東のダンジョン調査隊と居残り組
始祖さんは忙しいらしく、聖女はまだ村に滞在中。
聖女を預ける場所は色々あるらしいが、安全を考えると村が一番との事だ。
あと、聖女を過剰に敬わないのも。
どれだけ凄いか俺は知らないからな。
敬った方が良いのだろうか?
……今更だな。
文句が出たら敬おう。
いや、聞いた方が良いかな?
「敬った方が良い?」
「敬うの意味、知ってます?」
敬うの意味は知っているが、彼女は村に来た当初、こう言っていた。
「私は聖女よ。
貧相な村だけど、特別に私を敬う事を許してあげるわ」
即座にフーシュさんに関節を極められていたなぁ。
彼女の成長を喜ぼう。
冬にもなんだかんだと仕事はある。
俺は屋敷の工房で、搾り機に向き合っていた。
シンプルな作りの搾り機なので丈夫だが、細かく調整する必要があるのだ。
「私達がしましょうか?」
山エルフ達がそう言ってくれるが、山エルフ達にはスプリングを搭載した馬車の車体製作の仕事が詰まっている。
これぐらいは俺に任せて欲しい。
違うな。
「車体製作以外の事がしたいだけだな?」
「えへへ」
注文がひっきりなしだからなぁ。
「わかった、この搾り機の調整は俺がやるが……新たな搾り機の作成を頼もう。
ただし、車体製作は遅れないようにな」
「お任せを!」
不思議な事に、別の仕事を加えた方が車体製作の速度が安定するんだよな。
別の仕事を気分転換に上手く利用してくれているのかもしれない。
「この形状のスプリングを発注しても良いですか?
ハウリン村ならやってくれます!」
「それで、ここにちょっと特殊な金具が必要なのですが、これは細かく指示したいのでガットさんに……」
「村長、これぐらいのサイズの木材をあと十枚、お願いします」
一ヶ月後に完成した新型の搾り機は、利用機会の多い獣人族の女の子たちに大いに喜ばれた。
……
俺の調整した搾り機はお役御免だろうか。
「大丈夫ですよ。
こっちも大事に使いますから」
「慣れた方が使いやすいですから」
お前たち……
ホロリ。
無理はしないように。
別に隅でホコリを被ってても構わないんだぞ。
俺の目に触れなければ。
東のダンジョンが見つかった為、調査隊を送る事が検討されている。
東のダンジョンにも、ラミア族や巨人族のように村と交流できる者達がいるかもしれない。
ハクレンの私見だと、いそうにないらしいが……
問題は、調査隊をいつ送るかだ。
冬場に行くのはどうなのだろう?
春で良いんじゃないか?
春は色々と忙しいから、行くなら今。
待て待て、慌てるんじゃない。
「村長、同行したいからって引き伸ばそうとしていません?」
「フラウさんの出産が近いから、今は村から出られませんもんね」
「だから春にと……」
十分な手入れをした武器を装備したハイエルフ達が、俺を攻め立てる。
「まずは我らで安全を確保しますので、村長はその後で」
ダガよ、リベンジの機会を早く得たいからと俺をのけ者にするのはどうなのだ?
「のけ者って……
さすがに安全かどうかわからない場所に村長を行かせるわけにはいきません」
話し合いは続いたが、どうやっても俺は同行できそうになかった。
東のダンジョン調査隊メンバー。
ハイエルフがリアを含めて十人。
リザードマンがダガを含めて五人。
獣人族からガルフ。
インフェルノウルフが二十頭。
調査隊との連絡役に、ハーピー族が五人。
移動補佐にハクレン。
調査隊隊長に、天使族のキアービット。
「え?
なぜ、私が?」
「やり過ぎない為の人選だ。
頼んだ」
ハクレンを代表にすると、止りそうにないからな。
よろしく頼む。
そして、俺がウルザ、グラル、アルフレート、獣人族の男の子達を抑えている間に行くんだ!
ドライム、ホリー、手伝ってー!
ダンジョン探索は危険が伴なうらしい。
ある程度の経験を積まなければ、すぐに怪我……最悪の場合は死に直結するらしい。
しかし、誰だって最初はあると思うんだ!
そういった人はどうするんだ!
……
ベテランに同行して、色々と学んでいくらしい。
なるほど。
えー、じゃあ俺が学ぶチャンスだったんじゃ?
あれ?
みんな、どうして目を逸らすのかなー?
ふふふ。
ダンジョン探索に行けないなら、自分でダンジョンを作ってみるのはどうだろう?
自分で作ったダンジョンなら安全だしな。
そこで練習を積めば、ダンジョン探索に行けるようになるかもしれない。
良いアイディアに思える。
アドバイザーとして……ダンジョンに詳しそうなのは誰だ?
ルーとティアが手を上げてくれた。
あと、ドライム。
ありがたいけど、ドライムはラスティが出産するまでここにいる気か?
奥さんのグラッファルーンと交代で帰ってるから大丈夫?
そうか。
二人共、ずっといる気がするが……まあ、本人が大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろう。
グッチの姿を見ないから、彼が巣を切り盛りしているのかもしれない。
今度、彼の為にお菓子でも作ってやろう。
話を戻して。
「ダンジョンを作るとして、場所は……村の南側に入り口を作って、そのまま南側に広げたいかな」
村の下に作って、崩落なんかさせたら目を当てられない。
「どれぐらいの深さにするの?」
ルーがノリノリでダンジョンの設計を始めている。
「あまり深くは難しいな。
水が出る」
「え?
水脈に当たらなければ大丈夫でしょ?」
「そうなのか?
ある程度掘ったら出てくるが?
今のところ、全部」
大樹の村だけでなく、一村や二村、三村でもそうなんだが……
「それは知ってるけど……水脈、調べてなかったの?」
俺は相当、運が良かったらしい。
あ、いや、ひょっとしたら【万能農具】のお陰かもしれないな。
感謝。
ダンジョンは三階層。
一階層は簡単なダンジョン内にある障害やトラップを配置した練習ゾーン。
二階層はオーソドックスなゾーン。
三階層は竜の巣をモデルにしたゾーン。
……
スケール、大きくない?
これ、掘るのって俺の人力だよな?
頑張るけど。
まず、入り口から斜めに穴を掘り、一階層の深さに。
俺が掘り、ティアのゴーレムが土を外に運んでくれる。
ダンジョン内の換気や明かりはルーが魔法で対処してくれる。
その横で、山エルフ達が笑いながら何か仕掛けを作っている。
攻略不可な仕掛けは駄目だぞー。
ガルフの息子はダンジョンの出入り口付近に石畳を敷いてくれた。
ありがとう。
ただ、デザインが邪悪な感じ過ぎないか?
ダンジョンはビビらせてこそ?
そうかもしれない。
では、この辺りの壁とかはちょっと怖い感じに……
「村長、デザインは後です。
今は先に形を」
はい、頑張ります。
こうして始まったダンジョン作りだが……
そう簡単に完成するわけがない。
冬の間だって仕事はあるのだ。
合間合間にちょっとずつ……
ドライム、その怪しい魔道具はなんだ?
ハーピー族、そこに巣を作るんじゃない。
山エルフ、そのトラップは駄目だといっただろう。
初見殺し過ぎる。
でもってウルザ、グラル、まだ完成してないから。
危ないから。
そうこうしていたら、フラウが産気づいた。