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五村の戦い


 五村ごのむらさいは一週間、続く。


 だが、ずっとやっているわけではない。


 祭りは日が昇ってから、沈むまで。


 なので夜は通常営業。


 まあ、あちらこちらで宴会の賑やかな声は聞こえてくるが、店の中や個人の家ならセーフ。


 外でなければ問題なし。



 ふもとで行われている鍛冶勝負は夜通し行われるが、作業的に仕方がないこと。


 五村住民も心を広く、見守っている。


 ……


 もう少し興味を持って見守ってあげようよ。


 いや、強制じゃないから。


 ごめん。




 さて、鍛冶勝負なのだが……


 俺はお題とした剣鉈を知らない。


 剣鉈ってどんなのだ?


 普通の鉈とは違うのだろうか?


 お題を決めたヨウコに質問すると、実物を見せてくれた。


 少し長い鉈……剣としても使える鉈ということだろうか?


 地方では、マチェット、マチェーテなどと呼ばれることもある実用性重視の武具というか日用品で、森の中を歩く時に使うそうだ。


「刃の長さによって名前が変わることもあるが、気にする必要もあるまい」


 なるほど。


 ところで、鍛冶勝負の勝敗はどうやって決めるんだ?


「考えている。

 が、村長がガットのチームを勝たせたいと望むなら、そう手配するが?」


「怒るぞ」


「ははは。

 冗談だ。

 まだ短い付き合いだが、村長の好みはわかっている。

 公平に審判しよう」




 俺はヨウコと別れ、大樹の村に戻った。


 こちらは日常。


 うん、お祭り空気満載の五村とのギャップに毎回、驚かされる。


 転移門の凄さだな。


 五村のお祭りには、自主参加。


 行きたい者は参加していいと言っている。


 お金も渡す。


 ただし、子供はかならず大人同伴。


 そう伝えたら、いくつかのグループに分かれて行くことになった。


 意外だったのはウルザ。


 最初は行く気満々だったが、クロの子供たちやザブトンの子供たちが行けないことを知ると途端に行くとは言わなくなった。


 アルフレートやティゼルも、それに倣った。


 優しい心を持っていることは嬉しいが、我慢する必要はないぞ。


 遠慮なく行って来なさい。


 ハクレン、ウルザを頼む。


 アルフレートとティゼルには、ブルガとスティファノに同行してもらう。


 本来なら、ルーやティアが同行すべきなのだろうけど、二人は最終日、鍛冶勝負の結果を観にいくそうだ。


 ヒトエは後日、ヨウコが自分で連れ歩くそうだ。


 ナートは最終日を希望。


 父親であるガットの勇姿をみたいそうだ。


 獣人族の男の子たちは……初日に行ってた。


 人混みでかなり苦労したようだ。




 俺は子供たちを見送った後、自室に戻って敷物の上にうつ伏せになる。


 ちょっと現実逃避。


 うつ伏せになった俺の頭や背中に子猫たちが乗ってきた。


 君達、もう大きいんだから。


 かなり重いぞ。


 どんっと横から衝撃を感じたら、クロと目があった。


 添い寝してくれるのかな?


 反対側にはいつの間にかユキがいた。


 ……


 えっと、身動きが取れないんだけど?


 三十分ぐらい、そのままだった。


 現実逃避終了。


 向き合おう、現実と。





 五村で問題が発生した。


 五村祭を計画した段階で、グータートルを退治に向かったガルフたちは帰ってきていなかった。


 知らせないまま祭りをするのは悪いと思ったので、連絡要員を派遣。


 連絡要員はガルフたちに無事接触、祭り期間中には帰るとの返事をもらって帰ってきた。


 なんでもグータートルは退治したけど、やっかいな魔物が他にもいそうだから退治しておくとのことだ。


 大丈夫かと心配していたが、先ほどガルフたちが五村に帰ってきた。


 エルフのお偉方二組を引き連れて。


 片方の代表は、真面目そうな中年男性エルフ。


 もう片方の代表は、気の強そうな女性エルフ。


 双方、俺とヨウコに会うなり、降伏宣言。


「我が身はどうなっても構いません。

 どうか里には温情を」


 これが真面目そうな中年男性エルフ。


「我が首で、此度の一戦。

 終わらせていただきたい」


 こっちが、気の強そうな女性エルフ。


 俺はどういうことだとガルフを見ると目を逸らしたので、問い詰めた。


「待ってくれ村長。

 俺たちは悪くない。

 道案内してくれているエルフに従って、魔物を退治していただけなんだ」


 じゃあ、どうしてこうなっている?


「なぜか、エルフ同士の抗争に巻き込まれて、防衛してたら両方がくだってきた」


 ……防衛してたら?


「た、多少、攻勢には出たけど……」


 多少?


「夜襲してきたから、夜襲しかえしたりとか……」


 ……


 頭が痛い。


 なぜ魔物退治に出かけたら、エルフの里二つが降伏してくる事態になるんだ?



 あー、まず、こっちの損害は?


 怪我人は?


 冒険者が数人。


 死人は?


 いない。


 よし。


 相手側の損害は?


 怪我人、死人は?


 怪我人多数だけど、死人は出していない。


 よーし、最悪は免れた。


 次に……魔王国内で争ったことになるよな?


 これ。



 とりあえず、各自の事情を聞き取ろう。


 エルフ二組には悪いが、しばらく宿に滞在しててくれ。


 宿代はこちらで……え?


 お祭りで宿は満室?


 ……


 屋敷の部屋で。


 事情をうかがいに、文官が行くと思うがよろしく頼む。


 ヨウコ、世話役をつけてくれ。



 ガルフ、ダガ、それにピリカとピリカの弟子たち。


 色々とご苦労だった。


 無事に帰ってきてくれたことは嬉しい。


 戦いも、自衛からの反撃だから仕方がなかったのだろう。


 だから、言わせてもらおう。


「よく勝った」


 詳しい話は明日、聞かせてもらう。


 今日は休め。



「あ、すまん。

 お前達に同行していた冒険者たちはどこだ?」


 この場には遠慮していないのかもしれないが、彼らからも事情を聞きたい。


「お祭りに行きました」


 ……


 俺が考え過ぎなのかな?


 魔王国との関係を考えると、深刻な事態だと思うんだけど?


 駄目だ。


 ちょっとリフレッシュ。


 ……と思って大樹の村に戻って現実逃避していた。


 うーん。


 ヨウコは特に気にしていなかった。


 勝ったことを素直に褒めていた。


 やはり、俺が考え過ぎなのか?


 実はたいした事がないのか?


 魔王国側に連絡し、事情を説明、必要なら謝罪をと思うと心が重いのだが……




 翌日。


 先代四天王二人に相談した結果、たいした事はなかった。


 魔王国内には、大小様々な領地がある。


 魔王国以外への無許可での攻撃は禁止だが、魔王国内の領地同士の戦いは禁止されていない。


 理由があれば戦えるそうだ。


 それでいいのか魔王国と思ったが、広大な領地を維持するにはそれが必要なのだそうだ。


 要は、魔王国と敵対しないこと。


 それが大事なのだそうだ。


 でもって、今回のように魔王国に所属しているエルフの里を降したことは、別に魔王国に敵対する行為じゃないと。


 ……


 そうなのか?


「エルフの里を皆殺しにしたとなれば問題ですが、降して配下にしても魔王国としては戦力低下になりませんから」


 いやいや、争って怪我人とか出たじゃないか。


 そう言いたかったが、そういう風習の国なんだと飲み込んだ。


「ともかく、勝利したことはめでたい。

 私からも何か渡したく思います」


 喜ぶ二人を見ながら、俺は昨日、悩んだのはなんだったのかなぁと思った。



 この後、改めてエルフ二組と謁見。


 謁見って偉そうじゃない?


 面会ということで。


 先代四天王二人にも同席してもらった。


「二つの里の降伏を認める。

 五村に従え」


「「ははぁ」」


 これで終わった。


 ……


 大樹の村に戻って、ザブトンの子供たちと遊ぼう。


 昨日、遊べなかったからな。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 10数年、こちらで生活。 地球では30手前に病気寝たきりで、なくなっている。 いつまで、地球の常識に囚われているのやら。
[一言] ○年後 フルハルト国は圧倒的な戦力の前に大樹の村軍に全面降伏し、一人の死者もなく属国となった。世はこれを一日戦争と言った(確信)
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