一村の豚達
一村で問題発生。
豚を食べることに関して、揉めているらしい。
「駄目だ。
トン子は絶対に絞めさせないぞ!」
「この澄んだ目を見て、食べようって発想が出るのはおかしくないか!」
「もう家族じゃないか!」
「残念だけど、豚は食料よ」
「だから名前を付けるなとあれほど……」
「さっさと持ってきなさい」
男性に食べない派が多く、女性に食べる派が多い。
俺は心情的に食べない派。
当の豚たちは、自分たちを守っているとわかっているのか男性陣の傍から離れない。
「食料が豊富にありますからね。
無理に豚を絞めなくてもという考えもわかりますが……」
獣人族のマムが、困っていますと俺に説明してくれる。
「肉以外にも色々と用途があるだろ?」
「森で狩る魔獣の素材のほうが、高品質ですから」
「なるほど。
しかし、それで食べないとなると豚は食料を消費するだけの存在になってしまう」
山羊や牛は乳を期待できるし、鶏は卵。
馬は移動力や労働力として使える。
豚の繁殖力を考えると、ペットには不向きだろうな。
豚が役に立つ事を示さないと……
俺の考えを読んだのか、豚たちが相談を始めた。
そして、俺に向けてプレゼンを開始。
プレゼン案、その一。
豚レース。
あまり広くない場所で開催でき、それなりに盛り上がるのではないでしょうか?
旗手的な意味で、デーモンスパイダーを乗せるのも面白いと思います。
なるほど。
プレゼン案、その二。
簡易労働力。
専用の荷台を作ってもらう必要はありますが、荷運びのお手伝いぐらいします。
あと、森の硬い土は無理ですけど、家の周辺の土なら柔らかいので掘れます。
なるほど。
プレゼン案、その三。
豚格闘。
世の中は弱肉強食。
弱き者が食べられるのは仕方が無いこと。
しかし、チャンスを下さい。
森にいる牙の生えた兎と勝負し、勝ったらセーフということで。
え?
あれ、兎だけど魔獣だぞ?
大丈夫か?
いける?
やってみせる。
でも、ハンデはもらえるだけ下さいと。
負けたら生きてないでしょうから、そのまま食べてください。
できれば、美味しい料理法で……
そうか。
なるほど。
……
食べ辛いわっ!
そこまで言われて食べられるほど、冷徹じゃねぇ!
もともと絞められないから一村に渡したんだしな!
もう家畜じゃない、ペットだよ!
大事にしてやるよ!
ちくしょう!
レース場と豚用の荷車、作るぞ!
格闘は危ないから駄目だ!
「いいんですか?」
「食料に困るまでは」
「豚って年に何回も出産しますよ。
数年で凄いことになりません?」
「知ってる。
その時になって考えよう」
大丈夫だ。
あいつら、俺にプレゼンするぐらいには賢いから。
後日、豚小屋の増築をすることになったが……
生まれた子供の大半が、二村、三村に譲られた。
「食は大事ですから」
「可愛いがるだけでは生きていけません」
二村、三村から怒られた。
彼らは豚を家畜としてキッチリ扱うようだ。
頼もしい。
そして、反省。
一村は……
豚たちが創造神を崇め出した。
見事な抵抗だ。
一村では、引き続き簡易労働力やレースで使っていくことになった。
仕方が無いな。
うん。
その日の夕食はマイケルさんのところから仕入れた豚肉を揚げたものだった。
美味しかった。
思考と胃袋は別。
身勝手だと思いつつ、俺は食後のお茶を飲んだ。
消えた未来
牙の生えた兎「テメェら豚に俺が負けると……な、なんだ、あの妙な迫力」
豚A「アイツを殺れば、食べられなくて済むんですよね。へへっ、やってやりますよ」
豚B「お前がやられても、次は俺が行く。後は任せな」
村長「ハンデで兎の牙、折っとくか」
牙の生えた兎「贔屓が酷過ぎるっ!」
つい、書いてしまった。