村の調味料
「やっぱり村の食事は美味しい」
ウルザがそう言ったからか、アンたち鬼人族メイドの笑顔は眩しかった。
ウルザが言うには、料理人の腕ももちろんだけど、大樹の村の食材や調味料がすごすぎるらしい。
まあ、たしかに大樹の村の野菜や穀物、果物の味は自慢だな。
ほとんど【万能農具】のお陰だけど。
調味料に関しては……フローラのお陰だろう。
醤油、味噌、マヨネーズなど、いろいろと作ってくれている。
それらは大樹の村だけでなく、五村の食文化の基礎になっている。
もちろん、各村で育てている調味料になる作物や植物の存在も大きい。
サトウキビ、テンサイなどからは砂糖を収穫しているし、トウガラシ、シナモン、クローブ、ナツメグ、カルダモン、クミン、ローリエなどをミックスして作られたカレー粉は、万能調味料として重宝されている。
ハーブ系は多くの料理に使われ、コショウは肉料理には欠かせない。
忘れてはいけないのは、酢だ。
作り方は酒とほぼ一緒で、穀物や果物と砂糖に種酢とよばれる酢のもと……ぶっちゃけ、普通の酢だな。
それを混ぜて作られている。
酢で酢を増やす感じだ。
穀物や果物の種類を変えることで、酢の味わいが変化する。
米から作る米酢や、リンゴなどの果物で作る果物酢、大麦で作る黒酢などが有名かな。
料理にどの酢を合わせるかは、料理人の腕になる。
種酢となる最初の酢の入手は少し面倒だったけど、そこらの一般家庭にあるのでルーとかティアに頼んで買ってきてもらった。
いまでは村の各家庭でも作っているし、ドワーフたちが酒造りの合間に大量に作っている。
酢は大事だ。
酢がないとマヨネーズも作れないしな。
村の調味料はこんなところか?
いやいや、まだまだある。
たとえばハチミツ。
村の近くの森に作った蜂の小屋にいるグノーシスビーたちによるハチミツは、赤ちゃんに食べさせることはできないけど、村の甘味の基礎の基礎。
子供や妖精女王のお気に入りだ。
楓から採れるメープルシロップも、村にはある。
ほかに、一部の辛党のために、トウガラシよりも辛い作物も育てている。
よく知らないけど、ハバネロとかジョロキアとか。
これらは、あまりに辛すぎて毒じゃないかと騒ぎになったぐらいだ。
ニンニクやネギ、ニラ、ワサビ、カラシ、シソ、ゴマなどは、特定の料理に欠かせない。
……
これらは調味料ではなく、薬味だな。
塩?
そういえば死の森の塩は、有名で貴重品らしい。
少し掘れば出てくる。
俺にとっては苦い思い出だ。
ああ、いや、塩だからしょっぱい思い出と言うべきか。
そして、なぜ塩の層がある場所に植物が生えているのか?
正直、わからない。
生えているから、生えている。
そういった場所で育つ植物なのではないだろうか?
魔法のある世界だ。
そういうこともあるだろう。
でも、村の畑は【万能農具】のお陰だと思う。
つまり、村の食材と調味料は【万能農具】があってこそ。
神さま、ありがとうございます。
感謝を忘れてはいけない。
「買うしかないのかな?」
ウルザはウルザが拠点にしている街でも、同じような調味料を入手したいらしい。
それも輸入に頼らず。
死の森の塩とか、産地が限定されるのは無理だが、不可能ではないだろう。
実際、五村やシャシャートの街、またはそれらの周辺の村で生産をしている調味料は多い。
大樹の村や一村、二村、三村、四村だけでは生産量が追いつかないからだ。
五村にはフローラが監修した、醤油や味噌、マヨネーズを作っている工房もある。
ウルザが拠点としている街に、そういった工房を作るのは不可能ではないだろう。
ただ、工房を作るだけじゃ駄目だ。
作り方や保存方法を熟知している者の育成。
さらに原材料の確保も必要だ。
販売ルートも構築しないといけない。
そういった相談は、俺よりも文官娘衆のほうが詳しい。
フラウたちを頼ったらどうだ?
……
どうした?
フラウたちは苦手か?
違う?
村にいたときの先生だから、相談しにくい?
逆に相談しやすいと思うが……
相談の最中に、なんだかんだと試してくると。
それは……やりそうだな。
相談が交渉になるわけね。
それに、そういった交渉はティゼルが担当だった?
もしくはアサかアースと。
なるほど。
あー、ウルザよ。
わかっていると思うが、言うぞ。
君の後ろで、腕組みをして待っている者がいるんだが?
そう、氷の魔物のアイス。
ずっといるな。
交渉ならまかせろと、自信をにじませているぞ。
あ、言ってる。
はっきり交渉は得意だと言ってるぞ。
頼ってやるのはどうだろう?
ウルザはしぶしぶアイスに頼った。
結果。
ウルザが拠点としている街に、醤油、味噌、マヨネーズなどの工房を、文官娘衆たちの主導で誘致することになった。
かなり頑張ったようだ。
アイスの氷の体が半分ぐらいになっているもんな。
あー、利益の分配でかなり絞られたか。
ウルザに関わることなんだから、フラウたちも手心を加えてくれてもと思わなくもない。
え?
十分、手心を加えてくれた?
面倒な部分の手配をかなりやってくれることになったと。
そうだったのか。
じゃあ、俺のほうからフラウたちに感謝しておくよ。
ああ。
それで、ウルザはどうした?
ウルザには報告したんだろ?
したけど、文官娘衆に連れられていった?
補習?
自分で交渉できないと駄目と。
ま、まあ、それはそうか。
ウルザのためになることだから、ハクレンもザブトンも手出しをしない。
優しい目で見守っている。
……
俺も見守ろう。
あ、冷やす魔法を使える人、アイスを冷やしてやって。
彼は頑張ったから。
アイス 「こちらが誘致計画書です。よろしくお願いします」
文官娘衆「こちらのメリットが将来性だけですか。話になりませんね」
ここから誘致までもっていったアイスは優秀だと思う。




