太陽城の燃料問題
太陽城城主補佐筆頭、ベル=フォーグマは頭を抱えていた。
彼女は役目を与えられてから、ずっと太陽城の奥に引き篭もっていた。
それゆえ、彼女は何も知らなかった。
太陽城が悪魔族に占領され、現在はクズデンが城主になっていること。
魔物、魔獣が暴れ、太陽城の施設の大半が崩壊していること。
そして太陽城の燃料がほぼ尽きかけており、太陽城の機能のほとんどが失われていること。
「新しい支配者、城主は構いません。
私に一言も相談がなかったことにはキレそうですが」
「完全隔離されてる状態のベルに相談って無理だろ」
ベルが文句を言っているのは、太陽城の水晶石。
この水晶石、正しくは名前があり、ゴウ=フォーグマという。
ベルに教えてもらった。
察するに姉弟?
太陽城の城主を補佐するために作られた人工生命体だそうだ。
ベル、ゴウを含めて全部で十六体製造され現存しているが、生命活動をしているのはベルとゴウだけ。
先の太陽城の燃料不足問題から、活動を停止しているのだそうだ。
ゴウも水晶石の姿なのは、燃料を無駄使いしないための対策。
「どうしてここまで深刻な燃料不足になっているのですか?
予定していた備蓄量なら、五千年は飛べるはずでしょう」
「あー……えっと……聞きたい?」
「是非」
「この城って、元は人間の王様が金を惜しみなくつぎ込んで作った別荘的な城だろ」
「そうですね。
私たちはその時に管理用として生み出されました」
「その後、王様が予言にハマってベルに役目を与えて隔離しただろ」
「思い出してもムカつきます」
「その後、二十年ぐらい後で王様が亡くなって、後継者争いが勃発。
この城の所有権がとある道楽貴族の手に渡ることになったんだ」
「無常ですね」
「その道楽貴族、金に困って太陽城の備蓄燃料を売り払いやがった……」
「は?」
「それでも支払いが間に合わず、最終的には城を神人族……あ、天使族ね。
ベルも天使族って言わないと怒られるぞ」
「わかりましたから続きを」
「城を天使族に売ったんだ」
「…………」
「その後、天使族によって城は戦闘用に改造。
燃料の補給は行われたけど、武装の使用にまた燃料が使われて……魔族の反撃で魔物を送り込まれた時、ピンポイントに最後の備蓄燃料庫が襲撃されてパア。
で、城内に残っている燃料だけでなんとか現在に到ると」
「なるほど。
とりあえず、何百年前か知りませんがその道楽貴族はブチ殺したのでしょうね?」
「残念ながら。
城を売った後、五十年ぐらい道楽三昧を続けてベッドの上で孫に囲まれて死んだらしい」
「よし、呪ってやる。
その貴族の名前と子孫の詳細を」
「子孫は関係無いから止めてあげて」
暴れるベルを水晶石が宥める。
そんな感じの光景を見ながら、俺たちはラスティの運んできた食材を使って料理を楽しむ。
太陽城で作られているダンジョンイモを美味く食べる方法がないかと、カレーに放り込んでみたが……
カレーは万能だな。
不味い味が綺麗に隠れた。
食感はしっかり残っているので、量を増やすにはいいかもしれない。
しかし、ダンジョンイモをワザワザ育てようとはならないな。
どうしたものか。
……
これだけで悪魔族が生きてきたのだから栄養価は高いのだろう。
イモだよな。
酒になるかな?
酒になったとしても問題は味だが……
良い味の酒ができたら、価値が出るな。
問題はクズデン達がここでダンジョンイモを生産し続けるならという前提の話だ。
「クズデンたちは、この後どうするんだ?」
カレーを楽しんでいるクズデンに質問する。
「あ、はい。
みんなと相談しましたが、できればこのままここでの生活が続けられたらと考えています」
故郷に知り合いが生き残っているかもしれないから、数名は様子見に行くらしいけど、戻ってくるとのこと。
「なんだかんだと五百年も生活していますからね。
あ、俺はまだ三十年ほどですけど」
「それは夢魔族もか?」
「ええ。
共同生活の形が出来上がっていますから」
なるほど。
強制でなく、自分の意思で残るなら問題はない。
となると……
俺の不安をベルがこちらにやってきて伝えてくれた。
「燃料の残量を計算したところ、太陽城はあと三年ほどで航行不能になります」
ベルの言葉にクズデンが慌てた。
そりゃ慌てるか。
安住の地が飛べなくなるのだから。
「飛べなくなるならどうしようもないだろう。
地上に降りる場所を作ったらどうだ?」
「え、地上って……」
クズデンの視線の先はクロの子供たちだった。
「地上に降りたら魔物や魔獣にまた蹂躙されてしまいます」
太陽城の防御は、飛行していることだからな。
そうか……
あっ!
「燃料不足なら、燃料を仕入れたらどうだ?」
うっかりしていた。
ガス欠なら、補充すれば良いんだ。
俺の提案にクズデンが賛同。
しかし、ベルが首を横に振った。
「太陽城の燃料は希少な鉱物から精製していまして、そう簡単に手に入る物ではありません」
「そうなのか?」
「はい。
太陽石といいまして、常に熱を発する希少品な鉱物です。
それが山のように必要なのです」
希少品ならどうしようもないな。
いや、魔王や始祖さん、ドースに聞けばなんとかなるかな?
「ね、いいかな」
考えている俺を、ルーが突っつく。
「どうした?」
「太陽石って、保温石のことだけど」
「……へ?」
「昔は希少品だったけど、大鉱脈が見つかって値崩れしたから……」
俺はそのままベルを見る。
ベルの顔は真っ赤だった。
まあ、隔離されていたのだったら仕方が無い。
うん、色々と勉強していこうな。
保温石なら温泉地で採掘できるし、マイケルさんに頼めばそれなりの量を確保できるだろう。
カイロ代わりに包んでいた保温石を見せて、間違いないことを確認。
「とりあえず、どれだけ必要なんだ?」
「当面は十キロほどあれば……」
それぐらいなら温泉地で掘ったほうが早いな。
「太陽城の運行は完全にコントロールできるんだな?」
「はい」
「じゃあ、北の……地図あるか?」
俺の要望に、ベルが手を動かして地面に地上の様子を映し出す。
おお、ハイテク。
一部、畑になっている部分は畑のままだが……
太陽城は温泉地を目指すことになった。
ハクレンたちに輸送してもらうことも考えたが、飛行距離は短い方が良いからな。
それと同時に、クズデンが大樹の村に臣従を申し出てきた。
「今後のお話の途中でしたが……
俺たちだけではここを復旧するのは厳しいようです。
太陽城様……ゴウ様も、そのようにしたほうが良いとおっしゃっていまして」
「根無し草の城よりは、どこかに所属したほうが安全ですから」
ベルも賛同する。
ぶっちゃけ、保温石の代金の話になると、どうしようもないのでお願いしますとのことだ。
その代わり、城に残っている技術やアイテム類は全て差し出すとの提案内容。
即断したいところだけど、村の住人と相談するために持ち帰る。
「よろしくお願いします」
クズデンに並び、ベルも頭を下げる。
ゴウは水晶石だから頭を下げられないが、下げようとする気持ちは伝わってきた。
良い返事ができるように頑張りたい。