職業見学の結果
五村に職業見学に来た者の大半が、働き口を見つけたと報告を受けた。
いいことだ。
よかった。
しかし、意外だったのはその働き口。
一番人気は農業だった。
生活水準を下げたくないから地元に戻らないと聞いていたのに、それでいいのだろうか?
「いいんですよ。
家付き、土地付き、指導付きなのですから」
俺の疑問に、フラウが苦笑しながら教えてくれた。
たしかに家を渡すけど、それは貸与だ。
しかも小さい。
魔族の一人暮らしや二人暮らしなら十分だが、四人家族だと狭いと感じるぐらいの大きさだ。
ミノタウロス族などの体の大きな種族なら、頑張っても二人暮らしまでだろう。
それに、その家を建てたのは大工見習いだ。
「たしかに見習いが建てた家ですが、一人前の大工が監督指導をしています。
安全確認もしていますし、なにも問題ありません。
それに、トイレは彼らの希望する最新の水洗式が採用されています」
その水洗式を採用するために上下水を用意しないといけなかったので、家はある程度、集めて建てる必要があった。
なので農業をする土地からは少し離れてしまった。
「ぽつんと一軒家よりは、そっちのほうが安全ですよ。
それに、少し歩けば五村の麓ですから、それこそ彼らの求めている生活でしょう」
まあ、たしかにそうか。
しかし、土地も貸与だぞ。
十年、ちゃんと農業をやってくれたら家と一緒に譲渡する契約になっている。
ただし、譲渡後の家の建て直しはかまわないが、土地はそのあとも農地として利用しないといけない制限がある。
「跡継ぎ以外は、地元に戻っても土地はもらえません。
農地にしかできないとしても、将来的に自分の土地が手に入るというのは大きな魅力です」
五村新道の開通のついでで切り開いた土地だから、農業が上手くいくとは限らないんだが。
「村長が切り開いた土地ですから大丈夫ですよ。
それに、指導者がいます」
指導者は、五村で働くベテランの農業従事者が選ばれた。
ただ、自分の畑もあるので、すべてを指導するのではなく困ったときに相談に乗るという立ち位置だ。
それだと、不安じゃないか?
「いえいえ。
破格の条件です。
本来なら家や土地の賃料を払って、魔獣や魔物を蹴散らしながら森林を開拓するところからです。
場所によっては保証金を積まないと駄目なところもあります」
破格の条件なのに、なかなか農業従事者が集まらないとヨウコが嘆いていたが……
「個人で移住してきて農業を希望する者は少ないでしょう」
うーん。
第一期の募集は三百人。
半分も揃わなかった。
今回ので五十人ほど増えたが、まだ余裕がある。
大工見習いたちが建てた家が空き家のままなのは、心が痛い。
一村を思い出す。
「まあ、その……条件が良すぎて、怪しまれている面もあるかと思いますけどね。
今回は、トラインくんやキアービットさんが説明してくれたので、受け入れられたようですが」
なるほど。
「それに、なんだかんだで五村は魔王国の貴族関係者が多いですし、地元に戻らなかった卒業生たちが集まっての就職なので、不安よりも安心が大きかったのではないかと思います。
彼らの活躍に期待しましょう」
そうだな。
「問題は、彼らの親が五村に文句を言ってくる可能性ですが……」
あー、連れ戻しに来たりすることもあるか。
「五村の警備隊には話を通していますので、強引に進めることはできないでしょう」
話し合いで解決してもらいたいものだ。
「そうですね。
あと、魔王さまもなにかしら対策すると言ってましたので」
学園のほうに文句が行くのも困るか。
「はい」
魔王の対策に期待しよう。
余談になるが、五村の職業見学で農業に次いで人気があったのが飲食関係。
ラーメン店や、マルーラの支店、洋菓子店フェアリーフェアリがやっている移動販売などに人が集まった。
ただ、やる気はあっても技術が身につかないと困るので、かなり厳しい採用試験でふるい落とされる……のが本来だが、今回は身元がしっかりしている……しているのかな? まあ、学園がある程度の身元の保証してくれているので、ちょっと緩い採用試験になったそうだ。
しかし、採用されてもよほどの即戦力でない限りは当面は仮雇用。
給金はちゃんとでるけど、遅刻などは正式雇用が遠くなる。
五村の飲食関係に働き口を見つけた者の大半は、遅刻対策として学園が用意した宿舎を利用し続けるようだ。
頑張って正式雇用されてほしい。
「貴族語が抜けない者が、接客で苦労しているようですね」
……
そういう者は採用試験で落とすべきじゃないのか?
「直せる部分ですから」
そんなものなのか。
「そんなものです」
「今回の職業見学、村議会に来る者がいなかったのはなぜだ?
貴族学園の卒業生なら、村議会の仕事もこなせるであろう」
夕食時にヨウコにそう聞かれた。
残念ながら、村議会で働ける者。
つまり、文官仕事ができる者は、地元に戻らなくても、ぶらぶらしていなかった。
今回の職業見学が行なわれる前に、王都やシャシャートの街、五村で仕事を見つけて働いていた。
「五村にもおるのか?」
ああ。
印刷関係で何人か雇ったと、印刷業を担当している文官娘のエライザから報告があった。
おおっぴらに名乗らないから、気づきにくいんだ。
「なるほどの。
ふむ」
強引なことは駄目だぞ。
「わかっておる。
強引に誘っても戦力にならんからな」
つまり、報酬や待遇で釣ると。
「幸いにして、五村の財政は健全だ」
たしかに。
でも、印刷関係はやめてほしいなぁ。
エライザが怒る。
「わかっておるわかっておる」
ああ、そうだ。
山エルフたちが作った新しい荷車を見たか?
「追尾荷車か?
見させてもらった。
いいものだ。
量産は先らしいが……」
五村に専用の工房を建てようと、準備を開始したところだ。
安定した生産は冬ぐらいになるらしい。
それまでは大樹の村で数日に一台か二台。
「あれは、あればあるだけ助かるものだ。
急いでほしい」
材料の調達が難しいんだ。
ルーやティアが協力した魔道具が組み込まれているしな。
「ゴロウン商会やダルフォン商会に集めさせればよいのではないか」
すでに動いてもらっているよ。
マイケルさんなんか、千台も発注している。
価格はそれなりに高くなりそうなんだけどな。
「五村もそれぐらいはほしいぞ」
わかっている。
そのための専用の工房の建設だ。
ベルトコンベア式の流れ作業で、量産を目指してもらう。
おっと、仕事の話ばかりだとヒトエが退屈するな。
「おお、すまぬヒトエ。
ヒトエは今日はなにをしておったのだ。
……プール掃除の準備と?」
プールはリザードマンたちが管理しているが、夏場での利用を考え、事前に大清掃が行なわれる。
その大清掃は、明日行なう予定。
ヒトエたちを含む子供たちは、早くプールが開放されるようにと掃除道具の用意などを手伝ってくれていた。
「そうかそうか。
うむ、一緒に泳ごうではないか。
約束だ」
安易な約束をして大丈夫か?
「なに、優秀な秘書たちがおる。
一日や二日、我が抜けても大丈夫だ」
まあ、前々からヨウコの働きすぎは問題になっていたからな。
ヒトエとプールで遊ぶ時間ぐらいは、なんとかなるか。
場合によっては俺が五村で頑張ればいいしな。
「村長も村長で働きすぎだと問題になっておるぞ」
ははは。
のんびりすることを忘れないよう、気をつけよう。




