普通の人間の冒険者
俺の名はゴンド。
人間だ。
遠い人間の国で冒険者として名を揚げ、稼げる場所を探して魔王国にやってきた。
人間の国は国境だ領境だなんだと面倒だが、魔王国は基本フリー。
冒険者として登録しておけば、大抵の場所にいける。
また、冒険者に対して特に下に見ることなく扱ってくれるので、ある程度戦えるようになった者は魔王国を目指すのが一般的だ。
俺もその一人。
だが、最近は実力がないのに魔王国を目指す冒険者も増えた。
嘆かわしいことだ。
まあ、そういった者は自然といなくなるのだけどな。
なにせ魔王国。
魔物や魔獣の強さが、人間の国に比べて一段か二段上だ。
このシャシャートの街周辺はまだマシだが、それで調子に乗った者が痛い目に遭うのは定番過ぎる話のネタだ。
それゆえ、冒険者登録をする者には厳しい洗礼を浴びせるのが冒険者たちの流儀になっている。
お陰で、再登録という逃げ口上が流行ったのは笑ってしまった。
冒険者になった後で、その資格を失うなんて滅多にない。
……
滅多にいないだけで、本当にいないわけじゃないんだけどな。
さて、俺は十二人からなる冒険者チームの一員で、リーダーをやっている。
リーダーだからとなんでもかんでも思い通りにはいかない。
特に冒険者の仕事は命懸けなことが多い。
仕事を請ける時は、ちゃんと仲間と相談する。
「新しく村を作るから、その周辺の魔物や魔獣を退治して欲しいって依頼だが……
退治する魔物や魔獣の強さがわからないんだろ?
大丈夫か?」
「新しい村を作るって名目で、冒険者に危険な仕事をさせようとしているんじゃないのか?」
「報酬がかなりいい。
裏は取れているのか?」
仲間たちが疑問を口にする。
チームで俺に意見するのを遠慮するやつはいない。
遠慮して死ぬのは誰だってゴメンだ。
「テメェの選ぶ仕事は酷いのが多いからな」
……
とりあえず、ただの悪口には腕力で答えておく。
「村を作るって話は本当だ。
なんでも貴族のお偉いさんの隠居先にするそうだ。
貴族絡みだから報酬がいい。
それと、俺たちには指名で来ているが、他にも複数のチームに声が掛けられている。
普通の冒険者でも参加可能だ。
そんなに無茶な仕事じゃないと思うけどな」
第一、村を作ろうとする場所に強力な魔物や魔獣がいるわけがない。
そいつらを退治して村を作るより、そいつらのいない場所に村を作ったほうが安全なのだから。
その隠居先に行くヤツが魔物や魔獣を理由にゴネたから、念入りに冒険者に退治させようとしているのではないかというのが俺の読みだ。
なんにせよ、報酬はいい。
さらに、宿泊場所、食事は用意されている。
魔物や魔獣も倒した質と量で追加報酬という仕事だ。
仲間たちは、なんだかんだいいながらも、最終的には引き受けるだろう。
しばらく食べられなくなるカレーを、たらふく食べておくことにしよう。
依頼内容に嘘はなかった。
宿泊場所は綺麗だったし、食事も朝昼晩、さらに希望すれば夜中にも出してもらえる。
他にも冒険者チームがいる。
総勢で……二百人を超えるな。
それでも、寝る場所に困ったり、食事量が少なくなったりはしない。
ベースと呼ばれる本部の裏には大量の木箱が積まれている。
あれが全部、中身の詰まった箱だとすると、この依頼は相当本気なのだろう。
心の中で不安に思っていた箇所は次々と潰されていった。
だが、一箇所。
魔物や魔獣の強さだけが、潰されなかった。
そして、この依頼で初めて魔獣を発見し、後悔した。
「嘘だろぉぉっ!」
仲間が絶叫した。
魔獣を前に、素人みたいな真似をと怒りたいが気持ちはわかる。
ウォーベアだ。
ヤツを倒すのに、兵士が最低でも三十人は犠牲になると言われる強力な魔獣。
それが三頭。
一頭、小さいから家族なのかな?
それとも小さいのは雌で、雄二頭が争っている最中だったのかな?
なんにせよ、三頭はこちらに敵意をみせている。
逃げるのは厳しい。
「全員、戦闘用意!
やるぞ!
最後列の荷物持ち!
荷物を捨ててベースに走れ!
応援を呼んでくるんだ!」
俺達は出来るだけのことをした。
幸いなことに死者を出すことなく、応援が到着するまで粘ることができた。
死者はいなかったが、怪我人は多い。
俺も両腕をやられた。
応援に来てくれたやつらも酷い有様だ。
なのにウォーベアは一頭も退治できなかった。
追い払っただけだ。
俺は仕事を引き受けたことを後悔しながらベースに戻った。
ベースでは手厚い治療が待っていた。
治療を頼むと高い金を取る治療師が、遠慮なく治癒魔法をかけてくれる。
この治療代は、依頼主持ちだ。
ありがたいが、これって死なない限りは依頼を続行しろってことだよな?
この状態では依頼が放棄できない。
なにせ回復してしまったのだから。
正当な理由もなく依頼を放棄したら、ペナルティが科せられる。
だが、残念だったな。
せっかく治療してくれたのに悪いが、俺には武器がない。
俺の持っていた武器はメインもサブも失ってしまった。
残っているのは解体用の短刀だけだ。
さらに防具もボロボロだ。
こんな状態で、さすがに戦えとは言わないだろ?
多少のペナルティを受けるかもしれないが、依頼の続行が出来ない正当な理由だ。
武器も防具も新しい物が用意されていた。
武器は、俺が扱っていた物よりも上質だ。
サイズも形状も多種多様。
武器職人が調整の為に待機している。
防具も同様。
防具職人が調整の為に待機している。
……
ハメられた。
俺は治った両腕で、頭を抱えた。
他の冒険者の話では、危険な敵はウォーベアだけではなかった。
木に擬態して襲ってくるウッドキラー。
木の上から襲ってくるジャガーブル。
一撃必殺のキックを持つラビットフット。
魔法を放つ不思議な生物、キーンルーン。
地中から襲ってくる三十センチぐらいのムカデ、キャタ。
昼も夜も関係なく、空から狙って来るコークロウ。
どれもこれも、退治に高い報酬が支払われる魔物や魔獣だ。
もちろん、これら以外にも魔物や魔獣はいる。
これらに比べれば弱いが、それだって油断はできない。
必然、冒険者たちは密集。
集団戦で対処することになった。
顔見知りも顔見知りでない者も協力し、少しずつだがなんとか魔物や魔獣を退治していく。
ウォーベアの一頭を死者を出さずに倒せた時は、大歓声だった。
だが、この俺達の進捗具合に依頼主は不満だったらしい。
依頼主が表立って俺たちに不満を伝えることはないが、新たな冒険者を追加で呼んだことを聞いて察した。
普段なら俺達を信用できないのかと怒るところだが、今回は別だ。
冒険者の追加は正直、ありがたい。
新しくくる冒険者は気の毒だが……
俺たちが集めた情報は、惜しみなく提供してやろうと思った。
新たな冒険者は、ガルフだった。
武神ガルフ。
武器は木剣。
防具はなし。
それでもシャシャートの街の武闘会で圧倒的な強さで優勝した冒険者。
そのガルフが武器を持ち、防具を着ていた。
しかも、仲間を従えている。
俺はこれで助かったと思った。
それは間違いでなかった。
間違いじゃないけど……
森の中を単独行動、俺たちが苦労して倒した魔物や魔獣を軽く倒されると、その……
心が痛い。
その倒した魔物や魔獣の質や量に応じて、俺たちにも追加報酬を払ってくれるけど……
嬉しくない。
でもって、休憩中にあのガルフが剣で軽くあしらわれるのを見ると、泣きたくなる。
あのリザードマンたちは何者だ?
女たちは普通のエルフじゃないのか?
え?
俺たちも練習に参加していい?
……
………………
頑張った。
世の中、上には上がいると知った。
身の程を自覚し、その範囲で生きるべきだろうか?
……
俺は冒険者!
ちょっとでも強さの秘密をもらう!
俺のチームの仲間も同じ気持ちのようだ。
とりあえず、もう一回!
できればガルフさんたちの中で一番弱い人と……
え?
ガルフさんが一番弱い?
またまた~。
ガルフさんがリーダーでしょ?
リーダーなのは、冒険者登録しているのがガルフさんだけだから。
なるほど。
ははは。
人生、時には撤退も必要だ。
え、うわ、まわり込まれた!
ちょっとは強くなっているといいなぁ。




