働くゴーレム
五村の麓に建設された追尾荷車の生産工場。
そこでの作業にゴーレムを使おうと、少し前からルーとティア、そして山エルフたちが頑張っていた。
そして昨日、ゴーレムの導入が終わったとの報告を受けたので、俺は見に行くことにした。
部品を生成するゴーレム。
生成された部品を運ぶゴーレム。
運ばれた部品を決められた形に組み立てるゴーレム。
組み立てられた部品が正しく組み立てられているかチェックするゴーレム。
組み立てられた部品を整列するゴーレム。
組み立てられた部品を取りつけるゴーレム。
組み立てられた部品を取りつけられた部品を綺麗に並べるゴーレム。
さまざまな形のゴーレムが、規律正しく動いている。
そしてコンベアに運ばれながら完成する追尾荷車。
すごい。
自動化された工場だ。
「現在の生産台数は、一日に十台です」
自信満々に教えてくれる山エルフたち。
性能的にはもう少し生産数を増やせるのだが、材料の確保に不安があるらしい。
「すべての部品の材料が揃わないといけませんから」
それはそうだな。
「見てほしいのは、組み立てられた部品を整列するゴーレムと組み立てられた部品を取りつけられた部品を綺麗に並べるゴーレムですね。
これを配置するアイディアが出るまで、どうしても不整列によるトラブルの対処で全体に影響が出ていましたから。
このゴーレムたちの動きは地味ですが、働きは大きいです」
そ、そうか。
「あとは追尾荷車の生産には関係ありませんが、ゴミを掃除するゴーレム」
さっきから床を這いまわっている、箒とチリトリが一体化したみたいなやつだな。
「掃除する範囲を覚えさせるのが大変でした。
ちゃんと稼働するまでに、何体のゴーレムが行方不明になったか」
行方不明になったの?
「なりました。
三体がまだ未発見です」
盗難された可能性は?
「工場に設置された基準点となる柱から、一定以上離れると動作を止めて警報が鳴る仕組みがあるのでそれはないかと」
じゃあ、工場のどこかで掃除しているのか。
「早くみつけてあげたいです」
そ、そうだな。
その後、山エルフたちの苦労話を交えながら、工場で働くゴーレムたちを紹介してもらった。
「本当に苦労しましたよ」
でも、楽しかったんだろ?
「それはもちろん!
仕掛けが連鎖するのは楽しいです!」
それはなにより。
ところでなんだが……
「なんでしょう?
ルーさんとティアさんは死んだように寝ていますよ?」
それは知ってる。
そうじゃなくて、あっちの小さい工場はなんだ?
追尾荷車用の工場は、ゴーレムが導入される前に何度か見ている。
だけど、あそこにある工場は見覚えがない。
「ゴーレムの導入試験用に作った工場です」
じゃあ、あそこでも追尾荷車を作っているのか?
「いえ、お弁当です」
……
「お弁当です」
いや、聞こえている。
え?
お弁当?
なんで?
「ここって五村ですが麓の端で、五村の中央部からは遠いじゃないですか?」
そうだな。
工場用の土地と完成した追尾荷車を置く場所を考えると、麓の端になった。
「食事できるところが少なくて」
そうだろうけど、それでお弁当を?
「はい。
周辺で働く人たちからも要望がありましたので」
な、なるほど。
「作っているお弁当は、こんな感じです」
山エルフたちが持ってきたのは、紙の箱に入ったお弁当。
透明なプラスチックが欲しくなるが……
開けてみると、箱のなかに区切りがあり、パンとサラダ、肉類、マッシュポテト、それにフォークが入っている。
洋食弁当か。
美味しそうだな。
「はい。
好評をいただいております」
内容は変化するのか?
「パンとサラダは固定ですが、肉類とマッシュポテトが日替わりで別のものになります」
へー。
「最近では、話を聞いた冒険者たちが買いにきてます」
あー、五村から南に行くならこの近くを通るか。
「売り上げ金は、次の食材の仕入れにすべて使っていますので、お弁当の内容は少しづつ豪華になっています」
あー、売り上げ金に関してはあとで相談しよう。
「承知しました」
お弁当の工場のなかを見せてもらったが、追尾荷車の生産工場に負けないぐらいにゴーレムがひしめいて動いている。
追尾荷車の生産工場よりも、複雑な動きをしていないか?
「日替わりで工程の違う料理を作りますので、どうしても」
必要か。
「はい。
料理の製作工程に協力をいただいた鬼人族メイドさんたちのこだわりの動きを再現しています」
なるほど。
「ティアさんは、追尾荷車の工場で使うゴーレムよりも、こっちで使うゴーレムのほうがむずかしかったと言ってました」
あ、あとで褒めておこう。
「それと、村長が重視する衛生管理を高水準で行なうために、必要とするゴーレムが増えています。
床を掃除するゴーレムのほかに、虫を追い払うゴーレム、虫の侵入を許さないゴーレム、それでも侵入した虫を捕えるゴーレム、室温を見張るゴーレム、舞っている埃を集めるゴーレムと」
た、大変そうだな。
「大変でした」
でもまあ、食中毒は困るからな。
「はい。
そういえば、セレスさんがこのお弁当工場を興味深く見学されていました」
聖女のセレスか。
甘味堂コーリンの商品も作れないか、考えているのかな?
「内容は知りませんが、ルーさんやティアさんと長くお話をされていました。
ルーさんとティアさん、疲れていたからか気前よく頷いていましたよ」
……近いうちに、工場が増えるかもしれないな。
「そうですね。
楽しみです」
さて、お弁当工場のことは横に置いておいて。
これで追尾荷車の生産は工場に任せることができる。
あとの問題は工場の管理人だが……
「それに関しては、天使族から希望者がいます」
そうなの?
「はい。
こちらに」
そう言われて紹介された三人の天使族。
「ゴーレムが働いているのを見るだけの簡単なお仕事……失礼。
追尾荷車の生産という責任重大な仕事の管理、ぜひとも私たちに担当させてください」
えーっと。
彼女たちは、少し前にスアルロウとラズマリアの訓練に参加させられていた天使族たちだな。
見覚えのある顔だ。
しかし、いいのか?
「いいのかと言いますと?」
「住む家は用意されていますし、食事代も出ます」
「三人で交代できますし、なにも問題ないかと」
……そうだな。
管理人が住む家は新しく建てられている。
食事に関しては、周囲に店はないが天使族なら五村の中心に飛んで行けば問題ない。
魔王国で天使族が嫌われている……いや、警戒されている問題も、五村では解消されつつある。
さらには、ここは五村の麓の端。
問題はないように思える。
あ、天使族の長であるマルビットの許可はあるのか?
「あります!」
「働きに出ますと言ったら、許可をくれました!」
「マルビットさま、涙を流してました」
そ、そうか。
それならかまわない。
やる気はあるんだな?
「はい!」
「もちろんです!」
「任せてください!」
よし、工場の管理人に任命する!
頼んだぞ!
後日。
スアルロウとラズマリアから言われた。
あの三人を甘やかさないようにと。
なるほど、マルビットからは許可をもらったがスアルロウとラズマリアには無断だったか。
天使族内の派閥や指揮系統に口を出す気はないが、そのあたりは今度から注意しよう。
しかし、甘やかしたつもりはない。
工場の管理人。
簡単そうに思えるが、大変な仕事だと俺は予想している。
ゴーレムが働いているのを見るだけ?
そんなわけがない。
ちょっと考えるだけで、仕事はいろいろとある。
たとえば……
ゴーレムにつけられた魔石は、消耗品。
電池みたいなものだ。
魔石の魔力がなくなったら、交換しないといけない。
それに、トラブルがあったとき、緊急停止の指示を早く出さないと損害がでる。
油断はできない。
あと、予期せぬトラブルというのは発生する。
絶対にだ。
しかも、新しく始めたばかりの生産工場だ。
トラブルに対する経験の蓄積がない。
苦労が多いはず。
まあ、俺より長く生きている天使族だ。
それぐらいは言われずとも理解していると思ったのだが……
スアルロウやラズマリアの反応をみると、理解していないのかもしれない。
……
いやいやいや。
あの三人の天使族はともかく、スアルロウとラズマリアは理解しているだろう。
なのにあんなことを言ってきた?
あ、そうか。
あの三人を甘やかさないようにというのは管理人に任命したことへのクレームではなく、これから発生するトラブルであの三人が困るだろうけど、甘やかさないようにという先回りした注意だ。
なるほどなるほど。
天使族、恐るべし。
そして三人の天使族、頑張れ。
心のなかで、そっと応援しておいた。




