パイロットスーツとヤメの力
村に戻ってきたウルザと、ラナさんから譲られた多目的人型機動重機に関して相談する。
ウルザのところで使わないなら、新たな用途を考えないといけない。
しかし、ウルザは大歓迎と。
パイロットの育成もしないと駄目なんだが?
大丈夫?
それじゃあ、多目的人型機動重機はウルザのところに。
場所が確保できたら教えてくれ。
輸送をドースを通じて、ドースの部下に頼むから。
可能であればと頼んでいたパイロットスーツが、村に運び込まれてきた。
ぱっと見た感じ、パイロットスーツは二つのタイプに別れる。
ダボっとしたものと、ピッチリしたもの。
その二種を基礎に様々な装飾が施され、多様なデザインに仕上がっている。
それら見慣れないデザインに、ザブトンたちが喜んでいる。
そして、ヨルも。
自分に合うパイロットスーツがなく、多目的人型機動重機を操縦できなかったから。
やっとだな。
ああ、好きに選んでいい。
サイズ調整をザブトンに頼もう。
ん?
ピッチリしたパイロットスーツでいいのか?
ピッチリしたパイロットスーツは性能がいい?
ダボっとしたパイロットスーツは複数人での使いまわしが前提で、ピッチリしたパイロットスーツは一人の専用だから?
専用なだけに性能がいいわけか。
まあ、ヨルがいいならかまわない。
……
クリムも頼むのか?
ジークフリート以外に乗るのに必要と。
まあ、そうだな。
しかし、サイズが……ああ、子供用のパイロットスーツもあるのね。
子供用のパイロットスーツは、体の成長を考えてか総じてダボっとした感じだ。
クリムはピッチリしたほうがよかったと言っている。
なに、すぐに成長するさ。
そうクリムの頭を撫でていると、ザブトンがやってきた。
俺のパイロットスーツはどうするのかって?
あー、どうしよう。
乗りたい気持ちはある。
だけど、一回か二回乗ったら満足しそうでもある。
そのために用意してもらうのは悪い。
だから、俺よりユーリのぶんを先に用意してやってほしいかな。
うん、魔王の娘のユーリ。
この村に来ては、多目的人型機動重機を楽しそうに乗っている。
ユーリはパイロットスーツを着なくても動かせるけど、着たほうが安全みたいだから。
俺のは、余裕があったらでいいよ。
ヤメさんは村に馴染んだ。
最近は、よく父猫のライギエルと一緒にいる。
父猫のライギエルは……ヤメさんに逆らえない感じ?
逃げたそうだけど、逃げずに耐えている。
だからか、母猫のジュエルが父猫を返せと怒っている。
その怒っているジュエルを膝の上に乗せて、なだめるのが最近の俺の日課。
さて。
ウルザが用意してくれたヤメさんの無人島。
行かないという選択肢はない。
とりあえず、秋の収穫が始まる前に一度、行ってみたい。
そのために準備してきたけど……
グッチに言われたので、ブルガかスティファノのどちらかを連れて行きたいのだけど、ヤメさんが嫌がりそうなんだよなぁ。
ヤメさんからいろいろと話は聞いたが、いくら幸運を得られるからと殴るのはよくないと思う。
そのあたりの話を、グッチ、ブルガ、スティファノから……グッチはドライムの巣で、ブルガはククルカンの世話で手が離せないようなので、スティファノに聞いた。
「村長、誤解というか認識のズレがあります」
どういうことだ?
「えーっと、村長、ヤメをか弱い悪魔だと思ってません?」
違うのか?
ブルガは、ヤメさんは弱いって言ってたぞ。
自分で自分を封印したエピソードも、将軍に負けてだろ?
「違います。
ヤメは悪魔族のなかでは最強格です。
将軍に負けた話は知っていますが、あの将軍に勝てる悪魔族はほぼいませんよ」
……そうなの?
「そうなのです。
あの将軍、人間なのにめちゃくちゃ強かったんですから」
へ、へー。
え?
でも、ブルガがヤメさんを弱いって言ってたのは?
「ヤメ、弱点が多いから……すぐ死んじゃうんですよね」
弱点?
「ええ。
それと、精神が弱いので……」
あー、それはなんとなくわかる。
でも、そんなヤメさんを殴るのは……
「私たちが殴ったぐらいで昔のヤメにダメージは入りませんよ。
もちろん、私たちのなかでヤメを殺せた者はいません」
そうなの?
「昔のヤメと私たちの力の差を例えるなら、ハクレンさまと幼いヒイチロウさまです。
ヤメがハクレンさまですよ」
つまり、親と子ぐらいの差?
「ヴェルサさまほどではありませんが、ヤメは私たちよりも古い悪魔ですから」
な、なるほど。
子が親にじゃれている感じか。
殴るのも、悪魔族の文化的なものか?
「そんな文化はありません。
殴るのはヤメのためでもあるんですよ」
どういうことだ?
「ヤメは攻撃されることで、攻撃を貯めますので」
?
「簡単に言えば、相手の攻撃を覚え、それと同じ攻撃を出せるんです。
ヤメは持ち前の耐久で耐えますし、死にません。
なので、相手は自分の攻撃で……」
む、無敵の能力?
「いえいえ。
弱点が山のようにあります。
そのうちの一つが、攻撃された回数しか攻撃できないことです」
十回殴られたら、十回しか殴り返せないと。
「はい。
ですが、貯めることができるので、戦わない相手から殴られることで攻撃を貯めるんです」
な、なるほど。
「殴ると幸運になるというのは事実ですが、それは攻撃されるための餌です」
そうだったのか。
「はい。
なので、ヤメは自分から殴られるように動いてますよ」
そう言えば、殴りませんかと誘われたなぁ。
断ったけど。
つまり、俺のヤメさんに対する認識が変だった?
いや、待て。
……連れまわしは?
ヤメさんが嫌がるのに、グッチたちが連れまわしたと言ってたけど?
「さきほども言いましたが、ヤメは最強格ですが弱点も多く……ほうっておくと、あっさり殺されたり、死んだりするので」
安全のために?
「殺されても死んでも復活しますが、精神がタフではありませんから。
面倒くさいんです」
そうなの?
あ、いや、負けて自分を封印する程度には面倒くさいか。
「まあ、その、私たちの活躍を見せつけたい気持ちもありましたが」
その割に、ヤメさんに対して敬意がないようにみえるが?
「私たちが敬意を示したら、ヤメが狙われるじゃないですか」
あー。
「当時の私たちは暴れていましたから、なんだかんだと敵が多かったので」
だから連れまわすことで守っていたと。
「そのつもりだったのですが……
私たちの仲間と思われて、さらに狙われるようになってしまったことは否定できません」
おおう。
「私たちが起こしたトラブルに巻き込むことや、私たちがやらかしたことの後始末を頼むことも……」
うーん。
顔を見たぐらいで気絶するほどの負担をかけるのは……
「グッチさまやブルガはかなりヤメを気に入っているので。
その、加減できない子犬と思っていただければ」
ヤメさんを押しつぶす二頭の大型犬の子犬の姿を想像してしまった。
ん?
スティファノはそれほどじゃないのか?
「私もヤメは好きですよ」
子犬がもう一頭、追加された。
無人島に、ブルガとスティファノのどちらかを連れて行く話は、ヤメさんに話して決めることになった。
スティファノの予想では、ヤメさんは嫌がっても拒否はしないそうだ。
実際、そうだった。
●グッチのヤメ評価
グッチ 「悪魔族の大半はなかなか死なない、不死みたいなものです。なのに“死なない”ことで有名なヤメは、とても変で面白い」
ヤメ 「面白いで、あーしの死ぬところを何度も観察しようとしたのは忘れないから! あと、あーしを盾にした回数、グッチが一番多いから!」
●ブルガのヤメ評価
ブルガ 「私の全力攻撃を避けずに受け止める。すごい!」
ヤメ 「だからって、こっちが寝ているときに奇襲をかけるのはどうかと思う。痛くないわけじゃないんだからね」
ブルガ 「ダメージ、入ってないって聞いてるけど?」
ヤメ 「やせ我慢に決まってるっしょ!」
●スティファノのヤメ評価
スティ 「ヤメの弱点の一つなのですが……自分の攻撃が返されていると感じたら、普通は攻撃を弱めるか中断しますよね? そうなるとヤメからの攻撃方法がほかで貯めたぶんだけになるので、なかなか勝ちきれないんですよね。ヤメ、足はそんなに速くないから相手に逃げられると追いかけられないし」
ヤメ 「み、見逃してやってるだけ。あーしが相手するまでもないからね」
スティ 「勝ちが少ないから、よく知らない悪魔族はヤメを軽くみて……グッチさまとかブチ切れるんですよねー」
ヤメ 「そうなの?」
スティ 「ヤメ、グッチさまを一回、ボコボコにしてるから」
ヤメ 「あ、あれは、向こうが意地になったというか……直前に竜族に攻撃されてたから」
●プラーダのヤメ評価
プラーダ「悪魔族が竜族に仕える話、あれ、ヤメをなんとかしようと竜族が考えたことも一因ですよ。悪魔族が仕えますとなったとき、竜族はヤメはどこだーってなりましたから」
ヤメ 「え? そうなの? 知らなかった」




