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ゴドレイク伯爵夫人の提案


 僕は足を肩幅に広げ、左手を腰の裏に。


 右手は握って親指を自分の胸に向ける。


 僕の名はミケル。


 アルフレートくんの案内役さ。


 ……


 頑張って考えたポーズだけど、アルフレートくんやカトウさん、そして母からいろいろと指摘された。


 うーん、奥が深い。




 さて、ゴドレイク伯爵とのお茶会は、ゴドレイク伯爵夫人とのお茶会に変わった。


 伯爵夫人の話の中心は、アルフレートくんの持つ美容品。


 この美容品。


 アルフレートくんが初めてレイワイト王国に来たときに、女性向けのお土産として用意した物。


 ただ、アルフレートくんがレイワイト王国の文化、習慣を知らなかったから仕方がないのだけど、美容品はお土産としては向いていない。


 レイワイト王国では男性が美容品を贈るのは、基本的にはマナー違反。


 簡単に言えば、「これを使って綺麗になってください」ということになるから。


 それは「あなたのいまの容姿はイマイチですね」に置き換えられる。


 喧嘩を売っているのと同じ。


 男性に奥さん用、娘用として渡しても駄目。


 奥さんの容姿、娘さんの容姿、イマイチですねととらえられる。


 唯一の例外が、香水。


 これは「私の好みの香りをまとう女性になってください」という意味になり、プロポーズ扱いになる。


 なぜ香水だけと言いたいけど、そういう文化、習慣なんだから諦めてほしい。


 なんにせよ、そういった理由でアルフレートくんの持ち込んだ美容品はお土産として出せなくなった。


 事情を理解している母には渡せたけど、一人で使うには量が多すぎた。


 どうしたものかと悩みつつ、倉庫で眠らせていたところで、資料館で王子たちの手伝いをする貴族令嬢たちと知り合った。


 美容品はお土産として渡せない。


 だけど、顔見知りに試供品としてなら渡せる。


 試してみて、よかったら買ってね。


 となるから。


 まあ、アルフレートくんはお土産の在庫処分がしたいだけで、販売は考えていないみたいだから試供品は方便になるけど……


 建前は大事。


 ということで、アルフレートくんの持ち込んだ美容品は、資料館で王子たちの手伝いをする貴族令嬢たちの手に渡った。


 それは知っていた。


 僕もその場にいたから。


 ただ、試供品として配られた美容品のその後は知らない。


「試供品として配られた品、フォカから譲り受けて使わせてもらったけど、とても素晴らしかったわ」


 とても評判がいいみたいだ。


「できれば、定期的に購入させていただきたいのだけど可能かしら?」


 伯爵夫人の顔は微笑んでいるけど、目が笑っていない。


 知ってる。


 母が自分の意見を通したいときにしている目と同じだ。


 その目に気づいているのか気づいていないか、アルフレートくんは普通に返事をする。


「ありがとうございます。

 ですが、私はこの国に店を構えていませんので定期的にはむずかしいですね」


「あら、そうなの?

 いくつかの店に関わっているとフォカから聞いているけど?」


「それらは飲食の店になります」


「そこを拠点にはできないの?」


「むずかしいですね。

 美容品は丁寧に保管しなければなりません。

 片手間で管理して、利用者の美容に問題があっては困ります」


「たしかにそうね。

 では、私が懇意(こんい)にしている商会に卸すのはどうかしら?」


「それでは私に利益(メリット)がありません」


「……わかりました」


「美容品を新しくご用意できたときには、すぐにフォカ嬢にお知らせするようにしますので……」


「美容品を扱うあなたの店を用意しましょう。

 そこでの利益はすべて、あなたの物です。

 それでどうです?」


 アルフレートくんが返事に詰まった。


 すかさず、僕が援護する。


 アルフレートくんは、我が王国に学びに来ている客人。


 関係している店も事業も、すべて別の者を代表に立てておりますので、あまり無茶を言わないでください。


 できるだけ丁寧に言った。


「では、代表も用意しましょう」


 諦める気がないようだ。


 どうしたものかと思ったところで、後方で控えていたカトウさんがバイクから降り、アルフレートくんの横にやってきて耳打ちした。


 それを受け、アルフレートくんが深呼吸。


 そして……


「伯爵夫人の提案、まことにありがとうございます。

 持ち帰って検討させていただきます。

 お返事はできるだけ早くしますので」


「あら、ここで決められないの?」


「はい。

 なにぶん、コーリン教の客人の身分ですので。

 あまり勝手はできません」


「………………わかりました。

 よいお返事を待っております」


 お互い、にっこり。


 これで伯爵夫人は退席した。



 お茶が新しく用意されて、一息。


 ゴドレイク伯爵から、あらためてアルフレートくんと僕に謝罪。


「ほんとうにすまん。

 言い訳になるが、妻がこれまで頼っていた美容品を扱う商会にトラブルがあってな。

 焦っておるようなのだ」


 トラブルですか?


「うむ。

 あー、とある国の公爵家が後援している商会なのだが、そこでの美容品の生産に公爵家の令嬢が関わっていてな」


 その公爵家の令嬢が、結婚でもされて生産に関われなくなったとか?


「王族との婚約が破棄されて、国外に追放となった。

 以後、行方不明だ」


 なんと。


 それで、その商会の美容品の質が悪くなったと?


「詳しくはわからないが、なんとか質は維持しているようだ。

 ただ、いくつかの品の販売が中止になっている」


 その代わりが、アルフレートくんの美容品と。


「そのようだ」


 事情はわかったけど、アルフレートくんには関係ない話だ。


 アルフレートくんがどうする気かは知らないけど、僕としては美容品の販売まで手を広げるのはまだ早いと考える。


 飲食店やトイレ事業、あと無人島の開発とかいろいろやってるし。


 手を広げすぎると、どれもこれも中途半端になる気がする。


 戻ったら、アルフレートくんにそう伝えよう。


 そう思ってアルフレートくんをみたら、彼はゴドレイク伯爵に質問をしていた。


「確認したいのですが……そのとある国の公爵家の令嬢の名はわかりますか?」


「たしか、エカテリーゼという名だったはず」


 アルフレートくんが、ちょっと引きつった顔をした。


 なんだろ?


 知り合いだったのかな?




 ゴドレイク伯爵のお茶会を終えて、僕たちは戻った。


 そして、アルフレートくんはゴドレイク伯爵夫人からの提案を僕の母にぶん投げた。


 できる人に任せろ。


 お茶会の最中のカトウさんの耳打ちは、そういう内容だったらしい。


「あそこの夫人は強引ですからね。

 わかりました。

 こちらでなんとかしましょう」


 母に、以後の交渉も任せるみたい。


 まあ、それが正解か。


 母は伯爵夫人と顔見知りみたいだし。


「それで、方針はどのように?」


 アルフレートくんは提案を断るのかなと思ったら、引き受けるそうだ。


「国を出たエカテリーゼさんは魔王国に来て、私やウルザ(姉)、ティゼル(妹)の友人となっている。

 彼女が関わった事業の影響……というには少し遠いが、手に入らなくなった品の代用品ぐらいは、私のほうでなんとかしてやりたいなと」


「すばらしい考えです」


「ですが、私がやれるのは仕入れの手配までです。

 販売や販売網の構築には手を出しません。

 あと、美容品を利用しての派閥の構築や争いに巻き込まれるのは困ります」


「わかりました。

 品目に関しては……伯爵夫人と相談して決めたほうがいいでしょうね」


「そうですね。

 できれば商品名ではなく、使用者の年齢と欲しい効果をまとめていただければ。

 数は……保管期間にも限界がありますので、希望数が絶対に手に入るとは思われたくありません。

 場合によっては丸顔狐族(ラウンドフェイス・フォックス)の商人に頼る必要があるから……」


 母とアルフレートくんは話し合いを続けた。


 えーっと。


「ミケル、なにかあるのですか?」


 あ、いや、その……ゴドレイク伯爵から情報提供があったから。


 シルバーシルク伯爵家を守る話もしたいなぁと。


「ああ、そっちはすでに手を回しています」


 そうなの?


「あなたが少し前に連れてきた貴族が、いろいろとお話してくれましたので」


 あー、カトウさんが飛び膝蹴りを差し上げた貴族。


 その関係者だったのか。


「ふふ。

 まったく、アルフレートくんはコーリン教のお客さまだと言っているのに、理解できない人が多くて困りますね」


 母は笑顔だけど、笑ってない目だった。


 怖い。





貴族令嬢A 「美容品を贈るのは女同士でも駄目です」

貴族令嬢B 「駄目ですね。喧嘩を売っています」

貴族令嬢A 「美容品は、自前で用意するのが基本ですから」

貴族令嬢B 「贈って許されるのは、向こうからお願い(おねだり)された場合だけですね」

貴族令嬢A 「香水なら、大歓迎ですけど」

貴族令嬢B 「あー、でもその場合も匂いに意味があるので」

アルフレート「……知らない文化だ」

ミケル   「面倒くさいね」

王子たち  「美容品は女性の縄張りと覚えれば簡単だぞ」

ミケル   「つまり?」

王子たち  「関わるな。手を出すな」



伯爵夫人のお茶会の要約

伯爵夫人  「試供品、試した。サイコー。化粧品、欲しい」

アルフレート「無理、店もってない」

伯爵夫人  「知り合いの店に卸して」

アルフレート「それだと値が高くなるし、こっちにメリットがない」

伯爵夫人  「じゃあ、あなたの店を用意しましょう。店長はあなた。従業員もつけちゃう」

アルフレート「……(あれ? 逃げ道、塞がれた?)」

カトウ   「偉い人に相談しましょう(敗北は受け入れるように)」

アルフレート「(ぐぬう)持ち帰って返事します」

伯爵夫人  「即決即断が商人の基本では?」

アルフレート「コーリン教の偉い人を交渉窓口にするから。それで許して」


その後

フーシュ  「若いのいじめるな」

伯爵夫人  「だってー」

フーシュ  「私がもらったぶん、分けてあげるから」

伯爵夫人  「おかのした」

フーシュ  「店舗は広げないようにね。仕入れに限界があるみたいだから」

伯爵夫人  「こっちで生産は?」

フーシュ  「厳しいみたい」

伯爵夫人  「それは残念」

フーシュ  「あと、例の公爵令嬢の生存は確認できたわ。ケイルランド地域連合王国よ」

伯爵夫人  「連れてこれる?」

フーシュ  「やめておきなさい。死ぬから」

伯爵夫人  「危ない組織が関わっているの? 貴女がそう言うぐらいの?」

フーシュ  「天使族」

伯爵夫人  「……近寄らない」

フーシュ  「理解が早くて助かるわ」



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おかのしたはマズい
伯爵夫人  「おかのした」 伯爵夫人あんた何者やねんw
更新お疲れ様です。 丸顔狐族の商人「もう、アルフくんは仕方がないなぁ、はい、キレイニナール(美容液)」
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