十年目の春
春が来た。
起きたザブトンとも挨拶。
ザブトンと猫の初会合は……問題なし。
まあ、猫が即座に降伏のポーズをしたのだが、ザブトンが許したようだ。
そういえば、猫がクロと初めて会った時も似たようなことになってたな。
動物は上下関係をつけないと落ち着かないのかな?
ともかく春。
春なので、名残惜しそうにビーゼル、グラッツが帰った。
ガルフもビーゼルに転移魔法で送ってもらい、ハウリン村に帰った。
寂しくなる。
気分を改めて、レッツ農業タイム!
と、その前に会議。
今年も一年、よろしくお願いします。
屋敷の会議室に種族の代表が揃い、会議が始まる。
大樹の村代表、俺。
インフェルノウルフ代表、クロ。
デーモンスパイダー代表、ザブトン。
吸血鬼代表、ルー。
天使族代表、ティア。
ハイエルフ代表、リア。
鬼人族代表、アン。
リザードマン代表、ダガ。
ドラゴン代表、ラスティ。
獣人族代表、セナ。
ドワーフ代表、ドノバン。
魔族、文官娘衆代表、フラウ。
山エルフ代表、ヤー。
ミノタウロス族、二村代表、ゴードン。
ケンタウロス族、三村代表、グルーワルド。
ニュニュダフネ族、一村代表、イグ。
ハーピー族代表、マッハ。
マッハは、ハーピー族のベテランの一人。
村に来た時に挨拶されたが、存在感が薄い。
ハーピー族は集団で動くので個性を出すのが難しいらしい。
実際、個別の名前も無い。
それで生活できるのかと思ったが、どうにかなっていた。
どうにかなっているなら、気にしない。
気にしないが、俺が困ったので種族代表者としてマッハを名乗ってもらうことにした。
命名は天使族の相談で。
他に種族として悪魔族のブルガ、スティファノがいるのだが、例年通り辞退となった。
ラスティに仕えている立場で、村の運営の話し合いには出難いという遠慮だ。
スライムとは意思疎通失敗。
蜂はザブトンの子供を通じて辞退を伝えられた。
代わりにいるのが、各種族の世話役四人。
獣人族世話役、鬼人族メイドのラムリアス。
ミノタウロス族世話役、リザードマンのナーフ。
ケンタウロス族世話役、文官娘衆のラッシャーシ。
ニュニュダフネ世話役、獣人族のマム。
彼女たちに発言権は無いが、傍聴は許可された。
なんにせよ、大人数だ。
だが、それらを収容して余裕のある屋敷の会議室。
これまでサイズの関係で会議室の外から参加だったザブトンも、室内で参加できる。
今年の会議の議題は、順にこうなった。
『冬の間の問題確認』
『今年の活動方針』
『褒賞メダル関連』
まず、冬の間の問題確認。
大樹の村は問題なし。
いや、あるにはあるが、会議で共有する内容ではない。
例を言うなら、猫の寝床問題や、クロたちがコタツを占有する問題。
扉をキッチリ閉じないことによる隙間風問題や、俺の部屋に私物を置く問題……
いわゆる家の問題というヤツだ。
他の住民たちもそんな感じ。
冬の間の食料、燃料に問題はなく、余裕があったとさえ言える。
一村、二村、三村でも同様。
大きな問題は無い。
強いて言えば、一村、二村、三村から、防衛を担っているクロの子供たちに何かしてやりたいがどうすれば良いだろうかという相談が出たぐらい。
防衛中は仕事しているワケだから、クロの子供たちは気を抜かない。
交代で休んでいるが、その時は大樹の村にいる。
一村、二村、三村からすれば、クロの子供たちが常に働いているように見えてしまうのだろう。
あまり気にしなくて良いと言いつつ、大樹の村に来た時に遊んでやれば良いのではないかと提案しておく。
クロが尻尾を振っていた。
同じく防衛を担っているザブトンの子供たちは良いのかと思ったら、そちらは適度に交流しているから問題ないとのこと。
ザブトンの子供たちは、交代じゃなく住み込みみたいなものだからな。
なんでもマクラぐらいの大きさに育った個体も出ているそうだ。
名付けが必要になった場合は、各村に協力してもらおう。
あと、慶事として冬の間にミノタウロス村で二人、子供が産まれた。
今度、お祝いを持って見に行こう。
今年の活動方針。
今年は、二村、三村で通常農業をしてもらう。
これが最優先だ。
理由は、俺の【万能農具】に頼りっきりだと、【万能農具】が使えなくなった時に村が崩壊してしまう。
それを避けたい。
大樹の村では引き続き、俺の【万能農具】での農業を続けるし、果樹系は毎年実をつけてくれる。
二村、三村での通常農業が全滅は……厳しいが、収穫量が少なくてもなんとかなるだろう。
頑張ってほしい。
次に、工業系。
サスペンション搭載型の馬車をマイケルさんに返したら、注文が来た。
量産を考えてパーツを五台分用意していたが、ビーゼルや文官娘衆が欲しがっているので足らない。
文官娘衆たちは実家に送ってプレゼントしたいらしい。
スプリングをハウリン村に追加発注することにする。
商業関連は、冬の間に作った加工品の販売だ。
主に酒、油、塩、砂糖、漬物、ジャム、ジュースなど。
これはすでに実行済みなので、売れた量の報告だけ。
冬の終わり頃からマイケルさんに卸し、ビーゼルやハウリン村、ドライム、ドース、始祖さんたちに販売している。
他にチーズやバターなども作っているが、これは村で消費してしまうので販売できない。
マヨネーズも商品として価値があるが、俺がマヨネーズの賞味期限を知らないので販売はしない。
お腹を壊されても困るしな。
村で作った分を村で消費するスタイル。
ビーゼル、ドライム、始祖さんが物凄く欲しそうな目で見てくるので、売らずに贈っておいた。
ともかく商業に関しては、マイケルさんからの報告書待ち。
それを見て、次の冬に生産する物の量を決める。
並行して畑で何をどれだけ作るかになるのだが……
大樹の村の一回目は、無難に去年とほぼ同じ。
一部、鬼人族メイドの希望で調味料系の増加、ルーの希望で薬草の種類追加が行われることとなった。
褒賞メダル関連。
今年も褒賞メダルを配る。
大樹の村の住人に、一人三枚。
種族代表者に十枚。
クロたち、ザブトンたちには一族で三十枚。
いつもと違うのは、一村、二村、三村に関して。
去年は、各村に三十枚を与えて、各村の個人には渡さなかった。
今年は、各村に三十枚、各村の個人に一枚ずつとなった。
もう少し渡したいのだが、やはりまだ貢献が足りないと各村から遠慮された。
この会議の前に何回か打ち合わせた結果なので、そのまま進む。
特別扱いとして、蜂に二枚。
酒スライムに二枚。
温泉地で番人をやっている死霊騎士に二枚を渡すことになった。
蜂にはいつも美味しい蜂蜜を貰っているしな。
酒スライムは……まあ、最近、子供たちと色々やってるみたいだしな。
死霊騎士も、一人であそこを守らせているのだ。
今度、持っていって希望を聞いてやろう。
ちなみに、子供たちへの褒賞メダルは……獣人族の男の子たちに三枚渡す以外は、基本的に無し。
褒賞メダルは村のために働いている者に渡すからだ。
なので、まだ働いていないウルザやお手伝いレベルのナートには渡せない。
逆にリザードマンの子供でしっかり働いているのには渡すことになっている。
この辺りは、各種族の代表の申告制になっている。
……始祖さんに五枚ぐらい渡した方が良いだろうか?
考えておこう。
……
さすがに猫には渡せない。
本来ならこれで会議が終わる予定だったのだが、会議中に連絡が来た。
始祖さんからだ。
念話というのかな?
ルーが受け取り、俺たちに教えてくれた。
以前、フーシュの依頼で薬を作ったお礼を持ってきたいとのことだ。
どんなお礼なのかなと思っていたら、人だった。
子供がまだいない夫婦になった男女十組、計二十人。
種族は主に人間。
一部、ハーフ的な者もいるとのことだ。
一村の住民として使ってほしいとのこと。
確かに俺が求めていたものだ。
「しかし、ルーはこれで良いのか?」
お礼はお前たち用にと伝言したのだが……
「問題無いわ。
始祖様に聞かれた時、村長が喜ぶものをって言っておいたから」
感謝の言葉しか出ない。
さて、予定していない人員が来ることで、会議が続けられる。
主に一村代表のニュニュダフネのイグと、世話役のマムが中心で。
受け入れ態勢、生活用品の用意、当面の仕事内容、防衛に関しての再確認。
一気に忙しくなった。
会議が終わった後に用意している宴会用の料理が遠のく。
タケノコ料理とか、色々準備したのに……
いやいや、会議が長引いただけ。
料理が消えたわけじゃない。
屋敷のホールから明るい声が聞こえてくるが……きっと気のせいに違いない。
新しい春にカンパーイとか聞こえるが、誰が音頭を取っているのかな?
そういえば、会議が長引いたら先に始めてていいって言ったような気が……
「さ、先に食事するのは?」
「駄目だ。
戻ってこない」
「酒だけでもこっちに……」
「駄目だ。
酒の話がメインになる」
「では、今日はここまでにして残りは明日……というのは?」
「……明日、きっちり会議するか?」
全員の揃った返事。
全員の意識が扉の向こうに行っている。
春だしな。
仕方が無い。
今日はここまでにした。
なんだかんだで作中は十年目に突入。
これからも頑張ります。