魔法使い
ワシの名はガブルスロー。
魔法使いだ。
若い頃は優れた魔法使いとして各地で活躍し、国から資金を得られる立場になった後は魔法の研究者としての道を歩んでいる。
実績?
若い頃は……本当に色々とやったけどな。
マルゴーストのダンジョンって知っているか?
そう、今では観光ダンジョンとか言われている場所。
あそこを最初に攻略したのはワシのいたパーティだぞ。
うむ。
補欠とかではなく、ちゃんと攻略時もダンジョンに入っていたから。
疑り深いな。
ほら、証拠のダンジョン攻略記念メダル。
ここに攻略メンバーだったと彫られているだろ。
こっちは国から貰った感謝状。
名前があるだろ。
うむ、やっと信じたか。
他にも本当に色々とやったんだぞ。
一番となると……鉄の森のワイバーンと遭遇して、生き残ったことかな。
そう、あの鉄の森のワイバーンと。
死にそうな目にあったが、なんとか逃げ切ったのだ。
残念ながらこっちは証拠はないけどな。
遠慮なく称賛の眼差しを向けたまえ。
え?
魔法の研究者としての実績?
そっちは……ちょっと解り難いかもしれないけど、三レベルの火の魔法を改良し、四レベル相当の威力を出すことに成功したことかな。
……
おい、そこは驚くところだぞ。
ええ、あの火炎魔法を生み出した方ですかって。
知らない?
そんなに有名じゃないのか。
一応、こっち業界じゃ偉業なんだけどなぁ。
まあ、いいや。
ワシの研究は、主に中級魔法の改良だな。
新魔法を生み出したいという思いはあるが、そっちは失敗すると被害が大きいからな。
そう。
第一実験場、昨日の昼に爆発しただろ。
その結果。
ワシはやらないよ。
安全第一だからな。
で、それなりの魔法を改良して本にして残している。
金になるのかって?
なるよ。
この本を読みたがる者は、山のようにいる。
金貨を積み上げての順番待ちだ。
うむ。
凄いだろう。
見たい?
悪いがさすがにそれはちょっと……
疑うなよ。
えーい。
では、ワシがその魔法を使ってみせれば良いだろう。
ほれ。
実験場に行くぞ。
第二のほうな。
「で?
これが研究の成果?」
「みたいですね」
「どうみてもショボい魔法じゃない」
「魔力の消費量が抑えられているので、なかなかの効率かと……まあ、僅かですけど」
魔法を使うワシの横で、なにやら言い合う女が二人。
片方は天使族のようだが……
えっと……
あれ?
どうしてこうなった?
ワシは取材に来た者と一緒に第二実験場に来て、自慢の魔法を披露。
得意気に取材に来た者を見たら、いつの間にか女二人になっていた。
でもってこの女二人。
ワシに次々と魔法を要求。
なんだか偉そうな雰囲気に、従っているが……
ワシ、怒ったほうが良いのかな?
「ねえ、確認するけど。
貴方ってアットマの弟子のガブルスローよね?」
「え?
あ、はい。
そうです」
あれ?
師匠のことを知ってる?
しかも師匠のファーストネーム?
師匠の知り合い?
ワシの師匠って、超有名な魔法使いなんだけど人付き合いが苦手で知り合いらしい知り合いはいないはずだけど。
「じゃあ、本物か。
アットマに推薦されて来たんだけど、これじゃあ第一実験場をぶっ飛ばした魔法のほうが面白そうね」
……
カチーン。
カチーンと来ちゃったよ。
ワシよりもあの爆発馬鹿のほうが良いってことかな?
あんまり舐めた態度を取るなよ小娘が。
このワシの実力は、すでに師匠を凌駕している……と思う。
きっと!
ワシのことを温和な老人と思っているなら、その認識を覆してやろう!
「とりあえず、魔法の効率化ならこれぐらいはやって」
女の一人がそう言うと、目標の木人形が瞬時に燃えて灰になった。
……
今のって、レベル七の魔法を無詠唱?
しかも、魔力はレベル一ぐらいしか使ってない?
……
ごほん。
ワシは温和な老人。
うん。
それで、その……お二方はどういったご用件でこちらに?
用件はスカウトだった。
なんでも塾を始めるらしく、その講師を捜しているのだそうだ。
……
王族専用の塾かな?
違う?
庶民に魔法を教える塾?
そこにこのワシを?
……
い、一応、ワシ、これでも魔法の世界においては有数の研究者なのですが……
……
え?
師匠も参加する?
マジで?
あの師匠が?
外に出たの?
あ、出したのね。
なるほど。
で、その師匠がワシを道連れにしようと名前を……
師匠のボディに一発、キツいのをくれてやりたいのですが、どこにいますか?
三十年ぶりぐらいだけど、遠慮はしませんよ。
ははは。
あー、それで、せっかくのお話ですがワシには仕事がありますので……
え?
ワシは要らない?
爆発馬鹿のほうを連れていく?
ワシはここで研究を続けていろと。
……
熱くならないよ。
ワシはクール。
ムカっとはしているけど、ここで熱くなっても良いことはないって知ってる。
……
あ、お帰りですか。
ではあちらへ。
……
…………
大丈夫。
ワシはクール。
……
………………
待てやコラァッ!!!
このワシよりも爆発馬鹿のほうが良いってことか!
ワシのほうが上って証明してやる!
ワシも行くぞー!
余談ではあるが、ワシの師匠が常に自慢していたことが一つある。
ルールーシー=ルーが自分の師匠だって。
知っているか?
あのルールーシーだぞ。
吸血姫と呼ばれる吸血鬼にして、稀代の魔法使い。
魔道具の作成、魔法薬学においては三指に数えられる。
ワシが師匠の所に弟子入りしたのだって、そのことが大きく影響していたりする。
何が言いたいかというと、ルールーシー=ルーは凄い人だ。
そのライバルなのが天使族のティア。
殲滅天使の二つ名を持つ、彼女も稀代の魔法使い。
ゴーレム使役系の魔法なら世界一とさえ言われている。
こっちも凄い人だ。
……
塾で真面目に働いたら、色々と魔法を教えてもらえることになった。
悪くないかもしれない。
え?
フローラ=サクトゥもいるの?
治癒魔法、教えてもらいたいなぁ。
というか……
ここに集められた面子。
凄くない?
フリー系の魔法使いが勢ぞろいした感じがするんだけど?
あ、暇な時は魔法の研究をしてもOK?
ふふふ。
ワシの実力を披露してやろうではないか。
ところで、いつの間にか戻っている取材しに来た者。
逃げてたな?
ワシを置いて逃げてたな。
違う?
お前も道中にスカウトされた魔法使い?
ワシを呼び出すのを手伝ったと……
ほほう。
つまり、ワシの偉業は知っていたよな。
魔法使いだもんな。
……お前、そこは嘘でも知っていたと言うところじゃないかな。
傷付くよ。
まあ、いいや。
お仲間なら、仲良くやっていこう。
とりあえず……塾生集めだな。
まさか、一人もいないとは。
だが、ワシが……ごほん。
ワシらがいればすぐに集まるだろう。
頑張ろう。