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夏が来てトラブルが来た



 なんだかんだと時間が進み、クロたちが子供を産み始めて忙しくなった。


 別段、俺たちの手伝いがなくてもなんとかなるだろうが、産まれたばかりの子犬……ではなく子狼に死なれるのは気分が悪い。


 村の住人と共に、出産に協力した。


 今のところ、死産は無い。


 無いが……


 うん、来年からはまた自主的に出産を制限してくれると嬉しいなぁとか思ったり思わなかったり。


 まあ、子狼が可愛いから許す。


 来年の畑を拡張しなければと思う俺だった。




 新しい村作りの方は順調というか、こちらでやるべきことは全て終わった状態。


 後は来た住人に任せれば大丈夫と思うのだが……


 その住民が居ない。



 住民が居ない原因は明白。


 ビーゼル、ドライム、マイケルさんたちのツテに頼って、村人集めは行われる予定だった。


 集める人数は三十人ぐらい。


 多くても五十人だと予想して建物などを用意したが……


 正直な話、俺は人数がそんなに集まるとは思っていなかった。


 話を聞けば聞くほど、この死の森の評判が悪いからだ。


 住めばそれなりに良い場所だと分かってもらえる自信はあるが、移住はかなりの勇気と決断が必要だ。


 話だけで来てもらえるとは思えなかった。


 しかし、そんな場所なのに三グループ、合計二百人以上の希望者がいた。


 多過ぎる。


 しかも、こちらは打診のつもりだったのに、三グループは移住決定な感じで動き始めた。


「説明が悪かったのでは?」


「新しい村を作る計画がある。

 誰か移住を希望する者が居るか?

 ああ、場所は最悪だぞ。

 あまり期待するな。

 ……と、こんな感じに」


「俺もそんな感じだな」


「私も……税金の話とかしてないのに、移住に積極的になるとは思っていませんで、申し訳ありません」


 ビーゼル、ドライム、マイケルさんの三ルートで同時に話が進行し、初動を止めるのが遅れたのも悪かった。


 三人が三人共それなりに忙しいので、コミュニケーションの頻度が高くないのだ。


 報連相(報告・連絡・相談)はトラブル回避の基本ですよと注意したいが、村の小型ワイバーン通信を使っても数日のタイムラグが出るのだから仕方が無いと言えば仕方が無いトラブルなのかもしれない。


 トラブルの根本は、集まらないと思って一人に任せなかったことだろう。


 一人で十人ぐらい集められたら良いなぁの感覚だった。


 反省。



 その後、ビーゼル、ドライム、マイケルさんたちは調整に奔走したが、上手くいかなかった。


「場所は死の森だと言っても、諦めてもらえなかった」


「村の宝を差し出すから、移住させてほしいと言ってきた」


「駄目なら暴動を起こすと脅されました」


 新しい場所で生活したいと思う集団には、それなりの理由があるらしい。


 待って欲しいや駄目だと言われて素直に引き下がったりはしない。


 だからと言って、全員ウェルカムというわけにもいかない。


 いかないのだが……


 俺は甘いのだろうなぁ。


「早急に場所を作ろう」


 全員、ウェルカムとなった。



 現在、こちらに来る手筈を確認中。


 できるだけ移住開始を引き延ばすようにお願いしながらだが、上手くいっていないらしい。


 というか、すでに一グループはこちらに向けて移動を開始しているらしい。



 なので俺は俺にできることをする。


 まずは種族代表者を集めての会議。


「今ある新しい村を拡張して一グループを受け入れ、あと二グループ分に関しては新しい村を作りたい」


 状況と俺の考えを説明した。


「新しく作った村を拡張して、全員をそこで受け入れるのは駄目なのですか?」


「話を聞いた感じ、三グループがそれぞれ単一の種族らしいんだ。

 一緒にするよりは分けた方が効率的かなと思ったんだが……」


「確かにそうですね。

 大樹の村では複数の種族が生活しています。

 上手くいっていると思いますが……稀有な例かと」


「移住してくる者たちの気持ちを考えても、いきなり他の種族と一緒にされるよりは来た者たちでまとまれた方が落ち着くだろう」


「となると……」


 さらに新しい村を作ることで、方向が決まった。


「どこに作るかだな」


「村を作る候補地はいくつかあるのですが、少し問題があります」


「なんだ?」


「水です。

 滝にある程度近い場所でないと……」


「水路が長くなり過ぎるか」


「はい。

 井戸を掘れば水は出ると思いますが……農作業をしてもらうのですよね?

 井戸の水で畑全てを賄うのは可能ですか?」


【万能農具】で作った畑なら大丈夫だろう。


 だが、そうでないなら……


「厳しいな」


 この森の雨量は少ない。


 それなのに川の水が豊富なのは、北の山のお陰らしい。


 なので川の水量に問題は無い。


 問題は滝の位置。


 つまりは川の高さが問題だ。


「川の水を汲み上げて、高い場所に流す装置とか無いのか?」


「魔法の道具ですか?」


「いや、そうじゃなくてだな……ほら、風呂の水を入れるのに使っている水車があるだろ。

 あんな感じの道具って無いのか?」


「いえ、そういったのはありませんが……その、村長」


「なんだ?」


「川の水を汲み上げて、高い場所に流すのであれば、その水車で良いのでは?」


 ちょっと赤面。


 まったくその通り。


 あ、待て待て。


「あの水車は失敗作なんだ」


「失敗作?

 水は汲めていますよ?」


「いや、手動でだろ?

 本来は自動なんだ。

 川の流れを利用して水車が回って、水を汲み上げて高い場所に運ぶんだ」


 俺の説明に、山エルフのヤーが手を挙げた。


「あの水車には前から興味がありました。

 完成を目指すなら全力で取り組みます」


 ヤーの提案はありがたかった。


「水車が完成する前提で……水路を気にしなくていいなら、お薦めの候補地がいくつかあります」


 もうすぐ収穫の秋だ。


 そして、すぐに冬が来る。


 時間が厳しそうだ。




 新しい村作りは急いで行われた。


 まずはすでにほぼ完成している新しい村の拡張。


 現状、五十人ほどを受け入れられるのを、倍の百人を受け入れられるようにする。


 俺は【万能農具】で森を切り開き、村を広げていく。


 この作業に五日掛かった。




 ハイエルフ三名とクロの子供達数頭をお共に、次の村の候補地を確認した。


 場所は新しい村のさらに南に十キロの地点。


 大樹の村からは、かなり遠くなる。


「もう少し近くにはできないのか?」


「村同士が近過ぎると、村が大きくなった時にぶつかってしまいます。

 現状でも、個人的には十分近いと思います」


「そうか……」


 十キロ離れていると考えれば遠いが、互いに五キロずつ広げればぶつかってしまう。


 ありえない話ではないか。


 川のこともあるだろうが、ひょっとして大樹の村の畑は南東方向に広がっているから、西側に新しい村の場所を選んだのかな?


 ふーむ。


 俺よりも考えて場所を選定していると信じよう。


「わかった。

 この場所に次の新しい村を作ろう」


「はい。

 それと村長。

 仮で構いませんので、新しい村と今から作る村、そしてもう一つ予定している村の名前をお願いできませんか?」


「……俺にネーミングセンスは無いぞ」


「仮ですから」


「そうか。

 なら……新しい村を川上村、今から作る村を川下村、もう一つを川中村とか?」


「川上村、川下村、川中村ですね。

 わかりました。

 では、そのように通知します」


「……待って」


 川上村、川下村、川中村……


 うん、間違えやすいうえに、そのまま定着しそうなので取り止める。


一村いちのむら二村にのむら三村さんのむらですか?」


「仮だから、仮とわかる名前で良いだろう」


 それに、下手な名前が最初からあるより、新しい住民が名前を決めた方が村に愛着を持ってくれると思う。


「承知しました。

 新しい住民が名前を求めた時は、お願いします」


「新しい住民が求めたらな」


 ともかく仮の名前決定。


 拡張し、新しい建物を建築中の新しい村を一村。


 今から作る村が二村、その後で作る村が三村だ。


 ……


 一村、二村、三村……


 鈴村、岡村、谷村とかの方が良かったか?


 いや、どうせ仮だ。


 無駄に頭を捻るのも面倒。


 さっさと二村の場所作り……の前に道作りだな。


「ここから北にまっすぐで、一村だな」


「はい。

 よろしくお願いします」


 一村と二村の間の道作りに五日。


 二村の場所作りと建材集めに十五日。


 予定外に時間が掛かったのは、トイレと井戸を要所要所に作ったのもあるが、それなりの頻度で魔物や魔獣に襲われてしまったからだ。


 この辺りはあまり来ない場所だからだろうか?


 そして、それを考えると大樹の村周辺はなんだかんだで魔物や魔獣が減っているのだろうか?


 いやいや、あの牙の生えた兎は増えている。


 よく捕まえるし。


 ……


 ひょっとして牙の生えた兎を食べる魔物や魔獣を俺たちが倒しているから、増えているとか?


 し、自然の回復力に期待しよう。


 森の生態系の維持とか、種の保存とか、俺には荷が重い。


 人間が生きていれば、周囲に迷惑を掛けるもの。


 狩った獲物は無駄にしない。


 無駄に狩らない。


 これが精一杯。


 二村の中心にも、大きな木を一本、残した。


 お決まりのスタイルというヤツだ。


 その木の傍に社を建築。


 今回は時間が無いので、二柱の神様の像だけ。


 クロの像とザブトンの像は、後回し。


 でも、後で必ず作る。



 さあ、次は三村だ。



 三村は二村のさらに南。


 川に沿って十五キロほどいった場所になる。



 建設予定地の説明を受けて問題無しと判断し、二村と三村を繋ぐ道を作る。


 十日ほど掛かった。


 やはり魔物や魔獣が多い。


 大半をクロたちが追い払うが、向こうも襲う理由があるのだろう。


 弱肉強食、倒した魔物や魔獣は美味しく頂くことにする。


 そうして三村の場所を作りを始めようと思った頃、一村の建物作りが終わり、ハイエルフたちが二村に移動開始。


 そして、来るであろう連絡が届いた。


「村長。

 ドライムさんの案内で、移住希望者が到着するようです。

 大樹の村にお戻りください」




一村いちのむら二村にのむら三村さんのむら

一ノ村、二ノ村、三ノ村と表記した方が良かっただろうか……


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― 新着の感想 ―
ハイネケン・バドワイザー・クアーズって名前だったら面白かった様な…俺だけか(笑)
[一言] 一戸・二戸・三戸・四戸・・・・・のほうが良かったんでは?
[気になる点] 確かに一村だと苗字か数える単位っぽいかも あと10〜15km程度なら徒歩で片道半日もいらないくらいだしトイレ井戸はいらんかな……(旅なら野糞基本だろし)
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