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異世界のんびり農家 作者:内藤騎之介
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ゴロウン商会の会議


 小型ワイバーンは、数日で大樹の村とこのゴロウン商会の本店を行き来する。

 一週間に一頭。

 ゴロウン商会に到着した後、一日の休憩後に大樹の村に戻るらしい。

 大樹の村は竜の山の向こう、死の森の真ん中にあるという話だ。

 冗談のような場所だが、そこから飛んで来たというなら長い距離を飛んで来てくれた事になる。

 兎肉をやってねぎらうぐらいは構わないだろう。


 ゴロウン商会は、小型ワイバーンの為に専用の小屋を建てている。

 さらに、街で問題になったり、冒険者に討伐されないようにちゃんと各所に根回しを行った。

 まあ、そんな事をしなくても立派なスカーフを首に巻いた小型ワイバーンを攻撃する馬鹿はいないと思うが、我が商会の主は用心深い。

 現役引退の噂が一時あったが、そんなものを払拭するように今は精力的に活動している。

 若干、若返った気もする。

 秘訣があるなら教えて欲しいものだ。

 おっと、急がないと。

 小型ワイバーンが来たという事は、もうすぐ呼ばれる。

 早く兎肉をやろう。

 ははは、お前も待っていたか。

 慌てずに食べるんだぞ。

 ああ……

 個人で飼えないかなぁ。

 小型ワイバーン。


 私の名はサイドロウ。

 ゴロウン商会に勤めて六十年。

 七十を超えたベテラン……いや、年寄りの一人だ。





 予想通りというか、予定通りに呼ばれた。

 会議だ。

 ゴロウン商会の最高幹部が集まっている。

 今回の参加者は、商会の主、マイケル=ゴロウン会頭。

 次期会頭のマーロン=ゴロウン。

 商会の会計責任者、ティト=ゴロウン。

 商会の仕入れ総括責任者、ランディ=ゴロウン。

 この四人の他に……

 会頭秘書。

 国内流通管理責任者。

 交易事業管理責任者。

 船舶事業管理責任者。

 貴族を専門に対応する特殊外務責任者。

 貴族以外に対応する外務責任者。

 生産部門責任者。

 商会警備責任者。

 ここに、シャシャートの街にある本店の店長として私が参加する。

 少し前までは会頭が店長をやっていたのだが、忙しくなって来たので私に任された。




 会議の内容はわかっている。

 ビッグルーフ・シャシャート関連だ。

 ゴロウン商会に直接の利益は少ないが、あそこの価値を感じれない者はこの場にはいない。

 それゆえ、多忙であってもこの会議にはなんとか参加しようとする。

 まあ、会議の後の食事が目当ての者もいたりするが……それぐらいの役得は構わないだろう。

 美味しいしな。


 会議の進行はマーロン坊ちゃん。

「忙しい中、集まってくれてありがとう。
 感謝する。
 さて、さっそくだが……」

 どうやったのか、ビッグルーフ・シャシャートの運営の一部を任されており、精力的に活動している。

 そのお陰で、少し前までは会頭には不安じゃないかとの声があったが、今では静かなものだ。

「ビッグルーフ・シャシャートの南側に、何を作るかが決まった」

 会議に参加した者から、声が上がる。

 これまで、何度かやりとりした手紙の内容は会議で聞いている。

『大浴場』『学園』『訓練所』『カジノ』

 色々な意見が村長から提案された。



 一番最初に提案されたのは確か『水族館』だった。

『水族館』は聞いた事がなかったので、首をかしげてしまった。

 なんでも、水槽を並べてそこに海の生物を展示する施設とか。

 そんな施設は見た事も聞いた事もない。

 村長は海が近いから集めやすいだろうとの提案だった。

 私としては、海が近いから逆に珍しくないだろうと思ったのだが……調査した結果、驚くべき事に街の者はあまり魚の事を知らなかった。

 大雑把に魚や貝はわかるが、どんな魚なのか、どんな貝なのかは知らない。

 村長は海の生物を展示する事で、食べられる魚介類、食べられない魚介類を周知徹底させたいとの目論みがあるらしい。

 それを知らされて、なるほどと思った。

 魚や貝は毒を持つ物が多く、危険性が高い。

 それゆえ、魚や貝というだけで口にしない者もいる。

 カレー屋マルーラで海産物を具にしたカレーを出したいとの話もあったから、その辺りを見据えての提案なのだろう。

 ううむ、深い。

 また、商人も魚や貝の名前が広まれば、仕入れや販売がしやすい。

 漁師に、この魚が欲しいと言えるしな。

 現状、漁師が持って来た魚を買い取る方式だから狙った魚が手に入りにくい。

 漁師としても、どの魚を高く買い取ってくれるかわからないから、一種類を決めうちして持って来る事は少ない。

 一部、経験や知識のある者だけが良い取引をしている現状に穴を空ける。

 しかし、直接ではないから他から文句は出にくい。

 見事だ。

 ただ、問題は場所。

 ビッグルーフ・シャシャートは、街の北側寄りにある。

 海は南側。

 村長がその辺りを心配していたので、実際に小さな水槽を用意してやってみたが……

 大変だった。

 海水と共に魚を運ぶ。

 それだけじゃ駄目だった。

 村長の話では、水槽の中で魚を生かす工夫が必要なのだそうだ。

 難しい話は私にはわからなかったが、マーロン坊ちゃんは理解したようだった。

 結局、『水族館』は輸送の都合で取り止め。

 ただ、港近くの場所で改めて建設計画が進行している。



 さて、最終的に何を作る事になったのか……

「先に言っておく。
 ここでの話は全て極秘だ。
 妻子はもちろん、親兄弟にも話す事を禁じる」

 いつものセリフだ。

 まあ、この会議に参加している者で、他に情報を流すような愚か者はいない。

 ただ、今日は熱が入っているな。

 何を作るか決まったからかな。

 確かに、情報が漏れて妨害されたり真似されたりすれば、ゴロウン商会としては困る。

 村長は大らかな方だと聞いているが、それはゴロウン商会の有用性を認めているからかもしれない。

 用心に越した事はない。


「ビッグルーフ・シャシャートの南側に作るのは『駅』だ」

 ……

 私は首を傾げてしまった。

 村長の話はわからない事が多い。

「すみません、『駅』とはどういった施設でしょうか?」

 場の空気を読んでか、一番の若手である生産部門責任者が手を上げて質問した。

 マーロン坊ちゃんは、その質問は予想していたのだろう。

 準備していた地図を取り出した。

 地図はシャシャートの街の大まかな地図だ。

 その地図に一つある大きな印の場所は、ビッグルーフ・シャシャートの南側だ。

 そこから伸びる何本もの線。

 色を変えてあるので見やすいが……この線は?

 大通りを通っているようだが……

「この線に沿って馬車を走らせる。
『駅』は馬の休憩場所、車体の整備場所、そして客を乗り降りさせる場所となる」

「荷物の集積地ですか?
 それなら、街の東西に大きいのがありますが?」

 交易事業管理責任者が質問する。

 馬車関連なら彼の管轄になる。

「違う。
 運ぶのは人だ」

「旅馬車でしても、街の東西にありますが?」

「それは街から街への移動用だろ。
 これは街の中の移動用だ」

「街の中の移動用?」

「そうだ。
 決まった時間、決まったコースを馬車が通る。
 乗り降りはどこでやっても構わない。
 計画では、周回コースは三十分に一本。
 往復コースは、一時間に一本の予定だ」

「ああ、なるほど。
 それで線が主要な施設の傍に引かれているのですね」

 確かに、線は東西南北の重要な施設に伸びている。

 一本は、このゴロウン商会の本店だ。

「しかし、乗り降り自由でも、この距離では金を払って馬車に乗ろうとする者はいないのではないですか?」

 それも確かに。

 馬車は楽だが、決して安くない。

 それゆえ、金持ちの象徴として扱われたりする事もあるのだ。

 馬車で来なければ、門前払いする大商会もあるぐらいだ。

 馬車を常用する者は馬車を持っているし、必要に応じて馬車を求める者も馬車組合に声を掛ける。

 利用する者は少ないのではないだろうか。

 いや、利用するだろうか?

 気になるのは料金だな。

「料金はいくらになる?」

 ランディ坊ちゃんが質問する。

 それに対し、マーロン坊ちゃんが少し溜めてから言った。

「無料だ」

 ……

 場が静まった。

 無料?

 無料で馬車を利用させる?

 確かに、それなら乗る者もいるだろう。

 だが、それだと馬車の維持費はどうするのだ?

 馬の為に飼葉が必要だし、御者にだって金を払わねばならない。

 私達の疑問も予想済みだったのだろう。

 マーロン坊ちゃんは言葉を続けた。

「金は広告料で取る」

 しかし、広告料の意味がわからない。

 広告料?

 どういう事だ?

「馬車の側面、それと内側に看板を取り付ける。
 看板の内容は、例えば……」

“柔らかいパンを扱っています。
 マーロンのパン屋。
 場所は北大通りの~”

 なるほど。

 宣伝か。

 これまでの看板は、決まった場所にしか設置されない。

 告知だって、施設の壁面などに書かれるだけだ。

 それを馬車でやる。

 側面は馬車にすれ違う者、ああ、馬車が止まっている時に効果を発揮する。

 内側は乗った客に対してか。

「初回は、ゴロウン商会とカレー屋マルーラが占める事になるだろう。
 しかし、効果に気付いた者は金を出す」

 うむ。

 確かにそうだ。

 金を出しても惜しくはない。

 異論は無い。

 そして気付いた。

 ……

 無料の馬車が街中を行き来する。

 客は乗るだろう。

 これまで時間の都合で行けなかった場所にも移動できるようになる。

 客の流れが変わる。

 いや、それだけじゃない。

 土地の価値が変わる。

 馬車のコース近くの土地が値上がりし、馬車が通らない土地は値下がりする。

 ……

 頭を殴られたような衝撃だ。

 街が変わる。

 他の者も気付いたようだ。

 そしてマーロン坊ちゃん。

「最初に言ったぞ。
 ここでの話は全て極秘だ。
 そして、コースの草案は現状の通りだが……以後の変更、増減は全て、ゴロウン商会に一任された。
 ただし、ビッグルーフ・シャシャートの南側を基点とする事が条件だ」

 ……

 つまり、コースを自由にできると。

 土地の価値の上下、街の客の動きを握る。

 これはゴロウン商会は莫大な財産を手に入れたのと同じ。

 すでにこの街を代表する勢力であったが、これで逆らう勢力は消えるだろう。

 恐ろしい。

 そして凄い。

 誰だ、こんな事を考えるのは。

 マーロン坊ちゃんじゃない。

 会頭でもないだろう。

 この案はゴロウン商会が実行するが、ビッグルーフ・シャシャートに損はない。

 いや、さらに人と金が集まる。

 国内流通管理責任者が質問……というか確認だな。

「この案は例の村長が考えたのですか。
 こちらに数日来ただけだと聞いていましたが……凄まじいですね。
 まるで商売の神様だ」

 確かに。

 今度、教会に寄進に行こう。


 いや、話はここからが本題だ。

「この計画が進むと、ビッグルーフ・シャシャートの南側が現在確保しているだけでは手狭になる可能性がある。
 もう少し確保したい」

「御者、馬、車体の確保を急がねば」

「コース沿いの土地は、確保しておきたいな」

「慌てるな。
 露骨にやりすぎると反感を買うぞ」

「気付く者も出ますね」

「代官には連絡しているのですか?」

「詳しくは話をしていないが、承認を得ている。
 ただ、あの代官だ。
 気付かれている可能性もある」

「ならば、ある程度は代官にも利を配らねばなりませんな」

「うむ。
 しかし、彼は露骨なやり方を好まない。
 少々面倒だな」

「これから払う土地税だけで十分ではないか?」

「土地税か。
 凄い事になりそうだなぁ」

「なに、それ以上に稼げる。
 代官には、西国で仕入れた美術品などは如何ですか?」

 まあ、ここまでは普通の話し合い。

 本当の話はこの後。

 この『駅』はシステムだ。

 馬車は広告収入で運行、客と土地の価格を握る。

 このシャシャートの街で行えば、他の場所で真似されるだろう。

 だが、まだ行っていない今は、自由にやれる。

 つまり、我がゴロウン商会はどこまで手を伸ばすかだ。

「貴族が敵に回ると、そのまま奪われる。
 この街では村長という存在が、商会を守ってくれているが他でやるとなると……厳しいのではないか?」

「となると貴族と友好的な関係を築いている街でとなるか……」

「うむ。
 しかし、さすがに全部とはいかない。
 大きい街から優先してやろう」

「他の街は、やり方を教える事で恩を売るという事で」

「わざわざこちらから教える事はないだろう。
 向こうが頭を下げて来てからで構わないんじゃないか」

「私もそう思うな」

「ふむ」

「ああ、それで一番重要な点だが……」

「王都はどうする?」

「会頭と次期会頭が魔王様と顔を繋いでいますよね……」

 会頭とマーロン坊ちゃんは、止めておこうと首を横に振った。

 見事なシンクロ。

 親子だな。

 その後、重要な話が飛び交い決められていった。


 会議は終わった。

 出てくる食事が美味しい。

 これらも村長関係。

 本店の店長という立場なので、会頭と一緒に食事する機会が多いが飽きたりはしない。

 いや、食べる度に美味くなっている気がする。

 村長の話では、これらも一般の者が食べれるようにしたいと……

 壮大な話だ。

 だが、彼ならやるかもしれないな。

 まだ、チラっと一回だけしか見た事がないけど。



「サイドロウ店長。
 ちょっと良いか」

 おっと会頭がお呼びだ。

「なんでしょう?」

「以前、お主が提案した小型ワイバーンの繁殖と飼育に関してだが、許可が出た」

 おお。

 前々からお願いしていた案が通ったのか。

 これでもっと可愛がれ……違った。

 各地との連絡が密になれば、商会の運営に大きく貢献するだろう。

「今度、そういった事に詳しい者がここにやってくる。
 任せても良いか」

「はっ。
 お任せください。
 何か用意しておく物はあります」

「とりあえずは、今ある小屋で大丈夫らしい。
 まあ、その、偉い方なので粗相そそうのないように頼む」

「わかりました」

 私の返事を聞いたあと、会頭の雰囲気が変化する。

義父おとうさん。
 本当に大丈夫ですか?」

 マイケル=ゴロウン。

 私の娘の夫だったりする。

「なにを心配している。
 今はしがない爺だが、昔は王族相手でも一歩も引かずに商談した男だぞ」

「さすがは義父さん。
 それで、ですね……
 後でバレて怒られるのが嫌だから教えますけど、来るのは門番竜です」

「……え?」

「どうもカレー屋マルーラに興味があるらしく、そこを視察ついでに此処に来て繁殖と飼育を教えてくれるそうです。
 あ、彼は人見知りですから、あまり人の多い場所には連れて行かないように。
 それと、お供にグッチ様が同行されていると思いますので、困った時は彼を頼ってください」

「ま、待て娘婿むすこよ!」

「大丈夫、人間の姿ですから!
 普通の王族と一緒です!」

「違う!
 全然違う!
 あと、普通の王族ってなんだ!
 王族ってだけで特別だろうが!」

「よろしくお願いしますっ!
 初日は付き合いますからっ!」

「ちょ、おまっ!」



 ゴロウン商会は、今日も忙しかった。


サイドロウ。
ゴロウン商会に勤めて三十年目ぐらいに、どこかの支店を任されたら良いなぁとか考えていたら、商会の坊ちゃん(マイケルさん)に娘が見初められて結婚。
親族待遇になったけど、娘に迷惑を掛けてはと地方に出向。
最近になって呼び戻され、本店の店長に就任。
隠居料としての名誉職かなと思っていたら、超ハードだったという……
+注意+
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