ウルザが戻ってきた
村から少し離れた森の上空で、三十人ほどの天使族が戦闘訓練をしていた。
訓練を指導しているのはスアルロウ。
かなり厳しくやっているようだ。
「天使族の地位を落とさないためですね」
訓練を地上から見守るラズマリアが、そう教えてくれた。
なるほど。
でも、急に?
「生まれた孫たちのことを考えてです」
ふむ、スアルリナとスアルコナのことを考えてか。
巻き込まれた天使族には悪いけど、気持ちは嬉しいな。
「あの者たちは気を緩めていたので、いい刺激です」
ん?
村では気を緩めてのんびりしてもいいと思うが?
「言い方を改めます。
生活が乱れていた者には、いい刺激です」
あー、夜更かしとか寝坊か。
「それに加え、昼寝もしてます。
なのに、起きているときはぼーっとした状態で……」
まさしく生活の乱れ。
「そろそろ、なにかしらの罰を与えようと考えていたところでした」
ちょうどよかったと。
「そういうことです」
ラズマリアは訓練に参加しなくていいのか?
もちろん、ラズマリアは指導側で。
「スアルロウが孫のためと張り切っているので、その邪魔はできません」
なるほど。
「なので、私の訓練はスアルロウの訓練が終わってからです」
……罰はスアルロウが代わりにやっているんじゃないのか?
俺の質問に、ラズマリアは微笑むだけだった。
村のため池で、ポンドタートルたちが優雅に泳いでいた。
平和だ。
平和じゃないのは、ため池から頭を出しているドラゴン姿のドース。
ため池で泳いでいたわけではない。
ラナさんに戦いを挑み、叩き込まれただけだ。
さっきまでは頭じゃなくて尻尾だけが水面に出ていた。
無駄に戦いを挑むからと思わなくもない。
それに、今回のラナさんは転移魔法で村に直接、来たわけではない。
まずは死の森の周囲にある山ぐらいの場所に転移し、そこから飛んでやってきた。
ちゃんと段階を踏んでいる。
問題はない。
しかも、やってきた理由もある。
ウルザを村に送りに来たのだ。
なのに戦いを挑まれた。
ウルザを置き、さらに村に被害がないように戦ったラナさんを褒めたい。
でも、できれば戦わないという選択肢を選んでもらえると嬉しい。
あ、そういえばギラルは?
一緒に戦っていただろ?
俺がそう聞くと、ドースはため池の底からギラルを引き上げた。
ギラルも沈んでいたのか。
まあ、頑張ったと思うぞ。
いつもより、長く戦えていたから。
ウルザが戻ってきた。
少し前まで村にいたので、戻ってくるのが早い。
そう思わなくはない。
ウルザが戻ってきた理由は、ルーたちが開発した追尾荷車の話を聞いたから。
ウルザが拠点にしている街……でいいのかな?
そこにも追尾荷車がほしいとの要望を伝えるためだ。
もちろん、それだけでウルザが戻ってきたわけではない。
ウルザには同行者がいた。
山エルフの女性。
彼女はヤーたちとは別の山エルフの集団を率いる代表者だ。
彼女たちは大樹の村に移住を希望しているわけではなく、ウルザが拠点にしている街で働く予定になっている。
それなら村に来る必要はないのだが、なんでも彼女は村にいるヤーたちの顔見知りということでウルザが連れてきた。
その彼女と再会したヤーたちは、かなり驚きながらも歓迎していた。
泣いている者もいた。
悪い関係ではなかったのだろう。
ただ、そのウルザが連れてきた山エルフは疲労があったのか、村に到着して少ししたら気を失ってしまったけど。
とりあえず、今日はヤーたちに任せた。
詳しい話は、落ち着いたときにでも聞かせてもらおう。
そしてウルザは……
ザブトンが用意した水着に着替え、プールサイドで食事を楽しんでいる。
少し前に来たラナさんからプールサイドでいろいろな料理を食べた話を聞いていたので、我慢できなかったそうだ。
いいんだ。
存分に食べてくれ。
ただ、水着だからな。
食べすぎるとお腹が出るぞ。
腹筋で耐えると言われてもなぁ。
ああ、そうだ。
お腹がでると言ったあとでなんだが、水着は似合っているぞ。
さすがザブトンだな。
速く泳げそうだ。
ウルザと山エルフを送ってくれたラナさんは、ドースとギラルを倒したあと、転移魔法で戻ってしまった。
ラナさんの強さに憧れる子供たちが、残念がっている。
まあ、そんな子供たちにはハクレンがドラゴン姿で模擬戦を見せている。
相手はドライムの妻であるグラッファルーン。
ドースやギラル、ドライムは対戦を断ったらしい。
ギラルの妻のグーロンデは対戦してもいいらしいけど、村に被害を出さずに戦うのがむずかしいそうだ。
村に被害がでない場所まで行くと、子供たちが見れないから仕方がないな。
それに、グーロンデが出かけるとオルトロスのオルが寂しがる。
ほら、オルも寂しいと言ってるぞ。
だからドラゴン姿で待機するんじゃない。
ちなみに、ラスティはグラッファルーンに倒されている。
最初はハクレンとラスティとの模擬戦予定だったんだよなぁ。
あと、模擬戦が終わったハクレンに、スアルロウに率いられた天使族の一団が勝負を挑んだけど、一蹴されてた。
えーっと、気合は認める。
治療が終わったら食堂に集合だぞ。
今日はウルザとウルザが連れてきた山エルフの歓迎会だ。
ウルザは二~三日で出ていくのかと思っていたけど、しばらく村に滞在するらしい。
ウルザが拠点にしている街の住人から、もう少しだけ休んでいてほしいと嘆願されたそうだ。
ウルザがなにかやらかしたのかと驚いたけど、違うらしい。
なんでも、少し前にウルザが村に戻って不在だったとき、ウルザが拠点にしている街の住人は気づいてしまった。
ウルザがいるときの仕事量と、ウルザがいないときの仕事量の差を。
ウルザがいないと困るのは事実。
だけど、ウルザがいると仕事が増える。
際限なく増える。
このままでは駄目だ。
せめて溜まっている仕事を消化するまで、ウルザには休んでいてほしい。
ウルザが持ってきたアサとアースの手紙に、そう書かれていた。
一年ぐらい、大樹の村でウルザを抑えておいてほしいとも。
丁寧ながらもしっかりと太い字で。
それぐらい仕事は溜まっているということか。
でも、ウルザが一年も村でじっとしているとは思えない。
もともと、アルフレートとティゼルが旅に出たので、じゃあ私もという感じでウルザは旅に出たのだ。
すぐに飛び出す気がする。
ま、まあ、飛び出すまでは村でのんびりしてもらおう。
ウルザがしばらく滞在すると聞いたハクレンやザブトン、それに村の子供たちがとくに喜んでいる。
ルーやティア、アン、そしてもちろん俺も。
だから、一年とは言わないが、夏のあいだぐらいは村にいてほしいな。
更新が滞り、すみません。
生きてます。




