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神様の棄児  作者: ryo-KK
3章 日常
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甘い誘惑

ガストンの衝撃の引退表明で世界の情勢も変わろうとしていた。


ガストンの現役引退に一番衝撃を受けたのは、マホガリア聖王国だろう。


ガストンの人望も有り、マホガリアには現在6名のAランク冒険者が住んでいた。


どの冒険者もガストンの弟子と自称していた。


実際にはガストンに弟子はおらず、唯一のSランク冒険者の弟子と名乗れば泊が付く。


マホガリアがガストンに頼み込み、名乗る権利を餌に高ランクの冒険者を集めていたのだ。


しかしガストンが敗北し引退と成って、効力も薄れて来ていた。


マホガリアにはピンチだが他の国にはチャンスでもあった。


特にセルト王国には、ガストンを負かしたユークが居る。


マホガリア同様にすれば、苦もなく高ランクの冒険者が集まるであろう。


しかしヴィンラントはそれを許さなかった。


ガストンの様に引退したら、逆にピンチに成ると解っているからだ。


ヴィンラントの下した決定はユークの他国への流出の阻止だった。


セルトには元からフレイザーも居たし、何よりユークが居れば全く困る事も無かった。


フルールにも1人Aランク冒険者は住んでいた。


今回のガストンの引退で新たに2名の移住願いも届いていたのだ。


焦るマホガリアは減税や奴隷の優遇と、これ以上の流出を抑えようと必死だった。


1番焦っていたのは、コンラット皇国だろう。


もとからAランク冒険者の居ない国で、大きな山脈や湿地帯が有り土地としても貧困な国だ。


その上、地竜や水神竜、火竜までが生息する国として冒険者も集まり難い。


セルトやマホガリアに依頼をして自国での解決を半ば諦めた国だったのだ。


ガストンの引退にいち早く行動を起こすべき国なのだが、セルトでの手合わせ後国に戻るのもグラン山脈に地竜が生息する為、他の国より5日は余分に掛かったのだ。


鉱山と貿易のみが収入源で、富裕層も少なく出せる条件も限られる。


悪循環からか治安も余りよろしく無かった。


数少ない富裕層は鉱山で採れるレア金属のおかげで大富豪が多い。貧富の差が極端に大きかったのだ。


国全体がカルロス伯爵みたいだと考えれば解り易いだろう。


ユークの実力をその目で確認した各国の王は、寄せ集めのAランク冒険者よりもユークが一番欲しいのも事実で、ユーク獲得の為に作戦を繰り広げるのであった。


第一ラウンドは情報合戦だった。


各国が調査員を派遣してユークの身辺調査に乗り出していた。


しかし以前ラクトが集めた程度の情報しか集まらない。


ラクトの様に初めからユークを疑って掛かっていれば違う調査内容も調べられたのかも知れないが、現時点ではラクトが1番詳しいのだった。


その頃ラクトも王宮に呼ばれユークの事を聞かれていた。


ラクト自身はユークをどうにかしたいとも思っていない。


古のスキル<神がかり>を知りたいだけなのだ。


王宮の会議室にはヴィンラント王を始め、デズモント宰相他貴族の重鎮が列席している。


ユージンの姿もあった。


「ラクト司書長の調査では、ユーク殿がその<神がかり>と言う古のスキルを持ってる可能性が高いと言うのだな」


「はい、全てが推測ですが、ユーク殿が図書館で調べていた事も、興味深く私の研究成果を聞いていた事も、自身の未知のスキルを調べる為だと考えれば納得も出来ます。 そして、こちらも未確認ですが、ヴィンラント王の護衛でコンラットに行った帰りに地竜が出た場所の近くで、一夜にして山が崩れると言う事変も起きております。

ユージン団長からお聞きした所、ユーク殿は護衛依頼で覚醒の時期を迎えたと伺いました。その事から考えますに覚醒後に新しい魔法が増え、人目も少ないグラン山脈を選んで実験成りを行ったのでは無いかと思います。これは確認が取れてますがユーク殿はワープのスキルも使えます。一度護衛で行ったグラン山脈なら簡単に移動出来都合が良かったのだろうと推測しました。」


ラクトの仮説(事実だが)を聞いていた重鎮達は、一様に否定的であった。


「ラクト司書長の言われる<神がかり>と言うスキルが本当に実在するのかね」


ラクトは過去の文献や研究成果も携えて来ていた。


「皆さんも話し位は知ってる思いますが過去に神魔大戦が有ったという事実をごぞんじでしょう。大戦終結後地上の壊滅的な惨状も多少ですが伝わっています。その時に地上に残った魔物を一掃したスキルが<神がかり>と言われるものです。 <神がかり>と言うスキルですが文献に残ってる以外では全く発見されてません。ですが確実に存在したと私は確信してます。ユーク殿の生い立ちも不明、所持スキルも隠している事からもユーク殿こそ<神がかり>の継承者で有ると思われます」


「ユーク殿が神がかりと申すスキルを持ってたとして、国としてはどの様に対応すれば良いのじゃ?」


ラクトの熱弁を聞いていた重鎮の1人がラクトに意見を求めた。


「皆さんもご存知の様にユーク殿は極めて非戦闘的です。自身の関係者にさえ何もしなければ全くの無害、それどころか関係さえ崩さなければ協力的だと言えるでしょう。」


「気分次第で変わられるのも扱いに困ると思うのだが」


デズモント宰相も疑問を口にした。


「私の研究の結果、ユーク殿が<神がかり>のスキルを持ってるなら、ユーク殿に従うしか生き残る道は有りません。先程の山が崩れた件がユーク殿の手による物ならセルト王国位なら一晩も持たずに壊滅するでしょう」


国が一晩も持たないと聞いて集まった全員が生唾を飲み込んだ。


「しかし本当に<神がかり>なるスキルを持ってるなら致し方ないが、まだ確かめた訳でも無い。この状況でユーク殿に付き従うのも早計だと思うがの」


ユークに聞いた所で、答える訳も無いし力ずくで聞く事も不可能だ。


「何か確かめる方法が有れば良いのだが・・・」


この時は良い考えも出ずに解散と成ったが、数年後に1国を滅ぼす大事件に発展する。だがそれはまた別の話だった。



ユークの元には毎日各国からの目録が送られてきていた。


マホガリアからは、税金免除、買い物も国の費用、住居も王宮並みの城、警備以下使用人も国が持つと言った内容だった。


コンラットからも似た様な内容だが、国には住まなくても良いがSランクの魔物を定期的に駆除する事が条件だった。


フルール王国に至っては、時期王の権利とカーラ王女を差し出すとあった。


カーラ王女を妻にと少し考えた(いやいや、本当に少しだけ)


ミーシャ達はユークが決めるなら何処でも良いと条件すら気にしないが、カーラ王女の事には猛反対していた。


おまけで、クララも反対していたのだ・・・


それに引き換えセルトでは、今までと変らず何も提示して来なかった。


ユークにはそれが一番気楽で良かったのだ。


ただ、ユークの知らない所で、『ユークに口説かれたら断る無かれ』と言う御布令が出ていたのをユーク家のみが知らされていなかった。


その頃からユーク1人で外出すると貴族の娘が接来たりもしたが、ミーシャ達が居る時は全く寄って来ないのであった・・・


ユーク争奪戦はまだまだ始まったばかりなのだ。


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