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「はい、これ」
あたしはミリューに布の小袋を手渡した。
「本当に、どうもありがとうございました」
ミリューはあたしに向かって、深々と頭を下げた。
すでに彼女は、宿のロビーにある椅子に座れるまでに回復していた。最も、腕の骨が折れただけだったのだが。
「で、その袋の中身って何だったわけ?」
ララが腕組みしながら、ミリューの持つ袋を見た。
ミリューはあたりを注意深そうに見回してから、そっと袋の中身を取り出した。
「うわぁ、きれい」
リュシェーナが歓声を上げる。
それは、親指と人差指で円を作ったほどの大きさがある、青い宝石だった。
装飾品として、きちんとカットされており、さざなみのように光が揺れた。宝石自体、あたしが今までに見たどの空や海よりも深く、青く、輝いていた。
宝石をふちどる銀の飾りもシンプルで、所々に埋め込まれたダイヤモンドもキラキラとまぶしいくらいに輝いていた。
「こんなのを忘れてきたら、気になってしょうがないのは分かった。けど、どうしてこんなところにあるんだい?」
ルーチェが誰もが感じたであろう疑問を、口にした。
「……ヴィーヴォラという、盗賊の名前は知っていますか?」
ミリューは宝石を袋の中へしまいながら言った。
「うん、なんか聞いたことあるな」
と、エフェル
あたしも名前くらいは知っている。他の仲間もきっとその程度だ。
「ヴィーヴォラは十数年まえからサピドゥルのシュロスタやウティで出没している怪盗です。大抵は、宝石や骨董品を盗んでいきます。そのヴィーヴォラからの予告状がプセンタン家に届いたんです。それで、プセンタン家から内密に、くい止めて欲しいという依頼が来たんです」
「そんな依頼が来るものなのね」
レイシアが感心したように言った。
「ええ。依頼の内容は殺人だけではないんです。むしろ、こっそりと取り替えて欲しいとか、持ってきて欲しいとか。そんなもののほうが多いんです」
ミリューはそこで言葉を切った。
「今回も見張っていてほしい、出来るのならばヴィーヴォラを暗殺してほしい、そんな依頼でした」
「ヴィーヴォラを暗殺か。成功したら、すごいニュースになるよね」
ルーチェは目を輝かせた。
「まぁ、失敗したんですがね」
ミリューは苦笑した。
その時、彼女が頬を赤らめたのを、あたしは見逃していない。
「ヴィーヴォラがアスールの間にある壺にこの宝石を入れたのを見たのが精一杯でした。彼は後々何らかの方法で壺の中の宝石を手に入れる。その前に取り戻さなければいけないと思って焦ってました。屋根から落ちた私を介抱してくれたこと、ヴィーヴォラの手に渡るまえに宝石を手に入れてくれたこと、本当にありがとうございました」
そう言ってミリューは、懐から別の小袋を取り出した。
「これはお礼です。使ってください」
「おお、悪いな。ありがとう」
エフェルが受け取った。
「これからどうするの?」
ルーチェが訊いた。
「この宝石をプセンタン家に戻してから、帰ります。本当にいろいろありがとうございました」
ミリューは椅子から立ち上がると、深々とお辞儀をした。
最後に、名残惜しそうにちらりとこちらを見ると、窓から去っていった。
みゃーんと、アーテルが鳴いた。
「相変わらず変なところから出入りするよな、チュニ族って」
エフェルがあきれたように言った。
「玄関から堂々と出入りしたことってあるのかな?」
レイシアがつぶやいた。
「ところで、あの娘からなにをもらったの?」
ララがエフェルを見た。
「お金だよ。結構はいってる」
エフェルが袋の中身を見ながら答えた。
「なんだあ、宝石だったらあたしがもらったのに」
あれの半分、いやその半分以下でもいい。
キラキラしたものを、つけてみたかった。
「宝石だったら、即換金よ」
ララが笑っていった。
「うわ、もったいない。つけてみたいと思わないの?」
「つけてみたいっていう気はもちろんあるわよ。でもね、誰かさんが踊らないっていう以上は、そうする他、ないんじゃないの?」
ララに痛いところを突かれたあたしは、何も言い返せなかった。
悪いのは、あたしじゃないんだけどさぁ。




