従業員
ビッグルーフ・シャシャート。
ここが私の働いているお店。
貴族のお屋敷よりも大きいの。
ここには従業員が四百人以上いるわ。
最初は十人ぐらいだったのだけど、増えに増えて二百人。
それが一期組。
私はその後に入った二期組。
一期組も二期組も宿無しの子達ばかりだけど、だからって全員の仲が良いわけじゃない。
寝床にしている場所や得意不得意で喧嘩したり、対立したりする。
ビッグルーフ・シャシャートで働けると聞いた時は嬉しかったけど、そこに一期組がいるのは不安要素だったわ。
だって、一期組はゴールディさんのところでお世話になっている子ばかり。
二期組はゴールディさんの声掛けに応じた世話役のところの子達。
派閥が違うの。
その上で、一期組は私達よりも二ヶ月以上も先に働いている。
きっと、仕事の出来ない私を馬鹿にするだろうと思っていたわ。
そんな事はなかった。
一期組は驚くほど親切だった。
そりゃ、失敗したり、馬鹿な事をしたら怒られたりはする。
でも、馬鹿にされたりする事はなかった。
どうしてだろうと疑問に思いながら仕事をして、理解したわ。
つまらない事で、トラブルを起こしたくない。
この仕事を失いたくないという気持ちもあるだろうけど、一番は雇ってくれた店長、店長代理のマルコス様、それにポーラ様に迷惑を掛けたくない気持ち。
それほどの恩義を感じているから、後から来た者を馬鹿にするよりも、鍛えて使えるようにする方が優先。
そうなるのも仕方がないと思うわ。
だって、ここは私達にまともな生活……いや、極上の生活をさせてくれるのだから。
寝る場所は従業員の為だけに作られた家。
寮って呼ばれている。
ビッグルーフ・シャシャートで働く従業員はこの寮に入れるの。
寮は三棟。
男子寮、女子寮、そして子供寮。
男子寮、女子寮はその名の通り、男子だけ、女子だけが入る事ができるわ。
子供寮は、一人で生活するのが難しい子供達が中心の寮。
ここには希望すれば入れるから、子供達の姉や兄達が入っている事が多いわね。
どの寮でも、四人で一部屋。
前はもっと人数が多かったみたいだけど、棟が増えた事で今の人数になったと説明されたわ。
その部屋で、毎日、綺麗なシーツが掛けられたベッドで眠る事ができる。
最初はシーツを汚すのが怖くて、床で寝ちゃったけど今では良い思い出。
寮にはお風呂があるわ。
大きなお風呂。
そこには温かいお湯が沸かされていて、自由に使える。
お風呂を使う時間は班で決められているので、その時間にちゃんと行かないといけない。
お風呂には毎日入るのが決まり。
これはサボっちゃ駄目。
例外は病気の時だけ。
食事は一日三食。
この寮に来るまでは、一つのパンが一日の食事ってのが贅沢な部類だったから、驚いたわ。
しかも、ちゃんとした料理。
例えば朝食。
パンも焼いてから何日経ったかわからない硬いパンじゃなく、その日に焼きあがったパン。
スープは雑草を煮たスープじゃなくて、ちゃんとした野菜を煮込んだスープ。
それに日替わりで何か出る。
茹でた卵とか、焼いた魚とか。
その上で、スープはおかわり自由。
初めての朝食の時は、これでもかってぐらいおかわりしたわ。
これも良い思い出。
今は、他の人の事を考えて、おかわりは一杯で済ませる慎みを覚えている。
昼食、夕食は朝食以上に豪華。
新しい料理の研究とかで、時々は変な料理が出るけど、それだって十分に美味しい。
少なくとも、従業員で食事に文句を言う人はいない。
ビッグルーフ・シャシャートに雇われると、支給される物があるわ。
それが衣服。
仕事の時に着る服が三着、仕事以外の時に着る服が二着、寝る時に着る服が二着。
それに下着。
正直、こんなに大量の服をもらって、どうしたらいいかわからずに困ってしまったぐらい。
自分の部屋に備え付けられた家具の中にしまった時は、ちょっとした高揚感だった。
洗濯の方法も教えてもらった。
衣服は自分で洗うのがルール。
他の人にやらせちゃ駄目。
盗られちゃうから、自分で管理しなさいって事かと思ったら違ったわ。
これは従業員達が作った自主ルール。
洗濯を他の人にさせて、空いた時間で働こうとするのはズルいという事ね。
みんな、ちゃんと働きたいのだから。
靴も支給してくれる。
こっちは一足だけだけど、足に合わなくなったり、壊れたりしたら申請すれば新しい靴を支給してもらえる。
裸足で働くのは駄目なので、大事にしないといけないわね。
さて、本題というか一番大事な話。
それは仕事。
これだけの生活をさせてもらえるのだから、それだけ働かなきゃいけない。
まず、従業員は専用の仕事を持っている人と、それ以外で分けられるわ。
専用の仕事は、料理したり、看板を描いたり、その人じゃないと駄目な仕事。
前は持ち回りでやっていたらしいのだけど、カウンターで注文を受ける仕事も専門の仕事になっちゃった。
専門の仕事を持っている人は、他の従業員から凄く尊敬されるわ。
私も……と言いたいけど、私は残念ながら専門の仕事は持っていないの。
でも、いつかきっと。
専門の仕事を持っている人は、その仕事を。
持っていない人は、班に従って行動。
料理のお手伝い、お客様の列の整理、テーブルの清掃、お水を配る仕事とかね。
あと、遊戯エリアでボウリング、輪投げ、射的のお手伝い、舞台で何かする時はそのお手伝いをする仕事なんかもあるわ。
どの仕事も人気だけど、今日の私はボウリングのお手伝い。
やる事は簡単だけど、それなりに重労働。
これは一つのレーンで、三人~四人でやるわ。
まずは全員でレーンの清掃。
その後、やってきたお客様に並んで挨拶。
ここは笑顔で。
その後、一人を残して残りはレーンの奥、ピンの裏側に移動。
残っている一人は、ボール磨きをしながら、投球タイミングの調整。
お客様によっては投げるタイミングが色々だからね。
それと、乱暴な投げ方とかしないように教えてあげるの。
レーンの奥に移動した人達は、お客様が転がしたボールで倒れたピンを回収し、また並べるの。
ここは分担をしっかりしないと、手間取っちゃうから、ちゃんと自分のやる事を覚えないといけない。
注意点としては、お客様が転がしたボールが、奥に当たるまで触らない事。
倒れたピンが動いている時も、早々に回収しちゃ駄目。
倒れたピンが他のピンを倒す事もあるからね。
あと、転がってきたボールを返却用の横のレールに置いて、倒れたピンの数を知らせる鐘を鳴らす。
舞台の方で何かやっている時は鐘じゃなくて旗ね。
お客様によっては、常に旗の方が良いって方もいるから、希望される方にはその通りに。
ああ、でもお客様の希望でも順番待ちのお客様がいる時は、きっちりと交代をしてもらうわ。
お客様と接する機会があると、チップを貰う事があるわ。
気前の良い人は、大銅貨をくれたり。
チップは、貰った従業員の物というルール。
これは最初、揉めたらしいの。
貰ったチップをお店に渡すべきだって従業員達が。
普通は逆よね。
お店が従業員の貰ったチップを巻き上げる話は聞いた事あるけど、従業員がお店に渡そうとするなんて。
でも、店長代理のマルコス様や、ポーラ様は従業員の物にしなさいと受け取らなかったわ。
お店に何かあった時の事を考え、貯金しておきなさいって。
だからチップは貰った従業員達の物。
まあ、それが普通なんだけど、無駄遣いせずにしっかり貯めているわ。
ちなみに、今度、従業員一同で店長代理のマルコス様とポーラ様にプレゼントを贈る計画があったりするの。
ふふ。
色々と頑張っている私には、目標というかライバルとしてみている人が三人いるわ。
一人は一期組のポッテ。
カウンターで注文を受ける仕事を専門にやっている。
ポッテはその仕事の代表格。
専用のウェイトレス服を着ていて、羨ましい。
私は従業員としめすエプロンだけ。
もう一人が、看板描きのラゼック。
昔は地面に絵を描いてばかりの子として有名だった。
その時はそんなのお金にならないと思っていたけど、今は看板を描く仕事で大活躍している。
しかも、その仕事は店長から直接命じられたらしいの。
羨ましい。
何人かラゼックの手伝いをしているけど、その人達も絵が描ける人ばかり。
私の絵は……ゴールディさんの番犬を描いたのだけど、誰もそうとはわかってくれなかった。
うん、せめて生き物で答えて。
さすがに机は酷くない?
最後の一人が、シャーさん。
料理にやたらと熱心なお客様だったけど、いつの間にか働いていた。
今ではマルコス様の傍で、料理を手伝っている。
時々、料理を食べてハイテンションに語りだすのが欠点だけど、私達に字や計算を教えてくれたりする。
とても丁寧でわかりやすい。
ただ、子ども扱いされる。
そりゃ、年齢的には正しいのかもしれないけど、早く字や計算を覚えて子ども扱いされる事から脱却したい。
でも、計算は難しい。
えーっと、何が言いたいかっていうと、私よりもそっちの三人を見習いなさいって事。
私は三期組として入ってくる二百人の前で、説明する。
あー、なんで私がこんな説明をしているんだろう。
ビッグルーフ・シャシャート。
従業員は順調に増えている。




