村下街?
城の近くに街ができることはある。
うん、わかるわかる。
では、村の近くに街ができることってあるのかな?
しかも、すぐ横に。
……
嫌がらせ?
違うらしい。
街が出来た理由は、村への移住待ちが原因。
移住許可が出ていないので、村に住むのは憚られたので村の手前で生活を開始。
そういった人が集まり、少しずつ街が出来たそうだ。
でもってだ。
魔王国側もただこの状態を見守っていたわけではない。
ちゃんと、大樹の村に報告と相談はしていたのだ。
「台地の側面に移住希望者が住み始めています。
どうしましょう?」
「村長がそのような些事に拘ることはない。
好きにさせよ」
「かなりの数が生活を始めてしまいましたが……」
「村に住みたいと思う者を、村長は拒まん。
全て受け入れよ」
「警備上の問題で、壁を建設したいのですが構いませんか?」
「住民の為になるなら、村長が断ることはあるまい。
頑丈な壁にするがよい」
大樹の村側の代表がヨウコだった。
いや、ヨウコも勝手に判断はしていない。
ちゃんと俺に報告と相談はしているのだ。
「村への移住希望者が台地の側面で生活を希望している。
構わぬか?」
「え?
不便じゃないのか?
まあ、本人が希望しているなら構わないぞ」
「結構な人数が側面で生活を希望しているらしい」
「なんだろ?
種族的な理由かな?
まあ、いいよ」
「住民の生活を守る為に、防壁を築きたいらしいが」
「当然だな。
資金が足りないなら言ってくれ」
……
全ての会話を一回でやったわけではないが、記憶にある。
誰に聞かせるわけではないが、言いわけをさせてくれ。
俺は話の前提に、五村への移住が始まったと思っていたんだ。
いや、確かに確認しなかった俺が悪い。
悪いが……
はい、俺が悪いんです。
さて、どうしよう。
えーっと。
まずは、あれだな。
目の前で頭を下げている人たちに伝えることだな。
「お、怒ってないから」
うん、本当に怒ってない。
どっちかといえば、困惑しているほうだから……
あ、ち、違う、ごめん、困惑もしていないから。
平常心。
そう、俺は平常心だから。
ははは。
だから、崇めないでください。
俺の目の前には、先代四天王の二人と、その後ろに……五十人ぐらい。
なんでも、側面に住んでいる人達の代表者たちだそうだ。
種族は、魔族、エルフ、ドワーフ、獣人族、あと……人間かな。
見た目の若い者が多いけど、年齢的には全員が俺より年上になるのかな?
せっかく集まってくれたのに悪いが、とりあえず解散で。
はい、ごめん。
待って。
ごめん。
言葉が足りなかった。
この場を解散ってことね。
出て行けってことじゃないから。
絶望した顔をしないように。
えーっと。
とりあえず、先代四天王二人、ちょっと。
現状を維持するとして問題は?
「食料の生産がほとんどできないので、外から買わないといけないことです」
「買えているのか?」
「は。
シャシャートの街のゴロウン商会が協力してくれております。
また、我等の領地より輸送隊が出発しております。
一ヶ月後には、備蓄も可能かと」
「なるほど。
購入資金は?」
「各地より集まった寄付金があります。
当面は問題ありません」
「寄付金?」
「住民を押し付けることになった領主からです」
「待て。
ここにいる住民は、押し付けられたのか?」
「いえ、そうではありません。
ですが、貴族の面子としては領地から出て行ったよりは、押し付けたとする方がありがたいので」
「あー……寄付金、強要してないよな?」
「押し付けられた側として、多少の準備金が欲しいとお願いしたぐらいです」
「以後、そういった事はしないように。
資金は俺が……」
ストップ。
慌てず、必要とする金額を確認。
これで一ヶ月分か?
一年分?
……これぐらいなら、なんとかなるか。
最悪、倍になったとしても……なんとかなるな。
「資金は俺が出す。
寄付してくれたところには、別の名義で返却するように」
「承知しました」
「しかし、ずっと買うとなると厳しいな」
正直、大樹の村の資金からすれば、それほど厳しくないが赤字を垂れ流すだけなのは気持ちよくない。
本来は、大樹の村の為の金なのだから。
「外壁の向こう側に畑と牧場を作る予定です。
さすがに今年、来年は厳しいですが、数年後には自給自足も可能になるかと」
「産業は?」
「近くに有望な鉱脈を発見しています。
その採掘と加工をやっていこうかと」
「鉱脈って……採掘していいのか?」
「この辺り一帯は村の物と取り決めております。
問題ありません。
ただ、後々に揉めない為に魔王国には報告しています」
鉱脈がこれまで未発見だったのは、開発がほとんどされていなかったかららしい。
村の建設にともない、近隣の魔物や魔獣を退治し、その際に発見したそうだ。
先代四天王の話では、まだまだ鉱脈が見つかる可能性が高いとの話だ。
本当に良いのかな?
今度、魔王かビーゼルに会った時に話をしておこう。
とりあえず、いま見つかっている鉱脈だけでそれなりの儲けを期待できるとのことだ。
細々とした問題は他にもあるが、住民たちで解決できるとのことなので任せた。
さすがに、ずっといるわけでない俺が微細なことまで指示するのは現実的ではない。
今晩の宿泊場所はドライムの巣だから、日が暮れかける前にここを離れる予定だしな。
ああ、当面は現状維持で。
よろしくお願いする。
俺がここに来た本命の転移門に関して、考える。
門が開く場所は、ちゃんと整備されている。
上の建物はまったく出来ていないが、門がある場所は布で隠されている。
さっさと転移門を開き、大樹の村の住人たちで一気に建物を作った方が早いか。
建材も大樹の村から運べば、簡単だしな。
ああ、ダンジョン内の輸送が面倒か。
だが、台地の下から運ぶよりは楽だろう。
よし、そうしよう。
すでに五千人が生活を始めているのだ。
今更、ここから手を引くのも気が引ける。
手を引かないなら、転移門は欲しい。
ここはシャシャートの街に一日の場所なのだ。
……
一日の場所なのに、魔物や魔獣が強いってのはどうしてだ?
シャシャートの街の近くは、魔物や魔獣はあまり出ないと聞いた覚えがあるが?
「開発の手が入っていない場所は、そんなものですよ」
俺の疑問に答えてくれたのはガルフ。
いつの間に?
「丁度、下の森にいまして」
「それはいいタイミングだったな。
で、そのお前の後ろにいる女性は?」
「あはは……」
ガルフが困った顔をしている。
見た感じ、人間。
二十代……半ば?
見た目は剣士だな。
「お初にお目にかかります。
私、当代の剣聖を名乗らせていただいております。
ピリカ=ウィンアップです。
ガルフ様の弟子となることを希望しております」
「ご丁寧にどうも。
大樹の村の村長、ヒラクです」
えーっと……
剣聖ってなんだ?




