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俺は高校教師になって駅伝部の顧問をやることになった  作者: 糸魚川孝紀
顧問就任2年目
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埼玉合宿② みんな違ってみんなヤバい

 3泊4日の埼玉合宿は3日目を迎えていた。

 俺が見るのはAチーム、3000m9分中盤以上の実力を持つ選手たちだ。うちのチームからは、エース漣と稲穂。与野坂本からは篠藤と大町と相田、熊谷学院からは伊藤と権田。計7人のチームだ。

 漣と稲穂は言わずもがな、京子の後継者に相応しい二ノ丸高校の次期エース格。

 与野坂本の篠藤は新3年生で、3000m障害で10分前半のタイムを持っている。3000m障害とは、3000mをトラックで走るうちに障害物(ハードル)を30回飛び越えるというえげつない身体能力が必要とされる種目。篠藤は高校2年の女子でこれを10分台前半…… 恐ろしさしかない。3000m障害はインターハイに種目がないから、このポテンシャルはもったいないくらいだ。大町と相田は800mも2分10秒台中盤を持っているスピードタイプのランナー。与野坂本は、スピードタイプの選手を揃えている。

 一方の熊谷学院は、距離重視のチーム。伊藤も権田も1500mは県大会も超えられないレベルだが、去年の秋口に3000mで9分20秒台の好タイムを連発した。熊谷学院は進学校なので1年を通じて走り込み、駅伝にだけ合わせてくる作戦らしい。与野坂本とは、全くタイプが違う。

 Aチームのメンバーにウォーミングアップをさせるた俺は今日のメニューの説明をした。

 3日目午前中の練習は1200m+300mを、合計2セットだ。これは1500mの練習。昨日も一昨日もペースランニングをやっているので、今日は質を高めて、という位置づけだ。

 一通り説明したところで、漣が突っ込んでくる。

「センセー、ちょっと距離少なくない? Bチームは1000m3本だから同じ3㎞で距離変わらないじゃん」

「いや、これでいいんだ。これはレペティションという練習で、1回1回を試合並みに追い込むのがやり方だ」

 だから距離は多くなくていい、と。

「なるほどね…… じゃあどれくらいめざして走ればいいの?」

「そうだね。自己ベストで」

「まじで言ってんの!?」

「そう。レペはそれくらいの力でやらなきゃ。昨日も一昨日もペースランニングだったから、もっとも2セット目じゃないと出力上がってこないと思うけど」

 淡々と説明する俺に突っかかったもう1人がいた。

 与野坂本の篠藤だった。茶髪……いや金髪に近いショートボブ。パッと見は女子大生に見せるような外見。チャラいくらい。

「栃岡先生、お願いがあるんですが」

「ん? どうした篠藤」

「ハードルつけて走っていいですか?」

 は? 今なんて言った?

「聞こえなかったよ。もう一度言って」

「その通りですよ。ハードルを置いて、1200m+300mの2setをやっていいですかって」

「いやいやいやお前誰だよ!? ハードル選手!? ドM??」

「私だってね、この合宿中にずっとイライラしてるんですよ! いつもハードルを飛び越えながらメニューをしてるのに、なんですかこの平坦な練習は!!」

 篠藤はめちゃくちゃキレている。

 そういえば篠藤、監督の相馬先生が「あの子はハードルが大好きで」とは話していたけども

「ハードルが好きってレベルじゃねぇぞ!?」

「私はねぇ! 普通のトラックに興味はないんですよ!」

「なぜ自分で過酷なインターバルにするの! タイム遅くなるだけだよ!?」

 篠藤は一歩も引かず、俺のメニューにハードルを置けと抗議をする。

 漣と稲穂が若干…というかかなり引いていたが、もう一人突っ込んでくる人間がいた。熊谷学院の伊藤だ。くるくるパーマのボサボサヘアは、朱を超えた癖っ毛である。

「栃岡先生、私たちも、上下ボアのウィンドブレーカーを着てレペをやってもいいですか?」

「なんでわざと厚着をするんだ! もう3月下旬だぞ!」

「熊谷市民は暑さがアイデンティティなんです! 日本一暑い市町村なんですよ!」

「まさか…… いつもそれで練習してると言わないよな……」

「? してますけど?」

 なにか? と言わんばかりの反応。

 まじか…… 熊谷学院、夏のトラックに弱くて冬のロードに強いと聞いていたけど、もしや夏までこのバカ暑い服装で練習してるんじゃないのか…

 埼玉のランナー、恐るべし。新潟も我ら二ノ丸高校だけじゃなくて、岸部の横越とか、暁月の寺門とか、ぶっ飛んでる選手が多いと思っていたが。

 おそるべしだ。

 毒舌キャラの漣、そして大声キャラの稲穂が埋没している。

 みんなキャラが濃い。みんなヤバすぎる。気を抜いてたら完全にあいつらにペース惑わされる!!!

 ……とはいえ、今は春のトラックレースに向けて重要な時期だ。ジャージの襟を正しながら、咳ばらいをした。

「みんな色々やりたいことがあると思うが、もう一度考えてほしい。今日の練習の目的は何だ? 篠藤」

「ハードルを――――」

「な・ん・だ!」

「そ、そりゃあ春のトラックレースに向けて練習することですよ。私たちも二ノ丸高校も、地区大会まで1か月くらいですし」

「そう、その通りだ。この練習は試合と同じ条件――――服装、時間、路面、シューズ、給水で行う必要がある。変に条件を加えると、本当の自分の実力が分からないからね」

「だから、試合の1500mを走るような想定をしなければいけない」

「そういうことだ。そういう準備はできているか? もちろん、メンタル面も含めて」

 そう言うと、篠藤は妙に納得したようだった。

「これハードルないほうが練習の効果ありそうですね」

 伊藤も、合点がついた様子だった。

「せめてTシャツでやらないとですね」

「そういうことだ。じゃ、準備して10分後にスタートしようか」

 俺はスクイズボトルを片手に、爽やかにそう言った。



 スタートラインに並んだ彼女たちの姿は、まさに強豪校の選手だった。

 内側から、熊谷学院の伊藤と権田。背があまり高くはないためあまり体格のいい印象は受けない。が、かなり走り込んでいるようでその脚はまさに健脚だ。筋力トレーニングもやってるようで肩回りはしっかりしている。強そう。

 その外側には与野坂本の篠藤、大町、相田は反対に背が高く、まるで3人とも女子大生のようだった。というか、よく見ると篠藤だけじゃなくて大町と相田もかなり背が高く、中距離選手みたいなフィジカルの強さを感じる。全員170㎝くらいかな。でかい。

 そして一番外側には、漣と稲穂。篠藤と並ぶと漣も小さく見えるが、それでもしっかりした身体つきをしている。稲穂もだ。この冬は「強い体を作る!」をテーマに毎日懸垂と腹筋と腕立て伏せ、そんでもって体幹トレーニングを毎日泣くほどやったら、姿勢でちゃんとしてきた。

 よいではないか、よいではないか。マジで強そうな中長距離選手に見えるぞ! 2人!

「うっわ、なにジロジロ見てるのキッモ」

「栃岡先生…… 文字通り鼓膜が請われるような大声出しますよ……」

 Tシャツ&ランパン姿の2人は、俺を真面目にドン引きしながら見ている。うぉ、やばい。また今年も変態扱いか?

「と、とにかく! 今回のレぺは試合を想定してやるんだぞ。まだまだ新潟じゃトラック練習はできないからこそ、こういう機会大事にしないと」

 実際、最近の練習といえばまた雪道を走ったり、補強をしたり、陸上競技場の雪かきをしたり……という具合。まともな陸上選手らしい練習はしていなかった。

 だからこその埼玉合宿、だからこそのレペティション。今日は大事にしたい。

 それに…

「このなかじゃ、漣も稲穂も、一番タイム遅いんだぞ」

 漣も去年の東京体育大の記録会で5000m15分台という実業団顔負けの実力を発揮(してもう1周余計に走ってしまったために17分台のの自己ベストを樹立)したが、3000mの自己ベスト自体は新潟ロングディスタンスで出した9分42秒ほど。

 稲穂も同じように3000mの自己ベストは9分38秒。

 うちのチームは、トラック種目での結果を残せていなかった。

 北信越駅伝は完全勝負重視のマッチレース、都大路は当日京子がわけわからん走りをしたこともあって最後かなりいい感じでこれたものの、実力的にはそんなでもない。

 ……今年はインターハイでもいい勝負したいな。去年は散々だったし。

 俺からプレッシャーのかかることを言われたのを、彼女たちは感じていたらしい。

 漣は短いショートヘアをかき分けて答える。

「ふんっ! わかってるっての! 今年は去年みたいに、へなちょこの私じゃないんだから」

「なるほどな。んじゃ、本気で走ってくれ」

「言われなくとも!」

 漣は気合十分だった。

 ほかのメンバーも準備はできていた。

 みな、半袖Tシャツに、ランニングパンツという具合。まだランシャツを着るのは少し早いから、この服装で十分。

 3月の空は快晴で、日差しはとても暖かい。でもそれは日差しだけのこと。風が吹けば一気に体温が奪われる。

 もしもの時のために俺はボアコートを片手にし、ストップウォッチをしっかりを握りしめた。

「じゃあスタートだ。最初は1200m、この400mトラックを3周だ。それじゃあみんな位置についてーーーー」

 彼女たちは体勢を低くする。スタートの姿勢だ。

 よーい、スタート! と俺は勢いよく声を出した。

 その瞬間、激しい回転で曲線に駆け込んでいく彼女たち。それはまるで、実際の試合のようだった。

 最初に先頭を引っ張るのは篠藤だった。さすが、1500mでも4分30秒を切るほどの自己ベストを持つ選手。ガンガン攻め込んでいく。

 それに続くのは大町と相田、やはりスピードがあるな。

 その次にようやく漣、そして伊藤、権田、稲穂がきていた。やはり稲穂は最初からガツガツいけるほうではないようだ。

 入りの200mをそのままトップの篠藤が引っ張って、41秒ほどの通過。あれ? でもそんなに速くないぞ?

 走りを見る限り、動かしていないようには見えないんだけれども。

 やっぱりまだ冬シーズン空けたばっかりだから動かないんだな。しょうがないな。

 それでもーーーー

「まったり走りすぎだ! へばっていいからどんどん攻めろ!」

 俺はトラックに向かって叱咤する。

 こんなところで甘えてペースダウンしてほしくない。最初からガンガン走って、精神的にも閾値を上げてもらわないと。

 先頭の篠藤がそのまま1周目をトップで通過した。

 80秒。少し持ち直したかな? でも、まだ遅い。

「篠藤! 2周目はもっと動いてくるはずだ、動かせ!」

 400mの通過をした篠藤は、大きくハッと息を吐いて2周目に入る。

 それに続いてやってきたのは、大町、相田。漣は2mほど距離が離れている。

 漣は結構辛そうだった。いつもストライド走法気味なところがあるが、今日はそれ以上のストライド。腰も引けていてばてている様子だ。

「漣ー! 落ちたままで終わるなよー!」

 漣のことを気遣ってそう言ってあげたのだが、漣にはそれが優しさとは受け取られなかったようだ。

 彼女は俺の横を通り過ぎたときに身に着けていたアームウォーマーを外した。

 曲線の内側の芝生に向かって投げた。畳むとかまとめるとかせずに。ぐっちゃぐちゃ。

 そしてブチ切れながら叫ぶ。

「るせーなー! これから上げるんだよ!!」 

 そう言って彼女は一気にピッチを上げた。

 みるみるうちに上がっていくペース。大町と相田のことを一瞬で置き去りにした。

 うわ、早い。

 去年の東京体育大の記録会で織田新子との絡みでも思ったけど、やっぱり怒らせたほうが速くなるんじゃね?

 漣はそのままバックストレートで篠藤まで距離を縮める。

 紫色ののTシャツを着た篠藤の勢いは変わらないが、漣はもっと速い。

 漣は、そのまま、2周目も終わろうとしたその時、ホームストレートで篠藤の横に並んだ。

 篠藤は「え? 抜かれた?」と驚いた表情をしたが、それでも追い抜こうとする漣に並走しようとする。

 2周目の通過はーーーー2分35秒。

 うわうわ、この1周を75秒まで上げてきたよ。1周5秒上がるって相当だぞ…

 漣と篠藤はそのまま並走して3周目へと入っていった。

 そのとき思った。-------あれは止まることなく走り続けるぞ。



 俺の予想は的中した。結局、漣と篠藤はそのまま死闘を繰り広げた。

 (1200m+300m)×2setのタイムは

 漣(二ノ丸) 3分47秒ー52秒ー3分45秒ー50秒

 篠藤(与野坂本) 3分46秒ー51秒ー3分44秒ー49秒


 ……二人とも速すぎない!? 普通、1200mと300mを全力でやった合計タイムが1500mの自己ベストくらいになるのに。それを2本もこなしちゃってるし。

 ていうかまだ3月。レース1本も走ってないのにここまで体作っちゃって大丈夫!?

 調子が良すぎてケガしないか心配になってきたんだけど。

 彼女たちにクーリングダウンのジョグに行かせているあいだ、俺はペン先をカクカク震わせながら練習ノートに記入していた。

 これは午後と、最終日は少し強度を落とさないとだな。ほかのメンバーのタイムも、この時期にしては上々だし、調子が上がりきってもらっても困る。

 どこかにいいクロスカントリーコースでもないかなぁ。

 彼女たちはジョギングを終え、体操を終え。俺のところに集合してくれた。

 黒色の二ノ丸高校のジャージを着た漣が、Aチームのリーダーだ。彼女は練習が終わってから終始、不機嫌そうな顔をしている。

「センセー、メニュー終わった。ミーティング、よろしくお願い」

 ふてぶてしそうにそう言った漣らを集めて俺は今日の練習の総括をした。

 試合に向けての実践的なトレーニングをする、という今日の練習の目的はまず達成できた。しかし、この調子が上がっている時こそケガをしやすい。午後はジョギングと補強、明日の練習もコントロールするから、各自自分の体としっかり向き合うようにしよう、と結びの言葉を言った。

 そして礼をして午前の練習は解散、お疲れさまでしたということで各学校ごとに集合することとなった。




 現在の時刻は11時半。お昼は熊谷の陸上競技場のミーティングルーム等を使うこととして、午後の練習開始は2時から。それまで俺は一緒に、与野坂本のサブコーチ羽村先生、そして熊谷学院の田中先生、計3人で昼食に行くことにした。朝陽は「そんなむさくるしい陸上バカと話合わない~」と言って、子供たちの見張り役ということで与野坂本のメインコーチ岡村先生と居残りを選択した。岡村先生は生徒から「お釈迦様」という名前がついてるくらい温厚で寛大でおおらかなおじいちゃんで、趣味が合うんだとか。あれ? 朝陽に趣味なんてあったっけ? そんなこと言ったら朝陽に怒られそうだけど。

 俺たち顧問3人は車をちょいと走らせてカレーを食べに来た。いわゆるインドカレー屋的なカレー屋で店名は「ナマステ」。インドカレーがおいしいという看板の店に掲げられているのはネパール国の国旗なのはツッコまないでおくが、バターのかおるおいしそうなナンの香りは心地いい。熊谷学院の紳士な指導者、田中先生が教えてくれた。いいな~わが二ノ丸高校のある新発田市にもほしいな~。

 俺はバターチキンカレーにナンをつけて食べながら、羽村先生、そして田中先生と情報交換をする。

「うちの学校も去年までは教頭が部活には反対で。でも部員に信の……娘さんが入ってくれてだいぶ変わりましたよ」

「二ノ丸高校ってそうなんですね。与野坂本なんて、強化部じゃない部活の予算はほぼゼロにして、っていう状況で…… 事実上の戦力外通告みたいなもんですよ」

「熊谷学院も年々きびしいですね。少子化の影響で、私立は入学者を取り合っている状況です」

「埼玉でもそんな厳しいんですか。うちの新潟なんて、もっと厳しくなるな…」

「いやいや栃岡先生、二ノ丸高校ならたまに東大合格者出る名門校だから。与野坂本(うち)みたいにスポーツ一本ってのも、相当の実績じゃなきゃ厳しくなってますよ」

 どこの学校も似たような状況なんだな…… 少子化、部活、進学、あとは私立だからビジネスの話。高校の運営って年々厳しくなっているんだな。

 こういう話題話してばっかりだと暗くなるから、少しは明るい話題にしなきゃ。

「そういえば羽村先生、今日練習に行かせてもらった、うちの吉村はどうですか?」

「あの子ですか? いやぁ、いい子ですよね。さすがは生徒会長ですよ」

 羽村先生は千香のことを絶賛した。

「挨拶もできるし、教えたことを自分で落とし込もうとする様子があります。まだ初日なので、正直センスはわかりませんけど、性格はかなり競歩向きですよ」

「そうですか…!」

「それに、これは一番大事なことなんですが―――――――」

「?」

「競歩という競技に対しての、尊敬(リスペクト)がありますね。普通、あれくらいの年齢の子だったら、斜に構えたりするんですけど、それがない。非常に謙虚です」

 きっと、あの子のことを、この種目は見捨てないですよ。

 そう羽村先生は言った。

 なんか、なんかうれしいな。千香は今まで駅伝部の競技的にはところでは目立たなかった選手だけど、こんなところで注目されるだなんて。

 もしかしたら…もしかしたら、千香、競歩でひと花咲かせられるんじゃなかな?

 期待に胸を躍らせる俺。まさか3年生の千香に、一気に伸びる可能性が残されていたとは、驚くばかりだ。

 感心している俺だったが、ジェントルマン田中先生が思い出したかのように話す。

「あ、でも栃岡先生、Bチームに来てた常盤さん?って子、あの子もかなり伸びしろあるよ」

 Bチームに行った常盤さんは涼風のほうだな。

「ほんとうですか! ありがとうございます!」

「お笑い芸人のほうで」

「そっちですか!? いやはや、また何かうちの天真爛漫バカがご迷惑をおかけしまったようで……」

「とんでもない。いつでも明るくメンバーを励ましてくれるので、とても助かってるんですよ」

「そうですか…」

「ギャグのレベルが本当に寒いのが心残りですが」

 うわああああああああ。やめてくれよまじで!?!? だいたい何言ってるか想像できるぞ!!

 顔から火が出る、ランシューから涙が出る思いだ。

 恥ずかしい。恥ずかしいよおおお。

 どうせわけわかんない言葉を連呼してるんだろ……本当に恥ずかしいからやめてくれ。二ノ丸高校は、ワライダケでドーピングしていると思われる。

 愕然とする俺の様子を見た田中先生は、若干申し訳なさそうになる。

「いやいや、決して悪い意味ではないんですよ。お気に障ったら申し訳ない」

「いえ、いいんです。予想外なことをするのは想定内なので」

 まったく……頭を抱えさせてくれるわ。Bチームにはあと、サクラと朱がいたが聞くのが怖くなってやめた。もう聞くの怖いもん。どんな言葉が出てくるか分かったもんじゃない。

「午後の練習も迷惑かけます。ちなみに午後のメニューは、予定通りのジョグでいいですか?」

 最年長の田中先生に尋ねる。

「ええ。ただ、場所を変えようかと。車で30分ちょっといった場所に、いいクロカンコースがあるんですよ。入場無料で、ウッドチップコースの」

「すごいですね。車で行くのは全然オッケーですよ。連れていきます」

「そうこなくっちゃ。では、行きますか」

 田中先生が上着を着たその時。俺は、ちょっと待ってくださいと言った。

 羽村先生が不思議に思ってこっちを見る。

「どうしたんですか? 栃岡先生」

「いや、まだナンを2枚しか食べてないので。もう2枚はと思って……」

 羽村先生と田中先生は、はぁやれやれと言わんばかりの表情。

 田中先生は、店の店長を呼び出した。

「マスター。ナン2枚をテイクアウトで。現役13分台ランナーが食べたいってさ」

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