ゴーレムと職人
ヨウコの計画書にあった、ゴーレムが住人の仕事を奪わないということをアピールする手段。
それは、ゴーレムのことを知ってもらうことだ。
ゴーレムにできること、できないこと。
それと、ゴーレムの製造のむずかしさと高額な製造費。
知らないから仕事を奪われると恐れるのであって、知ればそう怯えないだろうという目論見だった。
準備が粛々と進められたある日。
俺は五村の麓にあるスタジアムの貴賓席に座っていた。
審査員だそうだ。
そして、スタジアムの舞台に立つのは五体のゴーレム。
刀剣類の錆を落とす、箱型の錆取りゴーレム。
篩を振るい、小麦粉などのダマを取り除く、腕型の篩ゴーレム。
あらゆるものを圧倒的なパワーで混ぜる、腕型の攪拌ゴーレム。
決められた個数を箱に詰める、箱型の箱詰めゴーレム。
テボと呼ばれるラーメンの麺の湯切り用のザルを振るう、腕型の湯切りゴーレム。
これら五体のゴーレムと、そのオペレーターである山エルフが五人。
それに対峙する位置に五人の職人。
錆取り職人や、篩職人、攪拌職人、箱詰め職人、そして湯切り職人との看板を掲げている。
……
たぶんだけど、湯切り職人はラーメン職人だろう。
湯切りだけで稼げる人なんていないだろうから。
そう考えてみると、錆取り職人は鍛冶師かな。
でもって、篩職人や攪拌職人、箱詰め職人はなにかしら別の仕事をメインにしていると思う。
ヨウコの秘書が頑張って集めたんだろうな。
「これより、五つの競技でゴーレムと職人に競っていただきます!」
俺の横にいる司会役が声を大きくする魔道具で伝えると、観客席から大きな歓声があがった。
……
数千人はいるよな?
よく集まったものだ。
ここまで集客できるイベントだとは思わなかったんだけど。
あ、このあとに五村のマスコットであるファイブくんのコンサートがあるのね。
……なるほど。
今回のイベントは、ファイブくんのコンサートの前座だったか。
ん?
ああ、すまない。
司会者。
気にしないでくれ。
扱いに不満があるわけじゃないんだ。
ただ、登場しているゴーレムが今回の勝負のために急遽製作されたもので、ルーとティアと山エルフたちに無理を言ったから、もう少し注目してやってほしかっただけでな。
だから、観客に拍手を強要しないように。
ウェーブもいらないぞ。
え?
俺が来る前に練習したから、一回は見てほしい?
くっ、そう言われると見るしかない。
一回だけだからな。
ウェーブは三回見た。
そして競技は……無事に終わった。
まあ、もともとがゴーレムのことを知ってもらうのが目的。
それと同時に、ゴーレムは仕事を奪わないというアピール目的。
なので、ゴーレムたちにはちょっと不得意な分野での勝負となり、すべて負ける。
予想通りの結果だ。
観客はそれなりに盛り上がったみたいだけど。
できれば、次はもう少しハンデを持たせていい勝負にしたい。
もう少し小規模で。
街角とかでゴーレム対職人をやればいいんじゃないかな。
スタジアムだと、遠い席からはなにをやっているかわかりにくかっただろうから。
とりあえず、見終わった俺はそれでこの件に関わるのは終わりだと思った。
ヨウコから渡された計画書にも、俺は最初だけ参加と書かれていたしな。
だけど終わらなかった。
数日後の夕食後。
私室でのんびりしていた俺は、数人の山エルフの訪問を受けた。
だが、俺に用事があるのは彼女たちではないらしい。
俺のところには来れないので、作業場で待っているそうだ。
誰だろう?
まあ、暇だったので俺は作業場に移動する。
作業場では、職人と対決したゴーレムたちが、それぞれ綺麗な動作で作業をしている。
錆取りゴーレムは錆取りを。
篩ゴーレムは篩を振るい、攪拌ゴーレムはなにかを攪拌している。
箱詰めゴーレムは……卵らしきものを箱に詰めている。
そして、湯切りゴーレムは湯切りだな。
うん、見事だ。
それで、俺に用事があるというのは?
作業場には、職人と対決したゴーレム以外には、そのゴーレムたちの動作を手伝う山エルフたちしかいない。
山エルフなら、俺のところには来れる。
つまり、俺に用事があるのは……
「このゴーレムたちです」
山エルフの一人が、申し訳なさそうに教えてくれた。
なるほど。
しかし、このゴーレムたちに会話する機能はなかったと思うが?
「動作する、動作しないで、こちらの質問に答えてます。
最初はゴーレムたちが動作をやめなくなって、どうしたものかと調べているうちに判明しました」
おおっ。
それで、ゴーレムたちが俺に用事があるとわかったわけか。
「どのような用事かは具体的にはわかりませんが、村長の名を出したときに反応が大きかったので。
村長をお呼びして、申し訳ありません」
いやいや、気にしなくていいよ。
それより、このゴーレムたちか。
俺にどんな用事があるんだ?
そんな質問は失礼だな。
十分、伝わってくる。
ゴーレムたちの想いが。
俺に。
そうか、お前たちは悔しかったのか。
職人に負けたこと。
そして、職人たちや観客たちから、その程度かと思われるのが悔しいと。
だから、性能向上してほしいと。
……違う?
あ、悔しいのは意見統一しているけど、その対策で意見が割れているのね。
えーっと、性能向上してほしいのが錆取りゴーレムと攪拌ゴーレム、それと箱詰めゴーレム。
自己鍛錬の場がほしいのが、篩ゴーレムと湯切りゴーレムか。
ふむ。
意見は理解したが、とりあえず性能向上に関しては俺ではどうしようもない。
ルーとティア、それと山エルフたちと相談してほしい。
山エルフたちはお任せくださいという顔をしているので、あとはルーとティアだけ。
ルーとティアには、俺から話をしておこう。
自己鍛錬の場に関しては……
現場に置いて、使ってほしいのね。
わかった。
まずは大樹の村で……篩ゴーレムはいくらでも仕事があるが、湯切りゴーレムは少ないな。
湯切りゴーレムの出番は、ラーメンを作るときだけだもんな。
五村のラーメンをやっている店に、話を持ちかけてみるよ。
俺の意見に、ゴーレムたちは動きで返事した。
頑張るんだぞ。
「ゴーレムの強化をしてどうする?
ゴーレムに仕事を奪われると心配する住人に安心してもらうための計画で、対決ではなかったのか」
ヨウコにそう言われた。
そうだった。
いや、すまない。
ゴーレムたちのやる気にあてられたようだ。
「やる気か。
作業ゴーレムから、それを感じとるのは村長のいいところだが……」
それなんだが、あのゴーレムたちは少し特別らしくてな。
「?」
簡単に言うと、ルーとティアがちょっとミスをした。
ゴーレムの素材のメインは魔合鉄だが、それに竜の鱗の粉が混ざった。
ルーがイフルス学園に送るために準備していたものを、間違えて使ってしまったらしい。
でもって、動力用の魔石はそのままなのだが、ゴーレムの動作補助用の各部の魔石が、予定よりも一回り大きいものを使っていた。
さらには、使用する個数も間違えて多く使っているようで……
「ゴーレムたちが感情を持ってしまったか」
そうみたいだ。
ルーとティアには謝られたけど、ミスの原因がルーとティアの疲労。
その疲れがあるところに無理やりに製造を頼んだのはこっちなので、俺からは強く言えなかった。
とりあえず、ルーとティア、それと山エルフたちには十日ほど強制的に休んでもらった。
ミスが続くほど疲労しているのはよろしくない。
いや、ミスが出るほど疲労するのがよろしくない。
錆取りゴーレムと攪拌ゴーレム、それと箱詰めゴーレムの性能向上は、しっかり休んでもらったあとにやってもらった。
そして、性能向上したゴーレムたちは、再度の対決で職人たちに勝利。
住人たちから、ゴーレムすごい、ゴーレムに仕事を奪われるんじゃないかの声が大きくなった。
これがヨウコからのクレームの原因だ。
俺が目的を忘れていた。
すまない。
「いや、謝ってほしいわけではない。
状況が変わったから、その対処をせねばならぬ」
ヨウコから出されたのは、また計画書。
その内容は……魔道具の量産販売?
追尾荷車の生産工場のように、ゴーレムを使っての魔道具の生産か。
「うむ。
とくに、物を冷やす箱の魔道具は、前々から望まれている。
冷やすことができれば、食品の腐敗が遅くなる」
つまり、日持ちがよくなるから生活が豊かになる。
「いきなりは無理だが、まずは食品を扱う店に。
将来的には五村の各家庭に一台は置けるようにしたい」
なるほど。
便利な魔道具で住人の生活を助け、その助けの根本にあるのがゴーレムなのだから、ゴーレムが働いても安心するようにと。
そう思わせるわけか。
「この計画は、そういうコンセプトだ」
わかった。
ただ、ルーやティアをまたミスがでるほど疲れさせるわけにはいかない。
もちろん、山エルフたちも。
「わかっておる。
至急でなくてよい。
よいのだが、さらにべつの計画が待機しておってな」
物を冷やす魔道具以外にか?
「うむ。
こちらは魔道具ではなく、薬だ。
ゴーレムを使っての薬作りをするのは、どうかとな」
出された次の計画書では、篩ゴーレム、攪拌ゴーレム、箱詰めゴーレムを使っての薬作り……薬作りのサポートをすることが書かれていた。
「対決を見た薬草院の者や薬に精通する者が、あれらのゴーレムがあれば薬を多く作れるとの意見を寄越してな」
薬を多く作っても保存の問題があるけど、物を冷やす魔道具があればそれも大半が解決する。
これも住人の生活を助けるな。
「そういうことだ」
なるほど。
反対しにくい。
「すまぬ」
そっちが謝ることじゃないぞ。
こっちがゴーレムで住人を不安にさせたのが悪いんだ。
「その通りだが、その通りとは返事しにくいな」
ははは。
しかし、あれだな。
これだけゴーレムが求められると、ルーとティアにはゴーレムを作るゴーレムを頼むことになりそうだ。
「ゴーレムを作れる者は貴重だからな」
そうらしい。
まあ、現実にはゴーレムを作るゴーレムはむずかしいだろう。
地道に慌てず、ゆっくりとやっていこう。
「うむ」




