生産工場の影響
俺のところに陳情の手紙が届いた。
複数だ。
まず、一通目。
五村にある洋菓子店フェアリーフェアリの店長代理を任せている獣人族の女の子、ロロネ。
「追尾荷車の生産工場、見ました。
あのゴーレム、すごいです。
同じ作業をあんなにも繰り返せるなんて。
それでなのですが、その、ケーキ作りにおいては小麦を振ったり、練ったりする仕事があるのですが、これがすごく大変で腕や肩を傷める職人もいるぐらいです。
ぜひとも、こういった仕事をしてくれるゴーレムをフェアリーフェアリも設置してもらえるよう、お願いします」
この手紙は、新作のフルーツケーキとともに届けられた。
そのフルーツケーキは、手紙を見ているあいだに妖精女王が持っていった。
とても美味しく、子供たちにも好評だったという感想をもらった。
みんなで食べるつもりだったからいいけど、俺も食べたかった。
え?
子供たちが村長のぶんと言って、取ってある?
ありがとう。
なんていい子たちだ。
二通目。
五村にあるデルゼン製紙、デルゼン印刷の代表代行を任せている文官娘衆の一人、エライザ。
「追尾荷車の生産工場、見ました。
ああいったものこそ、製紙工場や印刷工場に設置すべきではないでしょうか?
いや、するべきです。
設置計画書を同封しましたので、よろしくお願いします」
よろしくお願いしますが、めちゃくちゃ太字で書かれてた。
あと、太字がキラキラしてるな。
印刷で使うための新しいインクかな?
同封された設置計画書は、紙の箱に使っている丈夫で耐水性の高い紙が使われていた。
あー、この紙の箱の増産にゴーレムを使いたいのね。
三通目。
シャシャートの街でいろいろやっているミヨ。
「追尾荷車の生産工場を見たイフルス学園の者たちが興奮しています。
ぜひとも、ゴーレムを作っているところを見たいとのことです」
イフルス学園は、シャシャートの街にある学園。
普通の学園よりも高度なことを教えたり研究しているらしく、普通の学園を高校とすると、大学とか大学院みたいなイメージ。
ルーがその学園の立ち上げに関わり、名誉学園長をやっているので不定期ながら村から素材を提供している。
具体的には、竜の鱗を粉にしたもの。
鱗そのままだと、加工が大変らしいので。
もちろん、それ以外の素材も提供している。
魔獣や魔物から採れる素材や魔石などだな。
あとは村で作った食材。
薬草関係は、ルーに任せているのでなにを渡しているかは知らないけど、かなり喜ばれているらしい。
ときどき、ルーのところに新しい薬や改良された薬などが届けられている。
そんなイフルス学園が生産工場に……いや、ゴーレムに興味を持ったのか。
ミヨや俺じゃなく、ルーに直接言ったほうが早いと思うけどな。
まあ、手紙をもらったからにはルーに伝えておこう。
四通目。
五村の甘味堂コーリンの店長代行のセレス。
あ、これは陳情じゃないな。
お礼状だ。
餡を練るゴーレム、清掃するゴーレムの設置、ありがとうございますと。
俺は知らないが、設置されたのだろうか?
心当たりはあるので、ルーとティアに聞くと、安請け合いをしてしまったと謝っている。
設置はまだらしい。
つまり、この手紙はしっかり設置してくださいね、ということだな。
まあ、ルーたちが引き受けて、作業するだけなのだから、俺から文句はない。
できれば次からは事前に相談してほしいけど。
いやいや、怒っているわけではなく、別件で引き受けていてゴーレムの材料にしている魔合鉄が不足するとか、そういうことがあるかもしれないだろ?
今回はドマイムがたくさんもってきてくれたし、追加で仕入れる目途もあるから気にしないよ。
五通目。
これは、追尾荷車の生産工場を任せた三人の天使族からだな。
えーっと……
「人手が足りません。
現地で雇用する許可と予算をください」
……雇用は許可するけど、雇う人の選別はヨウコに相談してほしい。
予算は用意しよう。
「人手が足りません。
具体的にはゴーレムを管理するゴーレムがほしいです」
このあたりはルーとティア、山エルフたちと相談して決めよう。
素人判断で、口を出すのは避けたい。
「行方不明だったゴミを掃除するゴーレムを一体、発見しました」
おおっ、それはよかった。
なるほど、倉庫の裏の窪みに落ちて、動けなくなっていたのか。
残り二体も見つけてほしいものだ。
……窪みに落ちても掃除し続けたことに感動して、名前をつけた?
ま、まあ、大事にしてくれるならいいけど、私物化は駄目だぞ。
六通目。
夕食時にヨウコから渡された。
これは陳情の手紙ではなく、すでに実行が決まっている計画書だな。
「……村議会に、住人から大量の陳情が来てる。
どれもこれも、あの生産工場のゴーレム関連だ。
秘書たちが悲鳴をあげている」
内容は?
「おおまかには希望と心配だな」
希望は、ゴーレムがほしいとか、こっちでも使いたいだよな?
心配とは?
「仕事を奪われると」
あー、なるほど。
「ゴーレムの製造費を考えれば、そうはならぬとわかりそうなものだが……理屈ではないのであろう」
そうだな。
ゴーレムは便利だが、安価ではない。
まず、ゴーレムを作れる者がめったにいない。
大樹の村にはティアがいるけど、五村やシャシャートの街で探しても、手のひらサイズのゴーレムを作れる者が十人、いるかいないかだ。
仕事をするサイズのゴーレムを作れる者となると、いるほうが珍しい。
それゆえ、仕事をするゴーレムを作れる者の雇用費は高い。
かなり高い。
かなり高いうえに見つからない。
そして、ゴーレムの動力である魔石。
これは魔獣や魔物から採取する物で、そこそこ危険な魔獣や魔物でも、ツメ先ぐらいのサイズの魔石が採れる程度。
仕事をするゴーレムに使う大きい魔石は、かなり危険な魔獣や魔物からしか採取できないので、とても貴重で当然ながら高価。
大樹の村には山積みにされているけど。
ゴーレムで安くできるのは素材部分なのだけど、そこらの土を素材にしても耐久性に難がでる。
長時間の作業を考えると、それなりの工夫が必要だし、その工夫には金がかかる。
追尾荷車の生産工場で使っているゴーレムには、魔合鉄という貴重品がふんだんに使われているので値段を考えると……すごいことになる。
本来なら、ゴーレムの導入となっても計画段階で見送られるのが一般的。
ただ、今回の追尾荷車の生産工場での導入は、ルーやティア、山エルフたちが少しでも楽になるようにと、予算を度外視でやっている。
それがわかっているから、ミヨはシャシャートの街にもゴーレムをと言わないのだろうし、マイケルさんもこういった商品の生産工場にゴーレムをと言ってこないのだろう。
「ゴーレムを使う店がなかったわけではないが、貴族や好事家の道楽であった」
だから騒がれなかったと?
「うむ」
でも、今回は騒ぎになっていると。
「生産工場のゴーレムも村長の道楽と言えるが……村長のことだから、村中に広めるのではないかと」
そんなことをする気は、欠片もないぞ。
「これまでのことから、そう思われておる。
事実、秘書たちの大半も広めると思っておった」
不本意だ。
「そう言われてもだな、自動販売機ゴーレムに、カキ氷製造ゴーレム、ゴーレム馬車に、遊戯台に仕込んだゴーレム、五村のスタジアムで戦わせたゴーレムなどこれまで多くに利用しておるだろ」
う……
「工場で大々的にゴーレムを使い始めたら、ほかでも使うんじゃないかと心配するのもしかたなかろう」
ぬう。
「広める気がないならないで、なにかしら手を打ってもらいたい」
それで、この計画書か。
「うむ。
ゴーレムに仕事を奪われないと安心させねばな」
……わかった。
読んでおくよ。
「よろしく頼む」
俺が考えていた以上に、生産工場のゴーレムは影響があったようだ。
ゴーレムの導入は、とりあえず俺が関係するところだけだな。
しかし、追尾荷車の生産工場の内部は非公開のはずなんだけどなぁ。
村の関係者には見せたとしても、一般に広まるのが早すぎないか?
イフルス学園の者たちにはミヨが引率したとして……
ゴーレムを使った生産工場が珍しいからか?
疑問に思っていたけど、すぐに判明した。
管理を任せた天使族の三人が、見学コースを設定して一般に公開していた。
「え?
非公開だったのですか?」
「す、すみませんでした。
あまりに多くの見学希望者がいたので」
「あと、お弁当の売り上げが増えると思いまして」
まあ、俺のほうも非公開を厳重に伝えていなかったからな。
今回は厳重注意ということで。
あー、見学コースは維持でいいぞ。
お弁当工場のほうは、立ち入らせていないみたいだし。
これまで見学した者の数を考えると、非公開もいまさらだろう。
魔石の管理をさらに厳重にするのと、ゴーレムや追尾荷車の盗難防止。
このあたりをしっかりやってくれ。
ゴミを掃除するゴーレムの名はフパーディナ(ロシア語で窪地)。
まだ未発見だけど二機目はカルドービナ(ロシア語で穴)、三機目はプロパーシャ(ロシア語で行方不明)になる予定だけど、登場するとは限らない。
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