ヤメののんびり島生活 その五
あーしの名はヤメ。
そして、あーしの後ろで寝転んでいるのはインフェルノウルフ。
一頭で街を一つ、滅ぼす力を持つ魔獣。
特徴は、額から伸びる角かな。
島にインフェルノウルフがいるのは、村長から預かったから。
大樹の村の群れで、馴染めなかったからと。
いずれ大樹の村に戻るだろうから、名はつけていない。
名をつけるなら、村長がつけるべきだろうしね。
でも、インフェルノウルフと呼ぶのは長いので略称で呼ぶようになった。
ルノと。
最初はインだったんだけどね、本人がそれはやだと拒否したから。
そんなルノは、今日も宿のリビングに設置されたコタツに入って、顔だけ出してまったり寝ている。
さっきご飯を食べたからかな。
ああ、ルノはべつに島で食っちゃ寝をしているわけじゃないよ。
ちゃんと仕事を与えている。
まずは宿と宿の周辺の警備。
宿や宿の周辺でなにかあったときは、戦力として出る。
まあ、これまでなにかあったことはないけど。
一応は戦力。
次に、島全体の見回り。
ルノに限らず、インフェルノウルフは足が速い。
あーしがいろいろやりながら、島の海岸を一周するのに十日ぐらいかかったのに、インフェルノウルフは半日もかけずに一周する。
見回りには最適だ。
さすがに毎日は大変なので、十日に一回ぐらい。
天気のいい日に頼んでいる。
まあ、こちらもなにかあったことはない。
……
自宅警備しながら、天気のいい日に散歩に行ってるだけ?
それは仕事と言えるのか?
いやいや、仕事だと思うよ。
島にトラブルがないから、楽に見えるだけ。
なにかあったら大変なんだから。
きっと。
そんな話を少し前に山エルフたちとしたからか、島にトラブルが来た。
南の海岸に、海の種族たちが逃げるほどの狂暴で大型の魔獣が上陸。
どれぐらい大型かというと、えーっと。
大きな木を超えるぐらいの高さがあると言えばいいのかな?
形が複雑だから、大きさを表現しにくい。
まあ、あれが砂浜を動くだけで振動があるぐらいの大きさ。
その大きな魔獣は、絶望アザラシと呼ばれているらしい。
一度、狙いを定めるとなかなか諦めないやっかいものだと海の種族たちが教えてくれた。
その大きな体で体当たりなんかされたら、そこらの家など吹き飛ばされるだろう。
音楽を演奏する魔道具を設置した小屋や、港があるあたりに上陸しなくてよかった。
でも、このままじゃ困る。
困るからなんとかしないといけないのだけど、なんとかする前に絶望アザラシは帰った。
ルノが来たから。
絶望アザラシは「インフェルノウルフがいるなんて、聞いてないですやん」と言わんばかりに、沖合から鳴き声をあげていた。
ルノが吠え返すと、慌てて逃げたけど。
ルノは当然という顔をしながらも、海の種族たちから褒め称えられてご満悦。
尻尾がぶんぶん振られている。
うん、今日のルノの夕食は、ルノの好きな骨つきのお肉にしてあげよう。
翌日。
朝食後のルノはいつも通りコタツから頭を出してまったり寝ている。
いつも通りに安心する。
今日は平和だったらいいな。
昼前に、村長が鬼人族メイドやハイエルフを引き連れてやってきた。
もちろん、転移魔法を使った始祖さんも一緒。
ん?
一頭のインフェルノウルフが村長の後ろにいた。
珍しい。
村長がインフェルノウルフを連れて来るときは大勢なのに、一頭だけとは。
またルノみたいに、なにかあったインフェルノウルフなのかな?
うちは、そういった犬の受け入れ先じゃないんだけど。
あ、犬じゃなかった。
あーしが心のなかで言い間違いをしたのに気づいたのか、そのインフェルノウルフがのそりと村長の前に出た。
そして周囲を見渡し……コタツで寝ているルノを発見。
近づいて小さく吠えた。
ルノはゆっくり目を開き、ルノに近づいたインフェルノウルフを見てまた閉じた。
夢だと思って、もう一回寝たみたい。
でも、ルノに近づいたインフェルノウルフはそれを許さず、大きく吠えた。
今度のルノは目をはっきり開いた。
そして、目の前のインフェルノウルフを見た。
……
ルノは大きく溜息を一つ。
ゆっくりとコタツから出て、悲鳴をあげながら全力であーしの後ろに逃げ込んだ。
昨日の雄姿はどこにやったのかな?
ルノはあーしの背後で、「聞いてないですやん」とヒュンヒュン鳴いている。
えーっと。
あーしは村長を見た。
村長は持ってきた魔道具を鬼人族メイドやハイエルフたちと一緒に、宿のあちこちにセットしようとしていたけど、まずは説明はほしい。
村長はすまないと言ってやってきた。
「今回の魔道具は物を乾かす魔道具で、あれがシーツなどの衣類を乾かす魔道具。
あっちが食器などを乾かす魔道具だ。
なんでも乾かすってわけじゃないから、注意だぞ」
あー、それはそれで興味があるけど、説明がほしいのは、あーしを中心にぐるぐるとルノを追いかけているインフェルノウルフに関してなんだけど。
ひょっとしてルノの母親?
違う?
じゃあ?
姉?
ルノを気にして、様子を見にきたと。
なるほど。
で、ルノはその姉を……苦手にしているみたいね。
あーしを中心に逃げ回りながら、あーしを見てなんとかしてと鳴いている。
あーしにできることは、あまりないんだけどなぁ。
仕方がない。
ルノ、とりあえず外へ。
あーしの言葉に従い、ルノが扉から外へ逃げる。
それを追いかけるルノの姉。
だけど、それをあーしがブロックする。
うわっ、すごい殺気をぶつけられた。
怖っ!
あーしは、弱いんだからそこまで全力にならなくても。
だったらどけと言われると、そうなんだけど……
一応、ルノを預かっている身だからね。
追いかけまわすなら、邪魔するよ。
様子を見るとか、話し合いなら手伝うんだけど?
ルノの姉が困った様子で、村長を見た。
村長は魔道具の設置をしている。
物を乾燥させる魔道具以外にも、いろいろあるみたい。
食器を洗う魔道具?
あー、汚れたままの食器に使うんじゃなくて、軽く洗ったあとに使うのね。
そのあと、食器を乾燥させる魔道具に移動させると。
……
そこまでできるなら、一緒にはできなかったの?
洗ったあと、そのまま乾燥って。
いや、その状態でも十分、便利だけど。
大樹の村だと鬼人族メイドたちが導入で揉めてる?
食器の乾燥は許せても、食器を洗うのを魔道具に任せるのはどうかと。
なるほど。
それでべつになっているのね。
うん、こっちはこだわらないから。
何回かはちゃんと洗えているか厳しくチェックするけど……
ルノの姉に強く吠えられた。
くっ、ごまかせなかったか。
仕方がない。
ルノの姉の相手をしよう。
あーしは弱いけど、これでも悪魔族。
ルノをこれまで撫でまわした実力を甘くみてもらっては困る。
かかってきなさい!
あ、ごめん。
宿のなかはやめよう。
外で。
うん、外。
ここで暴れると、いろいろ壊れるし。
宿からちょっと離れたところに開けた場所があるから、そこで。
あと、盾を持ってきてもいいかな?
時間稼ぎじゃないから。
村長もそんな心配そうな顔でみないで。
大丈夫。
あーしは不死身なんだから。
ルノの姉はなかなか手強かった。
あーしも頑張ったけどね。
でも、あーしが死んでないのは、ルノの姉が手加減していたからだと思う。
そして、あーしはちょっと回復した魔力をかなり使って、ルノの姉を海まで飛ばしたのだけど、あれはやりすぎだった。
反省。
ルノの姉が泳げて、よかった。
川や池で泳ぎの練習をしていると。
でも、海は初めて。
だから、波に戸惑っていたのか。
ルノの姉は砂浜に戻っても、海をかなり気にしてた。
戦っているあーしのことを忘れるぐらい。
そのまま忘れてくれないかなぁーと期待したけど、駄目だった。
思い出したルノの姉としばらく戦った。
戦いの結果は引き分け。
あーしの盾は壊れたというか、砕かれてしまったけど。
でも、村長と一緒に帰る前に、ルノの姉とルノを引き合わせた。
ルノはかなり嫌がったけど、姉弟なんだから、できるだけなかよくしてほしい。
まあ、どうしても合う合わないがあるから、無理にとは言わないけどね。
ルノの姉が帰ったあと、しばらくルノはあーしのことを尊敬の目で見てきた。
?
あ、あーしの戦い、見てたのかな?
いやいや、あれはルノの姉が手加減してくれたからだからね。
あーしは弱いから。
負けないだけ。
頼りにしちゃ駄目だよ。
あーしはそう言いながら、新しく設置された魔道具の説明書を読む。
尊敬の目は、あーしじゃなくてもっとべつの人とかに向けるように。




