会ったけど、彼らが子供に思えるほど怖い。
目を合わせちゃいけないタイプの人だ。
ただ頭を下げ、命令を待つ。
それが一番と本能が囁いている。
その態度が良かったのか悪かったのか、俺は五村の北側を取り仕切るメンバーに選ばれた。
他に九人。
“北側会”
自身の店の利益の為ではなく、五村の北側を自主的に統治する組織だ。
村長代行様は難しいことは言わない。
「村に迷惑を掛けぬよう、取り締まれ」
それだけだ。
夜のお店というか、酒と女を扱っていれば、当然ながらトラブルも多い。
酔っ払いの乱暴や、客や女の取り合いでの喧嘩、金銭問題などは微笑ましいもの。
ぼったくりや詐欺、怪しい薬の売買、場合によっては違法品の取引などが行われたりする。
そういったトラブルが大きくならないように、各店は明朗会計。
悪質な店には警告。
警告が無視された場合は、警備隊に連絡する手筈となっている。
これまで、それでいくつもの店が潰されている。
五村でまっとうにやっていれば、それなりに儲かるのに馬鹿な連中だ。
ある時、北側会で一つの提案がされた。
代表者を決めようと。
これまでは合議制だった。
ただ、北側会にいるメンバーは、各自が店舗をもっているライバルでもある。
話し合いでは利益がぶつかって進まないことが多々あった。
また、十人全員が集まるのも難しい。
その為、北側会の代表者一人に権力を集中させ、残り九人はその代表者の監視役ということではどうだろうと。
悪くない考えだと思った。
正直、北側会の仕事は大変だ。
自分の店だけを管理していればよかったのが、北側全体に目を向けなければいけない。
気苦労も多い。
監視役だけですむなら御の字だと思うが……
村長代行様はこの件は?
勝手に体制を決めて問題はないのか?
なに、すでに運営に関しては自由にせよとのお言葉をいただいている?
よし、問題クリア。
代表者を決めることに賛成。
他のメンバーも賛成している。
やはり、大変だよな。
代表者はクジで決めることになった。
クジに不正はない。
何度も何度も調べた。
なぜ俺が……
頭を抱えずにはいられない。
隣にいるメンバーが優しく肩を叩いてくれた。
代わってくれるのか?
逃げられた。
とりあえず、お試しということで任期は一年。
ええい、こうなれば絶対に問題なく終わらせる。
現在、北側会には手足となる者を五十人ほど雇っている。
トラブル解決や情報収集をしてもらうためだ。
ただこの五十人。
各メンバーからの推薦なのだが……子供や結婚退職した女性が中心。
トラブル解決や、夜のお店の情報収集をするのに、相応しくない。
頑張ってはくれているけど、力不足。
物理的な。
なぜ募集に男性がこない?
いや、大っぴらに募集しているわけじゃないけど……
俺自身が暇な時に見回らないといけない事態。
大きなため息がでる。
仕方なく、自分でスカウト。
ほら、ちょうど良い男がいた。
二十代ぐらいの男だ。
昼間で閉まっている店が多い中、うろうろと。
初めてこの辺りに来たのかな?
珍しくはない。
旅人や新しい住人は、北側の噂を聞けば一度は来るのだ。
うむ。
つまり、まだこの辺りで顔を知られていないということ。
こういった男をスカウトし、部下として働いてもらいたい。
スカウトは簡単だ。
俺の店に招待し、ちょっとお願いするだけ。
脅したりはしない。
待遇面の話をするだけだ。
まあ、彼の左右に店のナンバーワンと、ナンバーツーを配置するがな。
ふふふ。
逃さん。
スカウトした男性は、村長だった。
普通の農家の次男坊ぐらいにしか見えないけど、五村の村長だった。
あの村長代行様が、村長に思いっきり頭を下げている。
……終わった。
そう思ったが、村長からはお褒めの言葉。
「これからも五村の安全の為によろしく頼む」
おおっ。
なんと寛大な。
ありがとうございます。
しかし、村長。
どうしてあのような場所に一人で?
いえ、ご用命でしたらこちらに女性をお連れしますが?
あの時、左右に座っていた娘でしたら、すぐに。
遠慮されますか?
俺は村長をみる。
笑っておられるが……瞳には確固たる拒絶の意思。
むう、これは無理。
残念だが諦めよう。
余計な野心は身を焦がす。
お言葉をいただけただけで十分だ。
俺は村長代行屋敷を出……られなかった。
複数の女性に取り囲まれている。
え?
なに、これ?
色っぽい感じじゃないよね?
殺気が感じられるもん。
「村長をお店に連れ込んだと?」
「ほほう。
それで、村長はどんな娘に興味を示されたのかな?」
「詳細に話してください」
……
俺の名はロガーボ。
五村の北側を裏から取り仕切っている。
早く一年の任期が過ぎて欲しいと思う。
もしくは監視役からの辞任要求、待ってます。
遅くなってすみません。