特訓2
暫くアポロの威圧を受けていた5人は何とか立ち上がる事は出来る様になった。
逆に言えばアポロの威圧の中で平然と動いて居るユーク達の方が異常だとも言える。
「リオは出来るだけ躱して相手の魔法の応用を教えて上げて欲しい」
「解りました」
「ミーシャにはベンさんと近接の連携攻撃の練習を頼む」
「はい解りました」
「サラさんとソフィアは2人で連携して僕に攻撃を当てる練習ね」
ユークに言われてもまともに声を出せるサラ達では無かった。
リオサイド
「さてそろそろ始めましょうか?」
リオの言葉にもまだ、まともに動く事すら出来無いギネスとホリーだがリオーは時間が勿体無いと先制の魔法を軽くぶつける。
「ウインド」
風の魔法が二人の目前に迫った。
2人は必死に回避しようとするのだがあっけなく喰らってしまう。
「今のが本気の攻撃なら死んでましたよ。ご主人様も仰ってましたが魔法の応用法で余裕で防げる筈です。今のなら対抗魔法で相殺するか躱すのが正解ですが、体が動かし辛い状態なら咄嗟の判断でも魔法で対抗するのが普通ですよ」
「解ってはいるのですが魔法すら発動させ辛いんです」
「まず一つヒントを差し上げましょう。魔法は言葉に出す必要は有りませんよね」
リオは言葉に出して魔法を発動させたがそれは相手に解るようにする為に出しただけなのだ。
「さてどんどん行きますよ。攻撃を喰らうのが嫌なら攻めてきてくださいね」
「ウインド」
リオが言葉を出して魔法を発動させるが今度はホリーが【ウインド】で何とか相殺。
相殺を確認したギネスがファイアを唱えるがリオは既に次の魔法を発動していた。
無詠唱の【ウインド】がギネスに襲いかかり吹き飛ばされた。
「ギネス!」
叫ぶホリーに躊躇無くもう一度【ウインド】を飛ばしていた。
ものの見事に直撃してホリーも飛ばされてしまう。
「味方を気にするのは解りますが、相手から意識を切り離してはいけません。ましてや今は訓練です。致命傷を与える魔法は使ってないのですから先ずは相手を黙らせてからにしないと今みたいになりますよ」
リオはギネスとホリーにハイヒールをかけて少し休憩と告げた。
ミーシャサイド
「さて私達も始めましょうか」
「は、はい」
ミーシャはゆっくりとベンに近づき木剣を構えた。
ベンとサラとソフィアには鋼鉄の片手剣が渡されている。
ミーシャは本当にゆっくりと木剣を振るってベンの胴を薙に行く。
ゆっくりの動きに威圧の中で動きにくい体を無理矢理動かして普段使っている武器よりも重い剣で受け止める。
だが、ミーシャは続けて木剣を振るう。
段々と速度が上がりミーシャが2段階程速度を上げた所でベンは木剣の攻撃を防ぎきれずにくらってしまった。
「うぐ~」
悲鳴に近い唸り声でベンはその場に蹲った。
「まだまだ1/10も力を出してませんよ。確かに武器の重量差は有りますが、なれるしか有りません。ご主人様が仰られてましたが、ベンさん達は全体的に体力と力が少な過ぎまするのです。」
「筋力アップの為に鋼鉄の剣なんですね」
「はい、最低それくらいは楽に扱えないと後々困りますからね。さあ何時まで休んでるつもりですか?次行きますよ!」
ミーシャは言うなり真っ直ぐ肩越しに打ち降ろしの一撃を放った。
ベンは何とか剣で受け止めてミーシャと対峙した。
今度はベンからと鋼鉄の剣を横薙に振るうのだがあっさりと躱され反撃を喰らってまたもや蹲ってしまった。
「無謀な大振りは躱されたら良い的です。私達も少し休憩にしましょう」
ユークサイド
「非力な2人にはその武器は厳しいと思うけど頑張ってね」
「「はい」」
「先ず僕は一切攻撃をしないから2人で好きに攻撃して良いよ」
先手が大事とサラがユークに大きく剣を振り下ろした。
遅れてはいけないとソフィアも同じ様に振り下ろしてくる。
ユークは軽く下がって避ける。
「サラさんと同じ攻撃をして同じ様に攻撃が続かないなら2人で攻撃する意味は無いよ。ソフィアはサラさんの攻撃に続くならサラさんが次の攻撃を出せるまでの繋ぎに徹しなと反撃して下さいって言ってるようなものだよ!」
「は、はい」
ソフィアは大きく返事をしてサラの攻撃を待った。
「ほら、それもダメ、待ってくれる敵は居ないよ。常に敵を休ませないように連携して攻撃しないと一生見習いの侭だし寿命を縮めることに成るよ」
「はい」
話している間にサラも体制が整ったのかサラが先制の攻撃を仕掛けてきた。今度は横薙に剣を振るっている。
ユークが軽く躱すと剣の重さでサラはその場で回転してしまい後ろから駆け込んできたソフィアの胴を見事に強打した。
ソフィアはユークに注意を払って居たせいでモロにサラの同士討ちの餌食となった。
当然刃引きしているので斬れる事は無かったが痛そうな痣が出来ていた。
ユークはハイヒールで痣を直してからもう一言付け足した。
「サラさんも自分勝手な攻撃をしすぎです。ソフィアが居る事を考えて攻撃をするのにはソフィアの動きを先読みする必要が有ります。今のもサラさんの影から攻撃を仕掛けようととしているソフィアの動きを理解していれば横薙の攻撃は有り得ません。」
「そうね。御免ねソフィア」
「いえ私が避けていれば問題は無かった事ですから」
「さてもう一度行くよ」
ユークは優しく声を掛けて2人を立ち上がらせた。
「何時でもいいよ!」
今度は2人で頷き合いソフィアが先に仕掛けてきた。
最初と同じ縦切りだが今度はすかさずサラが突きを放ってくる。
サラの突きが躱されると体制を立て直したソフィアが横に回り込んで範囲の広い横薙に斬りかかってきた。
サラはソフィアの反対に移動しながらソフィアの攻撃範囲から離れてコンパクトな突きを繰り出す。
ユークにしては超スローモーションな動きなので交わすのも訳はなかった。
暫く連携攻撃が続いたのだが先に体力が尽きて2人の動きは止まってしまった。
「はい、一度休憩しようか」
「は、はい」
二人はその場に座り肩で息をしていた。
「さっきの攻撃は良かったよ。それにアポロの威圧にも勝ってるって気づいてる?」
サラ達はユークに言われて最初程威圧感を感じていない事を今更ながらに気づいた。
「本当です。最初よりは体が動きます。」
「そうなんです。威圧に勝つには気迫なんです。2人は僕を倒そうと力の限り向かって来ました。その気迫が威圧感を打ち消したんですよ」
その後も個別の訓練は続いたがエマが昼食を持って来た事によって一時中断となった。
「ユーク様お食事の用意が整いました。」
「有難う」
ユークは昼食を摂りながら各班の状況を整理する。
「ミーシャの方はどう?」
「はい、ベンさんはまだまだ攻撃が続かないですね。剣に手こずっているのは仕方ないにしても攻撃を全く出せませんから威圧分を差し引いても全然です」
「リオの方は?」
「そうですね。2人共アポロの威圧にまだ勝ててません。動けないから何も出来無いという状況ですね」
「そうなんだ。こっちはもうアポロの威圧を上げてもいい段階迄来たよ。力が無いのは仕方ないけれど気構えは大丈夫」
「流石ご主人様です。半日でアポロの1段階目を克服させるなんて凄すぎます」
「リオの教えてる魔法士2人は直接戦闘と違うから相性が悪い。克服には時間がかかるよ」
「そうですが半日で克服させたご主人様に言われても・・・」
「さてべンさん達は如何ですか?」
「キツいです」
「私達もリオ様に全く手が出ません」
ベンに続きギネスが答えた。
しかし何かを掴んだのかホリーが試してみたい事が有ると言う。
「私達は最初よりも動ける分、多少はましだと思いますがまだまだ攻撃が続かないです」
「そうだね昼からはサラさんとソフィアはミーシャに任せる」
「はい」
「リオはそのまま」
「はい」
「僕がベンさんの相手をするね、それとサラさんとソフィアに言っておくけど昼からは攻撃されるって事を忘れないで」
「「はい」」
「待たせたかい」
「いえ丁度良いタイミングです」
ユークは魔法士の2人を鍛える為にドロシーに声をかけていたのだ。
「何だい地竜も使ってるのかい」
流石ベテランである。
直ぐ様アポロの威圧感に気づいたドロシーだが平然と歩いてくる。
「ユークにしてはスパルタだね」
「そうですか。多少厳しくしてますが、それほどスパルタとは言えない程度ですよ」
「あの地竜はアポロだろ。威圧感だけならピエールに次ぐ威力だよ」
ドロシーにはアポロも他の地竜も見分けが付かない。ただ気配で判断しているのだ。
「ええ、ですが十分距離もとらせてますから。それ程でもないと思いますよ」
「それで私は何をすれば良いんだい?」
「リオの相手をしている2人の魔法の応用を指導して貰いたいのです」
「成る程ユークの頼みなら断れないね」
昼食後エマに片付けを頼んで其々別れて訓練に向かった。
リオサイド
「先ず2人が動けないのはなんでか解るかい?」
ドロシーが当然の様にギネス達に聞いてみる。
「はい地竜の威圧感に抑えられてるからです」
「なんだ解ってるじゃないかい。ならどうして打ち消さないんだい?」
「どうやって打ち消すか解りません」
ドロシーは考えてから答えを教える。
「少し考えたら解ると思うけどね。あんた等が押さえ込まれてるのは気迫が足りないんだよ。仮にも冒険者だろ。ランク以前に相手にのまれてどうするんだい」
「気迫ですか?」
「ああ、戦う前から負けてるんだよ。簡単に言うと襲っても来ない敵にビビってるんだよ!ピエールが威圧してるのなら解るけどねアポロ位なら、ましてあそこまで距離をあけた敵にビビってどうするんだい」
「具体的にどうすれば」
「簡単な方法なら目の前のリオ嬢ちゃんに勝てると思い込んでご覧」
「リオ様に勝てると思い込むのですか」
「ああ、もっと極端に言えば絶対に自分は負けないと確信してる敵だと思えば良いんだ。あんた等ならワイルドウルフ位なら余裕だろ」
「あっ、はい」
「ならリオ嬢ちゃんをワイルドウルフだと思い込んだらどうだい」
ギネスとホリーはドロシーが言う様に敵はワイルドウルフだと真剣に想像したのだった。
先程まで散々苦悩させられていた威圧感が全部では無いがはっきりと軽減されたのが解る。
「あ、あれ?」
「どうだい体が軽くなっただろ」
「はい」
「まだ多少は威圧感を受けているのは本来威圧してるのがリオ嬢ちゃんでは無く地竜だからだよ。幾ら頑張ってもあんた等では絶対に倒せないからね」
「では平然と動かれてるドロシーさんも地竜を倒せるのですか?」
「それは無理だね。私が動けるのは経験と地竜との力の差が少ないからだよ。気迫なんてものはある程度までは自分の意識でどうにか成るもんさ。」
一通りの説明を終えドロシーが模擬戦開始を促した。
「少しは動ける様に成ったみたいですね。ですが本当の訓練はここからですよ【フリーズ】x2」
リオは言葉の終わりに2人の足にフリーズをかけ足止めをした。
突然の攻撃に2人の足は氷付にされる。
直ぐに【ファイヤ】で解除するがすでにリオの【ウインド】が2人に襲いかかっていた。
状況判断が早かったのはホリーだった。
自身の足の氷が凍傷等の殺傷力のない攻撃だと判断して先にリオの【ウインド】に【ファイア】をぶつけて相殺した。
ギネスは足の氷を解除して直ぐにリオに向けて【ファイア】で牽制した。
ホリーはギネスが牽制している間に氷を解除して午前中とは違い機動力も使ってギネスからも距離をとってリオに【ファイア】を放った。
時間差攻撃に近い2連発だがリオは少し移動して【ウォータ】1発で打ち消した。
ここでドロシーから『そこまで』と声がかかった。
2人がフ~と息を吐きドロシーの元に歩み寄った。
「今の一連の動きでも解るけど無駄だらけだね」
「無駄ですか?」
「ああ、嬢ちゃんが足枷を後回しにした判断は正解だがその後に放った【ファイア】は無駄と言うより魔法の選択ミスだね。先に放たれた魔法と同じ魔法をぶつけたもんだから【ウォーター】1発で消されたんだ。それに打つタイミングも早すぎる。もう少し遅らせていれば同じ【ファイア】でも有効だっただろう」
「はい」
「それとあんたに至っては攻撃を受けた時から焦りすぎて何とか足かせを解除しないといけないと思って視線をリオ嬢ちゃんから外しただろ。たまたま隣の嬢ちゃんが気づいたから良かったが男のあんたが気づかないでどうする。それにリオ嬢ちゃんが【フリーズ】を掛けた時点で【ウォータ】の可能性を考慮してたら相性の悪い【ファイア】で攻撃なんて出来無い筈さ。有効な属性が見つからなくても最低3種の系統魔法を見せてくれたんだ風か水で攻撃するのが当然だと思うがね」
ユークの言う応用とはそう言う事だ。
「リオ嬢ちゃんはわざと手の内をさらけ出してくれてるのにその意味を理解してないのは愚の骨頂だよ」
「そこまで考えたたんですか」
ギネスはリオの方を向き投げかけた。
「ええ、ご主人様に応用法を教えてくれと最初に言われてましたから」
「ユーク様はこうなると分かっていたということですか?」
ホリーが驚いた様に聞いて来た。
「当然だろ。ユークはSランクの冒険者だよ。あらゆる状況を判断する力も格段に優れているからこそあの歳でSランクに成れるんだよ」
「そうですね。常に戦いの場では10手は先を読んでるとしか思えないですね。大概1擊で終わってしまいますけど・・・」
ミーシャサイド
「それでは午前中にご主人様から教えられた事を踏まえて始めましょう」
「はい」
「威圧感は克服されたのですね。」
「なんとかですけど」
「それで十分ですよ。それなら更に威圧感を抑える方法をお教えしましょう。」
「そんな方法があるんですか?」
「はい凄く簡単ですよ。」
「それはどうすれば」
「多分ご主人様からは気迫を学ばれたと思います。」
「「はい」」
「今度は今の威圧感をまともに受けてみて下さい。」
「受ける?」
「そうです。最初のようにリラックスした状態を思い出して見て下さい。」
「怖いと思えばいいのかな?」
「違いますよ。そうですね今戦う為に気合が入ってますよね。それを先程の昼食の時の様に考えてみて下さい」
「昼食。リラックス・・・あれ?更に軽くなった」
「違いが解りましたか。先程までは威圧を受けて耐える。でしたが、今度は受け流してるのです。直接自分に向けられた威圧感を受け流すのは難しいですが不特定多数に向けられた威圧感は今の様に受け流してしまえば全く普通に動けるのですよ」
ミーシャの説明の通りサラもソフィアも普段通りに動ける様に成っていた。
多少威圧感は感じているが動きを阻害されるような事は無くなっていた。
「今の感覚を覚えておくとダンジョンで出会った魔物の強さも判断出来る様に成りますから覚えておいて下さいね」
「「はい」」
「それでは近接の攻撃ですけれど始める前に2人の武器を普段使っている物に戻して下さい。ソフィアちゃんはエストックね」
「いいのですか?」
「はい、ご主人様が今の2人の力だと鋼鉄の片手剣は無理だと仰っていましたから構いません」
「いえ、そういう事では無くてもし当たったらミーシャ様が怪我をしてしまいますよ」
「あら、私に攻撃を当てられると思っているの?そんな事が出来るのはこの世にご主人様しか存在しませんわ。まだまだ駆け出しの貴女達が仮に100人で掛かって来ても掠らせませんよ。だからご心配なく」
余りにも見下した物言いだがこれもユークがたてた訓練の一つだ。
いかに冷静に連携がとれるか、いかに相手の実力を見極められるかの訓練だ。
「何時でもどうぞ」
サラが最初に突撃する。
サラの武器はレイピアだ。
先程までとは嘘の様に軽く体も動く、当然武器も素手の様に重さを感じない。
しかし幾ら連続で突こうともミーシャには全く当たらない。
サラのスピードはミーシャにも超スローモーションに見えている。
当然であろうミーシャの動体視力はユークの全力以外の動きですら認識しているのだから。
サラに続いてソフィアもエストックで連続突きを放つのだがまるで踊っているように軽やかに躱していく。
「そろそろ攻撃してもいいかしら?」
2人の攻撃を完璧(余裕)で躱しながらミーシャが語り掛けた。
サラにはミーシャの余裕な態度が更なる見下しに思えたのだろう、攻撃のリズムが滅茶苦茶狂っていた。
ソフィアは余り気にしてないのかいいリズムで攻撃を繰り出している。
しかし年下のソフィアからサラに『落ち着く様に』と言う指示が出る事も無かった。
それでもミーシャは更に煽る。
「本当に攻撃しますよ?」
その一言の後に軽くサラとソフィアは風に吹かれる感覚を感じた。
既に2人の腹部にミーシャの木剣が打ち込まれた痕が浮かび上がっている。
しかも先程まで攻撃していた場所にはミーシャの姿は既になかった。
「はい、そこまで!」
ミーシャの綺麗な声が聞こえた時に2人は腹部の痛みに気がついた。
「えっ、いつの間に?」
「さて、反省会をしましょう。まずはソフィアちゃんは全体的に経験不足なのは仕方無いですが、もう少し踏み込んだ方が良いでしょう。後は馴れるしか有りません。そしてサラさんは面白い様に私の作戦にはまって下さいましたね」
「作戦?」
「はい。ご主人様からサラさん用にと聞かされて居た作戦ですが、まずは挑発に弱いと言う事と焦ると攻撃のリズムが狂うと言う事ですね。最初の私の挑発に見事にはまって下さいましたし、攻撃するという言葉で完全にリズムを狂わせて居ました。ソフィアちゃんはまだ経験不足で怒ると言う事は無かったのですがサラさんは経験が有る分見下されたと考えたのでしょう。見事に策に落ちていました。」
「えっ、あれって作戦だったの?」
「はい、ご主人様からサラさんが敵と対面した時に如何に冷静でいられるか試して欲しいと言われてましたので、私なりに考えてみました。多分年下の私だからこそ余りにも自分を下に見ていると腹が立ったのでしょう」
「・・・・」
「冷静に成っていれば私がサラさんを見下す理由も無いと簡単に解りそうですけど」
「ユークちゃんってそこまで考えて居たんだ」
「これはあくまでも私の見解ですが、サラさんが知ってるご主人様とは頭脳も実力も別人だと思いますよ。世界にただ一人のSS以上確定の冒険者ですよ。剣だけでなく魔法も頭脳も超一流ですよ」
ユークサイド
「さてベンさんがパーティーのリーダーだと思いますが、資質も経験も全然ダメです。ダンジョンに取り残された事実にこの程度の威圧に何時までも手こずっているのも論外です。」
「それは理解してます。だから強くなりたいのです」
「一つ聞いても良いですか?」
「はい」
「リーダーの強さとはなんだと思いますか?」
「やはり統率力でしょう。力が有ってこそ統率も取れるのだと思っています。」
「う~~ん、そこが間違ってるのだと思います。確かに力がないと何も始まりませんが力とは統率する為の物ではありません。力とは仲間を守る為の力です。パーティーを守る為に力を鍛える。当然守られた仲間は付いてくる。それが統率力に繋がってるのです。」
「確かにそうですね」
「良いですか先ずはベンさんが仲間の為に強くあるべきなんです。これくらいの威圧をねじ伏せてやると言う気迫を持つことが何よりも大事なんです。」
「簡単に言われても難しいですね」
「解りました。もう貴方には何も言いません。これでも僕は国王です。多少の事件は揉み消せます。今から本当にサラさんを殺しに行きます。貴方はそこでじっと見ていて下さい。貴方の大事な奥さんが死んでいく所を」
ユークはそう急にベンに侮蔑な視線を送り諦めた様に言ってゆっくりとサラの方に歩いていく。
ベンだけに解る様に殺気を漂わせて・・・
「じょ、冗談だろ!」
急激な態度の豹変になあの冗談だと理解が追いつかない。
ユークは振り返り含みの有る笑顔を見せてからゆっくりとサラの方に歩き出した。
「ユークさま?」
「・・・」
途中でサラ達が放置していた鋼鉄の片手剣を拾いゆっくりと進んでいく。
ベンは向けられた殺意に考えが纏まらないが兎に角止めなければと、死に物狂いで叫んだ。
「ユーク~~!!」
叫んだと同時にユークに斬りかかった。
ベンの攻撃はあっさりとユークが握った剣に受け止められてしまった。
「はい、そこまで!」
ユークはにっこり笑ってそう告げた。
「やれば出来るじゃないですか」
「えっ」
「冗談ですよ。僕が幼馴染のサラさんを殺すわけ無いでしょう。そもそも今回の訓練も幼馴染が怪我をしない様に鍛えてるんですから」
ベンはどっと疲れが出たかの様にその場に座り込んだ。
「でも今なら威圧に負けずに動ける様になってませんか?」
「言われてみれば」
「それがリーダの資質です。何者にも負けないと言う気迫で地竜の威圧を打ち消したのです。ですが地竜に勝てると言う事では有りませんから勘違いしないで下さい。今は敵から逃げるにしても動けない状態を作らない為の訓練です。」
ユークは笑顔でベンに手を差し伸べた。
「それでは皆集まって!」
ユークの言葉でミーシャもリオもユークのそばに集まって来た。
「皆お疲れ様、ミーシャの方はどうだった?」
「はいご主人様の想定通りでしたが本人は十分理解したと思います。それに今のアポロの威圧なら問題なく動けます。」
「そうか、リオの方はドロシーさんに聞いた方が良いかな?」
「そうさね。威圧の克服はまだ半分って所だね魔法の運用は自分で考えるしか無いが基礎はしっかり理解できたと思うよ」
ドロシーの意見にリオも頷いたので間違いないのだろう。
「ベンさんも威圧の克服はなんとか成ったよ。後は判断力と洞察力だけど仲間を守る為には何が必要かもう言わなくても解ってると思うからこの後5対1の模擬戦をします。」
ユークはこのあとの予定を簡単に説明した。
「僕はアポロを鉱山に返して来るからしばらく休憩してて、それと交代でピエールが帰ってくるから覚悟しておいてね」
ユークはそう告げてアポロと鉱山にワープした。
「覚悟ってなんでしょう?」
べンがミーシャに問いかけた。
「ああ、アポロの威圧が今は消えて、ずいぶん楽になってるでしょうがご主人様の言う覚悟とはピエールに威圧感を出させた状態で戻ってこさせるから覚悟しろと言う事だと思いますよ」
「成る程」
ベン達は地竜の威圧感に耐えられたのだから火竜でも多少は平気だろうと簡単に考えていた。
「あんた達ひよっこが思い知る本当の恐怖にならなければ良いがね。しっかりと意識だけは持っておくんだよ」
その頃鉱山に移動したユークはクララが来るのを待っていた。
「アポロも今日は有難うな。今度ゆっくり遊んでやるからしっかり仕事をしてくれよ」
「ぐぉ~~}
しばらく待っているとピエールが姿を表した。
「ユーク様、もう終わったのですか?」
「今から最終訓練なんだ。 それよりクララもピエールもお疲れ様だったね。」
「いえ、ピエちゃんと遊んでいたみたなものですから」
「ぴえ~~~」
「小屋の上空にワープするんだけどピエールは最大力で小屋に居る人間を僕が良いと言うまで威圧してくれる?」
「ぴえ~~」
「ユーク様?もうピエちゃんまで耐えられる様に成ったのですか?」
「いやいや、まだ無理だと思うよ。アポロの1段階がようやく終わった所だからね」
「気絶してしまいませんか?」
「それもいい経験だよ、本当に力の有る魔物の迫力も知らなければ無謀な事をするかも知れないからね釘を刺しておくだけ」
「そう言う事ですか」
「上空500mに移動するからピエールはゆっくり小屋に向かってくれ」
「ぴえ~~~」
ユークはクララを抱える様にピエールの上に飛びのった。
(ワープ)
「来たね」
ゆっくりと近づいて来る恐怖は段々とカラダの自由を奪っていく。
「もしかして全力かい」
ドロシーの言葉にミーシャが頷く
「ご主人様が覚悟と口にされましたから全力だと思いますよ。でもまだ300m以上離れてますから」
「私も流石にこれはきついね一度出ておくよ」
「はい伝えておきます」
既にベン達は地面に縫い付けられて動く事すら出来ていない。
ゆっくりと小屋に姿を表したピエールから一瞬で威圧感が消えた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「クララもお疲れ様ゆっくり休んでて良いわよ。ピエールの世話は私がしておくから」
「はいミーシャさん。ではお任せします。お腹ペコペコで」
クララは可愛く下を出して笑ってから城の方に走って行った。
「ピエールも有難うゆっくりしてていいよ」
ピエールの世話をミーシャに任せてユークはべン達の所へ歩いて行った。
「如何でした。今のが本当の威圧です」
「今日の訓練が何だったのか解りません」
「実際ピエールの威圧は火竜の中でも飛び抜けています。あれに耐えられるならSランクの魔物でも余裕で対応出来るでしょう。勝てるかは別ですが・・・」
「リオ様も平気そうでしたが」
「私ですか。平気とまでは言いませんが普通に動く位なら大丈夫です。ピエールの威圧に全く平然としていられるのはご主人様とミーシャさんしか居ませんよ。それにご主人様の本気の威圧は今の倍では利きませんから」
「えっ朝の威圧は?」
「ああ、あれで半分位でしょうか」
リオがユークの代わりに答える。
「本当に?」
「ええ」
今度はユークが答えた。
「試しに少しずつ威圧してみましょうか?」
ベン達は先程体験した恐怖よりも好奇心が勝ったのか相談して頷いた。
「それでは先程のピエール位の威圧から行きますね」
ユークは5人に向けて威圧感を放出した。
だが5人は一瞬で意識を飛ばされてしまった。
「あらら、やっぱ無理だったか」
「ですね」
5人をゆっくり揺すり覚醒させていく。
「大丈夫ですか?」
意識がまだはっきりしないのか遠くを見るような目で佇んでいた。
「大丈夫ですか?先程のがピエールが至近距離で威圧して来た位ですね」
「あんなに凄いんですか」
「そうですねですが耐えようと思えば耐えられる様に成りますから頑張って下さい」
ユークはそう告げてリオに用意させる。
5対1の1はユークでは無くリオが戦うのだ。
べン達は当然ユークだろうと思っていた。
「リオ様ですか?」
「ええ、僕の魔法だと威力を下げても怪我をさせてしまいますから魔法込みならリオ位が皆さんに併せ易いんですよ。だからと言って皆さんが手抜きしたら怪我はする威力で戦わせますから覚悟して下さい」
ユークはベンにも普段使っている銅の片手剣に持ち替えさせた。
「リオはわかっていると思うけど実戦だと思ってやらないと意味はないからね」
「はい、殺してしまわない様に気をつけます。」
「皆さんはリオを倒さないと命がなくなると思って真剣に殺すつもりで戦って下さい。」
「はい」
「それでは始め」
掛け声と同時にリオは得意の【ウィンド】を足元にぶつけて土煙で目隠しを作る。
しかし移動は少し後ろに下がっただけで気配をたよりに【フリーズ】を5人の足めがけてかけていく。
先程より数段威力が高くなった【フリーズ】だが喰らったのはソフィアとベンの2人だけだった。
直ぐにサラが魔法の飛んできた方向目掛けて突進していき、ギネスとホリーは2人の氷った足を解除していった。
サラが突進した先には既にリオの姿はなく最速で5人の後ろに回っていた。
真っ先に気配に気づいたホリーは【ウインド】を連続でリオ目掛けて投げつけるのだが簡単に相殺されてしまう。
足枷から解放された2人はダッシュでリオに駆け寄る。
ホリーは咄嗟にソフィアの前に援護用の【ウインド】を発動させる。ギネスも同じ様にベンの前に発動させたのだがリオは直ぐに足元に目くらましのためにもう一度【ウインド】をかけて移動。サラの真後ろ30cmのところに現れ杖で軽くサラの頭を叩いた。
その勢いのままホリーとギネスに接近して同じ様に頭をポコンっと音がする強さで叩いてソフィアとベンの足に軽くフリーズをかけて足止めした。
「そこまで」
僅か1分程の出来事だ。
「お疲れ様、リオ」
「はい」
「如何でした魔法と近接のバリエーション攻撃」
「早すぎて見えません」
「そうですか?私の動きなんてまだまだですよ。皆さんはこの前の戦技大会を見てないのですね」
「はい見てません」
「ご主人様とミーシャさんの模擬戦はそれは凄かったですよ。ちなみにミーシャさんは2階級で優勝してますからね」
「2階級?」
「はいAランクと無差別クラスです。Aランクでは私と決勝を戦ったのですが、無差別はあのガストン様と戦って勝利してますから。」
「マホガリアのSランク冒険者のガストン様ですか?」
「はい、ミーシャさんは完勝してましたよ。そのミーシャさんが全く手も足も出なかったのがご主人様ですけどね」
リオは自分の夫の自慢がしたいだけなのだ。
「ミーシャ!」
ユークはピエールの手入れも終わり遊んでいたミーシャに声を掛けた。
「はい」
「特訓はここまでにしようか」
「はい」
「ベンさん達も今日1日で簡単ですが基礎は解ったと思います。これからは定期的に僕たちが皆さんの依頼に同行する形で実戦を拝見します。だからと言って手伝いませんよ!それとミーシャ!」
「はい。こちらをお持ち下さい」
ミーシャはベンに1枚の紙を差し出した。
「これは?」
「解りませんか?閃貨です」
「せ、閃貨!!」
「はい、城に長らく逗留させるのはこれからあなた達がコンラットを拠点にするなら望ましく有りませんしいくら幼馴染でもそこまで甘やかすのもどうかと思います。冒険者としてこれから頑張って行くならその閃貨で宿屋に泊まるも良し家を買うも良し好きに使って下さい。」
「しかし貰う理由が有りません」
「そうですね。無期限無利息の貸しだと考えて下さい。コンラットの繁栄の為に頑張って欲しいという先行投資だと考えて下さい」
こうしてベン達パーティーとの特訓は一先ず幕を下ろした。




