通勤馬車と挑戦状
大樹の村の俺の屋敷から、村の南の大樹のダンジョンまではそれなりに距離がある。
大体、二キロと少し。
これを近いと思うか、遠いと思うかは個人差があるだろう。
俺は少し遠いと感じている。
そして、大樹のダンジョンの入り口から、五村や温泉地に続く転移門のある場所には、歩いてそれぞれ十五分ぐらい。
これも近いと思うか、遠いと思うかは個人差があるだろう。
俺は少し遠いと感じている。
正直な話をしよう。
冬場、五村や温泉地に行くのがすこし億劫だった。
もう少し、便利にならないかと思う。
しかし、防犯の都合もある。
最初に話し合った場所だ。
そこに文句は言わない。
だが、五村に仕事で行く者や、夜に温泉地に向かう者などがいるだろう。
往復でなんだかんだと時間を使うのはもったいないと思う。
そこで俺が提案したいのが、乗り合い馬車。
まず、俺の屋敷から大樹のダンジョンの入り口までの往復移動の一路線。
これは時間を決めての定期便にしたい。
次に、大樹のダンジョンの入り口から、各転移門の設置場所までの二路線。
この二路線は入り口で待機しておき、利用者が来たら乗せて移動開始。
転移門の設置場所に到着したら、利用者を降ろし、空席にして入り口に戻る。
防犯を考えて、ダンジョン内は片道だけ。
計三路線の運航を計画したい。
種族会議を招集し、俺は自分の考えを打ち明けた。
ここから話し合いを重ね、来年ぐらいには乗り合い馬車の一路線でも運航できれば良いなと思っていた。
そんな事はなかった。
急遽、馬車作りが始まった。
俺と山エルフが、ほぼ総掛かりで作っているので、あっという間に出来るだろう。
……
あれ?
馬車を新しく作る必要はないよな?
大樹の村には馬車が数台ある。
収穫物を運ぶ為の荷馬車が四台と、幌のない馬車が二台、そして屋根付きの豪華な馬車が一台と、キャンピング馬車が一台。
俺としては、幌のない馬車をそのまま使うつもりだったのだけど?
「ちゃんとした馬車を作りましょう」
山エルフたちが、ノリノリで作っているから構わないか。
数時間で一台が完成した。
サスペンション搭載型の乗客移動用。
壁をなくして乗り降りをしやすくした上で、雨対策として屋根はある。
サイズ的には御者を含めて、七人乗りになるだろうか。
試乗。
その前に、馬とケンタウロス族のどちらが馬車を引くかで揉めた。
今回は馬が勝ったようだ。
満足そうな馬が、力強く馬車を引く。
うん、問題はなさそうだ。
次に、ダンジョン内用の馬車を作る。
ダンジョン内だから屋根は不要。
小回りを考え、小さめの車体に。
御者席のない四人乗り。
……
車輪が四つあるリヤカーに、椅子を乗せたみたいな物が出来た。
シンプルだから、一時間で完成した。
試乗。
今回は馬やケンタウロス族ではなく、ダンジョンにいるラミア族が引いてくれることになった。
「いいのか?」
「はい。
お役目をいただけると、励みになります。
是非」
俺としては、馬車を引くのが好きなケンタウロス族に任せようと思っていたが、やる気があるならラミア族に任せよう。
ラミア族は手で馬車を引くのではなく、下半身の尻尾の先で馬車を掴み、引いてくれる。
パワーは十分。
んー……なんだろう。
震動が違う。
凄く快適。
そして、馬車は五分ぐらいで転移門のある場所に到着した。
クロの子供やザブトンの子供が先行し、障害物を排除しながら最短ルートを通ったとはいえ、速い。
満足。
これで、馬車を乗り継げば十分ぐらいで五村に移動できることになった。
一番喜ぶのは、毎日通っているヨウコと聖女のセレスだろう。
と思っていたのだが、一番喜んだのは村の女性陣。
温泉地に行きやすくなったと評判。
みんな、ちょっと遠いと思っていたようだ。
ダンジョン内用のリヤカーのような馬車は増産され、現在は八台が稼動。
ラミア族だけでは足りず、それなりに大きくなったザブトンの子供や、巨人族が頑張ってくれていたりする。
今度、馬車を引いてくれた者だけを集めて、慰労会でもしよう。
馬車が稼動して少ししたぐらいに、五村に来客があった。
牢屋にいるドワーフを引き取りに来た者たちだ。
彼らもドワーフ。
まず、彼らは牢屋にいるドワーフたちの無法と無礼を謝罪。
迷惑料として、大樽四つに入った鉱石を五村に納めた。
ヨウコとしては、牢屋にいるドワーフたちも反省の弁を述べているので、要求されるがままに解放に同意という流れを考えていた。
しかし、違った。
引き取りに来たドワーフたちは、牢屋にいるドワーフたちの解放を求めなかった。
「牢屋のドワーフは、引き取ってくれぬのか?」
「この村の法に則り、処罰してほしい」
「では、その方らはなにをしに来たのだ?」
「謝罪と迷惑料を納めるため。
それとだ……」
ドワーフの一人が、斧をヨウコに差し出した。
「見事な業物だな」
「ワシが打った」
「そうか。
献上品か?」
「やっても構わぬが、話がある」
「なんだ?」
「この村では魔鉄粉を使った武器があると聞いた。
間違いないか?」
「うむ。
多少、値は張るが商店で取り扱っておるだろう」
「ここで打っているのか?」
「……そのようなものだ」
「では、その斧を作った者に見せてほしい」
「それだけで良いのか?」
「構わぬ。
ワシらは南側の宿……名はなんだったかな?」
「麓付近なら“猫の目亭”で、中腹なら“狐の火亭”がある」
「“猫の目亭”だ。
そこに泊まっておる」
そう言って、ドワーフを引き取りに来た一行は帰っていった。
大樹の村で魔鉄粉を使って武具を打っているのは、獣人族のガットとガットの弟子二人。
ヨウコが受け取ったドワーフの斧を見ながら、ガットは燃えていた。
「村長!
これは挑戦状だ!」
俺には普通の斧にしか見えないが、そういうことらしい。
「勝負の場を!」
そうなった。




