魔石と魔合鉄
追尾荷車。
追尾するのだから、自動で動く。
動力はゴーレムだ。
そしてその動力源は魔石となる。
魔石。
魔力が込められた石で、倒した魔獣や魔物から手に入れる。
その魔獣や魔物が強くなればなるほど、魔石は大きく、込められた魔力も増え、質もよくなる。
つまり、大きい魔石は貴重だ。
なので、追尾荷車は小さい魔石で動くように最初は設計されていた。
しかし、小さい魔石で動かそうとするといろいろな工夫が必要で、そういった工夫が山エルフたちの得意とする場面なのだが、残念ながらその工夫が量産化の妨げになっていた。
要は一部の者しか作れない職人芸。
山エルフたちは考えた。
このままでは追尾荷車の量産にかかりっきりになり、ほかの物が作れない。
そこで、山エルフはいろいろな工夫をぶん投げた。
具体的には、小さい魔石を使わず、大きい魔石を使う。
大きい魔石のパワーで、押し切る方針だ。
実際、そうすることで追尾荷車の構造が簡略化され、量産の目途が立った。
問題は大きい魔石の確保。
さきほども言ったが、大きい魔石は貴重だ。
最初に使っていた小さい魔石は、スイカの種を半分にしたぐらいの大きさ。
山エルフたちが求める大きい魔石は、小指の爪ぐらいの大きさ。
この小指の爪ぐらいの大きさの魔石を集めるのに苦労しそうだ。
ちなみに、村の倉庫に魔石のストックはある。
クロたちが狩りをするたびに、確保して保管しているからだ。
前はクロたちやザブトンたちが好んで食べていたのだけど、最近は「ちょっと硬くて……」と食傷気味だ。
肉やイモのほうがいいらしい。
なので溜まる一方。
今回の追尾荷車にその魔石を使えたらと思わないこともないのだが……
村の倉庫にある魔石は、親指の爪サイズからバスケットボールぐらいの大きさ。
大きすぎるそうだ。
大きすぎても使えることは使えるが、魔石の価値が高すぎて販売向きじゃなくなる。
ならば、いっそ砕いて使えばと思うのだが、山エルフたちがさすがにそれはもったいないと止めた。
ルーやティアも頷いていた。
うーむ。
大きい魔石は貴重らしい。
自動販売するゴーレムには十センチぐらいの魔石を中心に、たっぷり使ったのになぁ。
それに、前にヨルが弾の材料として魔石がほしいと言っていたので野球ボールサイズをいくつか渡したら、ヨルは遠慮なく砕いて粉にしていた。
……
これは言わないほうがいいな。
黙っておこう。
なんにせよ、えーっと、小指の爪ぐらいの大きさの魔石を集めるのが最優先。
ゴロウン商会やダルフォン商会に依頼しておいた。
代金は、集めてもらった魔石の合計と同じ重さの魔石を渡すことになっている。
これでいいのかなと思ったけど、ゴロウン商会とダルフォン商会は破格の条件ですと喜んでいたから、問題はないのだろう。
すでに、ゴロウン商会とは二回、ダルフォン商会とは三回の交換を行なっている。
出て行った魔石は、ピンポン玉サイズの大きさのものが合計で五個だけだけど。
サービスでもっと大きなものにしようかと言ったんだけど、全力で断られてしまった。
村にドマイムがやってきた。
お土産ですと、直径一メートルぐらい巨大な薄緑色の岩石をたくさん渡してくれた。
どれぐらいたくさんかというと、小山ができるぐらい。
ありがたいが、これはなにに使うんだ?
「えーと、わかりません。
ラナノーンさまがここに持って行ったら喜ばれるとおっしゃっていたのですが」
ラナノーン?
あ、ラナさんか。
同じ名前だと、どうしても娘のほうが先に出てくるな。
ややこしい。
ともかく、ラナさんからするとこの岩石は村に有益な物なのだろう。
俺にはどう有益かわからないので、わかる人に聞く。
ルー……は、追尾荷車のパーツ作りで忙しい。
ティアも一緒。
となると、ドースかな?
ドースに聞いてみたが、わからないらしい。
「あ、いや、待て」
なにか記憶にひっかかったようだ。
「この岩……ギグラントさまの宝物庫で見た!」
おおっ。
以前、ラナさんからもらったラナさんの夫の宝物庫の鍵。
ドースはその宝物庫の場所を知っていたが、なんでも現在は海底になっているらしく、安全を確保できないと連れて行ってくれなかった。
ドースが難しいと言うなら、ほんとうに難しいのだろう。
俺も無理に行くとは言わなかった。
なのでドースが鍵を預かり、ドースの部下が宝物庫の中身をこっちに持ってきてくれることになっている。
ただ、大丈夫だとは思うけど俺に渡す前に宝物庫の中身を確認する必要があるとのことで、ドースは宝物庫を開けに行って戻ったけど、その中身は村にまだ届いていない。
しかし、薄緑色の岩石をその宝物庫で見たということだから、多目的人型機動重機の関連品の可能性が高まった。
多目的人型機動重機の関連品だったら、ラナさんが村が喜ぶと評したことも納得だ。
どう関連するかは知らないけど……
ドースも知らないらしい。
ヨルに見せれば、わかるかな?
「その必要はありません」
大樹の村に来ていたベルが、そう言ってヨルを呼ぶのを止めた。
代わりにルーとティアを呼ぶように提案された。
二人とも忙しいんだけど。
「作業が遅れたとしても、知らせたほうがいいです」
そうなの?
ルーとティアを呼んだ。
呼ばれたルーとティアは、巨大な薄緑色の岩石の小山を見て顔を引きつらせていた。
珍しい物なのか?
「珍しいというか、なんというか……」
ルーが説明しようとしたのを、ティアが静かに止めた。
そして村の倉庫から、野球ボールぐらいの大きさの魔石を持ち出し……
巨大な薄緑色の岩石の一つを材料に、ゴーレムを作った。
いつものゴーレムと違う?
これは多目的人型機動重機?
クリムに吸収される前の一号機?
「わかりやすいように模倣しました。
外側だけで、中身はからっぽですよ」
へー。
「この巨大な薄緑色の岩石は……いろいろな呼ばれ方をしますが、私は魔合鉄と呼んでいます」
その特徴は、一号機そっくりに作ることができたことからわかるように加工のしやすさ。
色も変化しているしな。
そして、膨張性。
直径一メートルの魔合鉄で、外側だけといえ十メートルぐらいの多目的人型機動重機を模倣できたのだから、すごく膨らんだと言える。
だけど、重量はもとのまま。
つまり軽い。
でも、かなり硬い。
「これがあれば、多目的人型機動重機の外装の修理はできますし、パーツの複製も楽になります」
なるほど。
多目的人型機動重機が小さな故障に対応できるようになる。
たしかに、多目的人型機動重機の関連品だな。
ただ、世の中には便利なだけのものなんてない。
なにか弱点はあるのか?
熱に弱いとか?
燃えやすいとか?
「いえ。
魔合鉄や魔合鉄で作った物に弱点らしい弱点はありません。
ただ、扱うにはそれなりの技量と、大量の魔力が必要ですね」
ティアが魔石を使うほどに必要か。
「はい。
あとは値段ですね。
昔は多く採れたそうですが、いまではかなり貴重なうえ、扱える者も少ないので」
直径一メートルの魔合鉄で、ティアが倉庫から持ち出した野球ボールぐらいの魔石の価値があるそうだ。
魔合鉄、小山になっているけど?
「倉庫に収納……倉庫の増築をリアたちに頼みましょう」
そうだな。
「ちょっと待ってティア。
これには、ちゃんとした弱点があるでしょ」
ルーが複製された一号機を見ながら言うが、ティアはなんのことかと首を傾げる。
「硬すぎて、再加工ができないことよ」
「ああ、そうでした」
一度、膨らませて形を作ると再加工がほぼ不可能らしい。
「ですが、それは弱点ではなく利点だと思いますけど?」
そうだな。
簡単に再加工できないのは、利点だと俺も思う。
「そう?
じゃあ、この一号機はこのあと、どうするの?
動けるように作らなかったでしょ?」
…………
ゴーレムのように、もとに戻すのはできない。
再加工できないから。
でも硬い。
俺はティアを見た。
ティアは少し考えてから、困った顔をこっちに向けてきた。
えーっと。
このところ忙しかったから、うっかりしてたんだな。
うん。
フォローしておいた。
魔合鉄で模造した一号機は、山エルフたちが解体するまで、しばらく村で雄々しく立っていた。
軽いから移動が楽なのは助かったけど。
ドマイム「久しぶりの出番なのに、話についていけなかった」
ハクレン「次でフォローが入るから、大丈夫よー」
ベル 「出番だと思ったのに……」
ヨル 「私の出番を潰すからです」




