会談
ヤーン村のゲイソンから知らせを受けたバッカス・E・イエーガー近衛騎士団団長は、エルマー=フルーリー=エスコット王の命令で、フルール大迷宮探索隊の編成に追われていた。
2部隊の編成をすませ出撃命令を待っていた。
そこに1人の冒険者がやって来た。
黒長髪、蒼目の冒険者はブルースと言いフルール王国に席を置くAランクの冒険者だった。
ブルースはバッカスに王への謁見を求めていた。
謁見の許可を得てバッカスと共に謁見室に入り報告をする。
ブルースは依頼でフルール大迷宮に先発隊として調査に出ていたのだ。
「報告を聞こうか」
宰相のアイザックに問われ報告を始めた。
「地下33階まで調べましたが、発見出来ませんでした。」
「簡単には見つからんか」
「はい、ですが少し気になる事も有りました。」
「気になる事だと?」
ブルースの言に王が聞き返した。
「はい、大迷宮の規模が半分に成っておりました。私は何度も大迷宮に入ってますが、私の知る迷宮の広さは有りませんでした。」
「件の魔物がダンジョン内の魔物を殺して迷宮が縮小したと考えるのが自然か」
「はい、しかし大迷宮が発見されてから、この様に短期間で縮小したと成ると相当に危険です」
ダンジョンは吹き出す魔素の量や倒される魔物の数で、バランスが保たれていた。
今回の様にダンジョンが縮小または消滅すると言う事は、それだけ魔物が殺されているか魔素の吹き出しが減ったと考えられる。
後者なら問題は無いのだが、前者なら大問題だ。
何故なら、ダンジョン内はアイテムを持ち出す事でバランスが保たれていて、魔物が倒されてもアイテムを放置しておけば全く変わらないのが解っていた。
今回の縮小が魔物を倒した事だとするなら、四散して地面に吸収されなかった事になる。
魔素毎消えたたとしか考えられないのであった。
ダンジョン内の常識では考えられない事態であった。
ダンジョンが小さく成ったのは良い事だが、それを短期間で成した魔物が居ると言う事が脅威だった。
ダンジョンにはAランクの魔物までしか生息して居ないのだが、それを短期間に消したと考えるとSランク相当の魔物だと考えられる。
「近衛では荷が重いか、せめて確認出来れば対策も取れるのだが」
ユークに頼むか、もう少し様子を見てダンジョンが消滅するのを待つのも手だ。
アイザックはバッカスにダンジョンを監視する部隊の再編成と駐屯出来る施設の建造を指示したのだった。
ダンジョンへの立ち入りを禁止して、様子を見る方向らしい。
その頃、天上界の神界でも動きがあった。
地上界に新たな魔物の波動が感知されたのだ。
地上界の監視を指示していたアポリウスに連絡が入った。
「アポリウス様、地上界に存在しない魔物の反応が有りました。」
「魔界が何かしたのかも知れない、ユーリア様に報告して対策を考えます」
アポリウスは過去の神魔大戦を思い出し最悪の結果になる前に手を打とうとユーリアの元に急いだ。
「ユーリア様、緊急事態です」
「な~に~、今いそがしいのよぉ~」
「寝てたじゃありませんか!」
「お昼寝にいそがしのよぉ~~~」
全くぶれないユーリアにアポリウスは用件を伝えた。
「魔界が地上界への結界を開いた可能性があります。」
「また~、ハ~デスちゃんの仕業ね~」
ユーリアは、ハーデスに会談を申し込む様にアポリウスに指示した。
時は過ぎユーリア、ハーデスの会談が神界で行われた。
「ハ~デスちゃん、地上界の結界を触ったでしょ~~~」
ユーリアの言葉に全く悪びれずに答える。
「一度、地上界に遊びに行こうとしたが見つかって、直ぐに閉じたぞ」
「駄目じゃな~い、魔界の魔物が地上界で見つかったってほ~こく有ったわよ~~」
「ユーリアが俺に会いに来ないから地上界に行こうとしたんだぜ、文句が有るならたまには相手しろよ」
黙って聞いていたアポリウスとハーデスの従族魔のヨルムが口を開いた。
「ハーデス、貴方はまだユーリア様を誑かすつもりですか」
「アポリウス殿も落ち着きなさい、今問題が有るとすればその魔物の始末でしょう。魔界から誰か出しましょう」
ヨルムの言葉にアポリウスは否定した。
「魔界からこれ以上災厄を地上界に降ろされては困ります。地上界への不干渉を先に魔界が破ったのですから、今回は神界から出します。それで構いませんか」
ハーデスはユーリアを口説くのに必死で全く聞いていない。
ユーリアも顔を赤らめて照れまくっていた。
((この方達は会議を何だと思っているのか))
アポリウスもヨルムも呆れていた。
アポリウスはヨルムと交渉を再開して、ユーリアを無視した。
「魔界はそれで宜しいですね。」
「こちらに非が有る以上仕方ない。魔界から使者を出すと、ハーデス様が直接行きそうだし神界の意見を受けよう」
「期限は魔物を倒すか天上界に連れ戻す迄で宜しいか」
「うむ」
これ以上時間が掛かるとユーリアがまた落とされると、アポリウスは会議を終わらせユーリアを連れ出した。
ヨルムもこれ以上の面倒事は勘弁とハーデスを魔界に連れて帰っていった。
「ユーリア様、誰を地上界に送りますか?」
「え~何のこと~」
「先程の会談で、神界から使者を出す事に成ったでは有りませんか」
「へ~そうなの~~」
全く聞いていなかったようだ。
「あなたに任せるわ~~~」
「そんないい加減では困ります。どの程度の魔物が降りたのかも解りません。然るべき者を送りませんと」
「面倒くさい~~、アポリウスが行って来て~~~~~」
地上界に転移させたユーリアの子共の事も有るので、アポリウスは了承した。
グラン山脈の山の崩落の報告も受けていたアポリウスは、ユーリアの子がやったのでは無いかと考えていた。
「アポリウスゥ~~」
「何でしょうユーリア様」
「あなたの事だから、私の子供も捜すつもりなんでしょ~~」
お見通しだった。
「そ、それは・・・」
「探すのはいいのよぉ~~、でも殺したりするのは駄目よぉ~~」
「そこまでは考えてませんが・・・」
「そう?その子が地上界で上手く遣ってるなら手出し禁止ね。もし地上界で問題が有るなら連れてきて頂戴!」
「一度地上界に落とした子を天上界に連れてくるなど出来ません」
出来ない事でも無いのだが、今更だし天上界も困るからの判断だ。
「それじゃぁ~~ね、この剣を渡してくれる~~」
ユーリアが取り出したのは黒耀剣と言われる片手剣だった。
神界でしか作れない剣で、体力とMpを吸収する鋭い剣だ。
硬度も高くオリハルコンすら遥かに凌駕する。
「この剣を地上界にですか?問題が出るかも知れませんよ」
黒耀剣は地上界には存在しない鉱石で出来ているのだ。
「母親からのプレゼント位良いでしょ~」
「ユーリア様の事を話す必要も出てきますよ」
「あなたの判断にまかせるわ~」
丸投げは全く変らないのだがアポリウスには絶好の機会でもあった。
黒耀剣を受け取り、地上界への転移の準備をはじめたアポリウスだった。
ちなみにアポリウスも当然<神がかり>を使える。
ステータスは
体力、魔力共に2000である。
地上界で言うSSランクを軽く超えていた。




