統一王の旅の思い出の続きの続き
俺は統一王。
五村に滞在し、ティゼル嬢の父親との会談を待っている。
けっして、観光と食事を楽しんでいるわけではない。
ティゼル嬢の父親との会談は、重要な会談になるはずだ。
さすがの俺も緊張する。
その緊張をほぐすために、観光と食事は必要なことだ。
うん、必要。
食事は理解できるけど、観光はよくわからない?
馬鹿者。
この五村の代表こそ、ティゼル嬢の父親。
国を見れば王の性格がわかるように、街を……あ、いや、村を見れば村長の性格がわかる。
だから、俺は五村を観光することでティゼル嬢の父親の情報を集めているのだ。
いや、白鳥レースを見に行きたいだけではない。
近くは通るけど、目的はその奥にある神社と呼ばれる神殿。
複数の動物の神を祭っているらしくてな。
信者じゃなくても見学が可能らしいから、見ておきたい。
あと、五村の麓にあるコカトリス牧場。
あの伝説の魔獣コカトリスが多数、飼育されているらしい。
これも、見ないわけにはいかないだろう。
いやいや、コカトリスの卵を使ったラーメン店が目的ではない。
行くけど。
それは店が近い場所にあるからであって、店が目当てではないぞ。
うん。
あー、しかし、五村内を移動する馬車に無料で乗れるのはいいな。
馬車の行先……路線というものを覚えるのが少し大変だが、覚えたらとても便利だ。
山の中腹に掘られた円状のトンネル内を移動する人を運ぶゴーレムにも興味はあるが……あれは人の出入りが激しくて近づくのがむずかしい。
でも、人を運ぶゴーレムの目的地である地下商店街には行ったぞ。
いろいろな服や装飾品を売っている場所だ。
そこで新しいマントを頼んだ。
完成はかなり先になるが、六竜神国にまでは送ってもらえるから、ティゼル嬢宛ての輸送品と一緒に国に届く。
もちろん、代金は先に払っているぞ。
そして、俺のマントだけでなく、部下たちに配る土産も頼んでいる。
王はケチケチしないのだ。
ははは。
あ、いや、昨日、白鳥レースで勝ったことは関係なく。
お、お小遣いのなかで、やりくりしてるから。
王として、五村を見て回って感じたのはその綺麗さだ。
そこらに汚物がない。
理由は簡単。
五村の数少ないルールに、排泄は決まった場所でするようにと定められているから。
昨日、雇った案内人からも、最初に注意された。
五村がどれだけ広くても、多くの者たちがそこらで排泄すればあっというまに汚れる。
それを防ぐには、そういったルールが必要だ。
そして、そのルールを守らせるために、五村はあちこちに公衆トイレを用意している。
その公衆トイレも日に何度も清掃され、清潔さが保たれている。
不快な匂いもない。
定期的に交換される草花の香りが心地よい。
これならルールも守ろうというものだ。
誰だって汚いよりは、綺麗なほうがいい。
次に、公衆トイレの近くに設置された公衆の手洗い場。
トイレで用を足したあとは、手を洗う。
五村での数少ないルールの二つ目。
どれだけ急いでいても、トイレで用を足したあとは手を洗わなければいけない。
これは、排泄物が病気のもとになるかららしい。
そこらで排泄しなくても、排泄物に近かった手がそのままでは意味がない。
だから流水で洗えと。
なんだったら、トイレで用を足していなくても手は洗ったほうがいいと推奨されているぐらいだ。
ここからわかるのは、五村の代表であるティゼル嬢の父親はかなり綺麗好き。
もしくは、病魔を恐れている。
過去に大病に苦しんだことでもあるのだろうか。
そういった話題は避けたほうがいいのかもしれない。
余談だが、五村ではトイレ内で暴れることや、トイレや手洗いの邪魔をすることを、ものすごくタブー視している。
ルールで定められているわけではない。
ただ、自然と五村の住人たちのなかで形成された文化なのだろう。
しかし、喧嘩している最中に、トイレ中断や手洗い中断があるのは驚かされた。
まあ、トイレ中断や手洗い中断を挟むと冷静になって喧嘩が鎮まるけど。
そうそう、トイレを故意に壊した者は、かなり重罪扱いされる。
殺人を犯した者と同じぐらいに。
考えてみれば、ティゼル嬢もトイレ事情の改善を最初にやっていたな。
……
トイレは綺麗に使おう。
ほかに五村を見てまわって感じたのが、文字や計算を教える場所がそれなりにあること。
そして、それらの場所はたいてい多くの生徒で賑わっている。
五村は教育に熱心なのかもしれない。
俺の国にも教えに来てくれないかと教師役の者に接触しようとして、逃げた。
教師役、天使族だった。
そうだった。
ここは天使族の父親の村。
天使族がいるよな。
ゴーレムの工場にもいたし。
油断してた。
しかし、五村では天使族が恐れられていないんだな。
少し前まで、天使族が魔王国に対して攻撃していたのに。
んー、天使族だから、裏で魔王国と取引していてもおかしくないか。
だから軍人以外は、それほど天使族を敵視していないと。
なるほど。
恐るべし天使族。
文字や計算を教える場所が多いからか、文字の書かれた紙があちこちに張り出されている。
目立つのは新聞と呼ばれるもの。
五村の最新の情報が書かれている。
それが無料で読めるのは驚きだ。
聞けば、新聞を個人で買うこともできるらしいが、人気がありすぎて入手は困難だそうだ。
まあ、新聞を集めることを目的にしているのでなければ、外に張り出されている物で十分。
……
人気のラーメン店ランキングか。
上位はだいたい食べているが……
この四位のところ、まだ食べていない。
今日の夕食はここにしよう。
新聞以外に張り出されているのが、チラシと呼ばれるもの。
商品の宣伝や、店への案内が書かれたものだな。
絵があったりして、なかなか目を楽しませてくれる。
珍しいと思うのは、商品の宣伝の紙に商品の値段が書かれていることだ。
ラーメン店でもそうだったけど、五村では商品の値段がはっきりしている。
これはありがたい。
俺のような旅人でも、安心して買い物ができる。
大抵の場所だと、旅人ってだけで値段を吹っかけてくるからな。
買い物をするにもいちいち値引き交渉しなければならず、面倒だった。
あとは……本を売っている店がある。
本だけを専門に売る店は見てないが、雑貨を扱っている店や、飲食店の片隅で本が売られている。
飲食店によっては、置いてある本を自由に読んでいいところもある。
ふーむ。
本が娯楽として浸透している。
やはり文字を読める者が多いのだろう。
そして、この様子だと本を書いて生計を立てている者もいるに違いない。
これが文化的ということか。
羨ましい。
ただ、本の内容が恋愛物に偏っている気がする。
俺好みの軍記物は見かけない。
まあ、飲食店で読むなら軍記物より恋愛物か。
どこかに軍記物がある場所……
そういえば図書館があると昨日、雇った案内人が言ってたな。
行ってみよう。
図書館の蔵書の数に驚かされた。
その大半を一般公開しているのは、いいのだろうか?
本が傷まないだろうか?
本は読まれてこそだと言っていたが……
本は財産だぞ。
余計なお世話だろうが、盗難とか破損を考えて図書館にやって来た者から保証金を取るのはどうだろう?
そう図書館の職員に提案してしまった。
だけど、図書館の職員は笑って、五村の住人で図書館の本を乱暴に扱う者はいないと答えた。
うーむ。
一般の住人が、本を大事にする。
五村の凄さに圧倒されるな。
そして、図書館の本の大半が恋愛物だったことに衝撃を受ける。
魔王国では恋愛に飢えているのかもしれない?
違う?
軍記物もあるけど、あまり読み物として完成されていないからお薦めできないと。
読んで面白いのが恋愛物。
最近、そういったのを書く人が増えたと。
な、なるほど。
とりあえず、職員のお薦めの本を時間の許す限り読んだ。
……
積極的な女性が多いな。
文化の違いをすごく感じた。
征服王 「魔王国と裏取引をしていたか。恐るべし天使族」
天使族A 「冤罪冤罪冤罪! やってないから!」
天使族B 「え? そうなの?」
天使族C 「ティアさまとかキアービットさま、普通に魔王国に侵入してたけど?」
天使族A 「民間人や民間施設を攻撃しないって程度の紳士協定があるだけ」
天使族B 「あー、裏取引じゃなく、紳士協定ね」
天使族C 「なるほど冤罪だ」
征服王 「……」
図書館の職員 「これがお薦めです」
征服王 「!!!」
図書館の職員A「誰だ! 無垢な旅人に異端書を薦めた馬鹿は!」
図書館の職員B「すごい勢いで逃げました!」
図書館の職員A「捕まえろ! 旅人もだ! 我らの常識が誤解される!」
図書館の職員B「なんか旅人のほう、村長の客っぽいっすよ。ヨウコさまの護衛が来てましたから」
図書館の職員A「…………責任問題になるか?」
図書館の職員B「わかりませんが、捕らえます?」
図書館の職員A「駄目に決まっている! あー、たしか軍記物を目当てに来たんだったな」
図書館の職員B「来館時にそう言ってました」
図書館の職員A「譲渡できる軍記物を用意。旅人の宿に届けろ」
図書館の職員B「賄賂ですか?」
図書館の職員A「新しい本で、異端書のことを忘れてもらうだけだ」
図書館の職員B「承知しました」
図書館の職員A「逃げた職員のほうは確実に捕らえろ。こっちは許さん」
図書館の職員B「頑張ります!」
白銀騎士 「五村の紹介だから」
青銅騎士 「ひさしぶりに出番があるのではないかと」
赤鉄騎士 「ずっとスタンバッてました……」
白銀騎士 「青銅は店の名前でチラチラ出てるだろう!」
青銅騎士 「そっちはスタジアム関係でチャンスがあるくせに!」
赤鉄騎士 「……存在感がほしい」
ファイブくん 「(まだだ。まだ慌てる時間じゃない)」
腰、ご心配をおかけしました。
まだ完治はしていませんが、動けるようにはなりました。
ですが無理せず、当面はのんびり更新でいきたいと思います。(書籍化作業もあるので)
よろしくお願いします。
あと宣伝になりますが、「異世界のんびり農家」のコミックス17巻と、スピンオフコミックス「異世界のんびり農家の日常」8巻が9月9日に発売になります。
こちらも、よろしくお願いします。




