夏の終わりと初秋
ルーやティアは知っている。
効率的な仕事には、適度な休憩が必要なことを。
なのに、ミスがでるほど疲労してまで、なぜゴーレム作りをやっているのか?
求められているからということもあるが、それよりも重要なのは夢中になっているからだ。
ルーは魔道具を楽に作る方法として。
ティアはゴーレムの新たな可能性を感じて。
魔合鉄というゴーレムに最適な素材が入ったのもあるだろう。
さらには、貴重で重要な魔石が山積みであるという村の環境も加わった。
なにが言いたいのかというと、ルーとティアは楽しんでゴーレム作りをやっているということだ。
だから、強制的に休ませたときになだめるのが大変だった。
そして、五村の麓にある追尾荷車の生産工場の横に、物を冷やす魔道具の生産工場ができていた。
……
俺の目の前にあるから、幻覚ではないのだろう。
なかではゴーレムたちが働いている。
建物はハイエルフたちが。
でもって山エルフたちが必要とするゴーレムの仕様書をまとめ、完成したゴーレムの配置したわけね。
ごくろうさま。
えーっと。
作られている物を冷やす魔道具は、ドアが一つだけの家庭用の小型冷蔵庫みたいな感じ。
重量はわからないけど、大人が頑張れば一人で持てるかな。
あ、中身が入っていなければ軽いのね。
まだ試運転段階だから、一日に五台が限界だそうだ。
十分な気がするなぁ。
そして、少し遠い場所でゴロウン商会のマイケルさんと、シャシャートの街で頑張っているミヨが、物を冷やす魔道具の搬入先を交渉しているが……
あの二人に決定権があるのだろうか?
二人で話をまとめてから、こっちに持ってくるのかな?
こっちはまだ販売価格とか決めてないんだけど。
ああ、そのあたりもマイケルさんとミヨで話し合っているのね。
助かる……と言っていいのかな?
大きいサイズの物を冷やす魔道具の販売はいつ?
それは俺に聞かれても。
近くにいた山エルフたちの話によると、最初の操作でサイズを変えられるらしい。
ただ、大きいサイズにして失敗すると損害が大きいから、まずは小さいサイズで作っているそうだ。
なるほど。
賢い。
大きいサイズの物を冷やす魔道具……もう冷蔵庫でいいか。
大型の冷蔵庫は、近いうちにだな。
その試作品は……たぶん、五村の俺の関係する店に先に配るんじゃないかな。
洋菓子店フェアリーフェアリには、すでにあるからそれ以外。
クロトユキとか、青銅茶屋とか、甘味堂コーリン、麺屋ブリトア、酒肉ニーズなどに。
その次は、村議会関係かな?
村議会の食堂や警備の詰所とかにあれば喜ばれると思うし。
一般の販売は、それらに配ったあと……
あ、貴族関係を優先しないと面倒なんだっけ?
魔王やビーゼルにも聞いておこう。
とりあえず、追尾荷車の生産工場の管理をしている三人の天使族に、冷蔵庫の生産工場の管理は任せるとして……
「村長、さすがにそれは無理です」
「無理」
「増員をお願いします。
あと、行方不明だった床の掃除をするゴーレムを新たに発見しました。
深い穴に落ちてました」
そう言われたので、こちらは村の天使族……マルビットに相談しておこう。
行方不明だった床の掃除をするゴーレムを発見できたのはいい話だ。
あと一体だな。
「はい。
名前をつけても?」
いいけど、私物化は駄目だぞ。
前に見つけた床の掃除をするゴーレム、君の部屋の床の掃除を専任させていると聞いているが?
「保護しているだけです」
それで俺が納得するとでも?
「納得してください。
今度、撫でさせてあげますから」
床を掃除するゴーレムを?
「私の頭でもいいですよ?」
ははは。
とりあえず、床を掃除するゴーレムの製造費はこんな感じなんだけど?
「うっ」
第一、工場用なんだから、部屋の掃除だと性能を持て余してるだろ?
広い場所で、性能を十分に発揮させてやったほうがゴーレムも幸せじゃないかなぁ。
「ぐぬぬぬ……では、寮内で」
それなら認めよう。
……俺が甘いって?
知ってる。
夏の収穫が始まった。
夏が終わる。
もうすぐ秋かぁ。
などと考える暇もなく、収穫する。
収穫の合間に収穫にゴーレムが使えないか考えるが……
「誰かが操作しているならともかく、自動で収穫させるのはちょっとむずかしいですね。
村長の耕す畑は同じ大きさで同じ形ですが、ほかの場所では畑の大きさや形が違うのが普通ですから」
山エルフの意見になるほどと頷く。
前にティアがゴーレムを使って収穫を手伝ってくれたが、あのときはティアが細かく操作していたからな。
「収穫用のゴーレムよりは、収穫を助ける魔道具のほうが便利で使い道が多いかと」
そうだな。
「あとは……収穫物を運ぶ魔道具ですね」
山エルフは、畑と畑のあいだの道を移動する追尾荷車を見る。
その追尾荷車には収穫物が溢れんばかりに載せられていた。
「大活躍です」
そうだな。
ただ、追尾荷車が畑に入ったり、溝や水路に落ちたりしないように、追尾荷車を使う者にもそれなりに練習が必要だった。
しかし、ひとたび使えるようになるとこれまでよりも運送力が増え、かなり助かっている。
ちなみに、追尾荷車の追尾先を指定するベルトをつけているのは、クロの子供たちだ。
これまで収穫の手伝いはできなかったので、かなり喜んでいる。
イモ畑などではザブトンの子供たちが収穫し、クロの子供たちが運ぶという形ができあがっていたりする。
「ザブトンさんの子供たちが乗って操るゴーレムなら、収穫できるかもしれませんね」
そうかもしれないが、ザブトンの子供たちが直接収穫したほうが早くないか?
もしくは、ザブトンの子供たちが入って操作するフウマのような人形とか。
「うーん、ザブトンさんの子供たちと相談してみます」
かまわないけど、作るのは手が空いているときに頼むぞ。
「も、もちろんです。
収穫が終わってからですよね」
そう。
では、収穫に意識を向けて……
ドライム、ウルザ。
収穫速度を競うのではなく、丁寧さを競うように。
作物を大事にする気持ちを忘れてはいけない。
あと、ハクレン。
作物を砕いたことを叱ったりしないから、無理に食べて証拠隠滅しないように。
ドラゴンの胃は頑丈なのかもしれないが、お腹を壊すぞ。
初秋。
五村のとあるラーメン店のカウンターで、俺の前に一杯のミニラーメンが出された。
具はない。
スープに麺だけ。
それを俺は食す。
うん、美味しい。
二杯目が出された。
これも……美味しいな。
これに比べると、一杯目はスープが少し薄く感じる。
三杯目が出された。
美味い。
文句なしだ。
スープの味がはっきりしているし、麺とスープの絡み具合がいい。
これがもっとも美味しい。
この三杯のラーメン。
スープや麺はすべて同じ。
違うのは湯切りのみ。
一杯目は、ラーメン店で三年ほど働いた従業員が湯切りした。
二杯目は、ラーメン店の店主が湯切りした。
そして、三杯目はラーメン店に設置された、湯切りゴーレムが湯切りした。
頑張ったんだな。
すごいぞ。
俺の称賛に応えるように、湯切りゴーレムは満足気にテボを振った。
あとで、ラーメン店の店長から言われた。
「あのゴーレムに、スープ作りとかさせてもいいですかね?」
ははは。
本人にやる気があるならな。
でも、さすがにルーとティア、山エルフたちに頼んで、機能を追加しないと駄目かもしれないけど。
いつの日か、湯切りゴーレムが、ラーメン職人ゴーレムになっているかもしれない。
誤字脱字の指摘、ありがとうございます。
助かってます。




