手合わせ
コンラットとの貿易の為に通行しているグラン山脈に地竜が現れ、迂回するのも大変だと両国での協議の結果、実績のあるユークに、交流の有るセルト王家から依頼が来た。
依頼自体は問題も無く2日で完了し地竜監視部隊(コンラットが峠の警備の為に新設した舞台)の確認報告を屋敷で待っていた時に知らせが届いた。
依頼の確認が終わったのだと全員が思っていたのだが、内容は違っていた。
「ガストンって、有名なガストンだよね?」
冒険者に詳しいレミーに確認する。
「だと思います。世界で唯一のSランク冒険者で、マホガリア聖王国の重鎮、時期国王とも言われている方です」
知らせは、そのガストンからだった。
内容は手合わせの申し込みだ。
「ガストン様は、現役の冒険者をしておられますが、ピークは過ぎていたと思います。 お若いユーク様を後継にとお考えなのでは」
「冒険者に後継も無いだろうに」
自由が売りの冒険者に地位を譲る必要は無い。
ランクさえ上がれば自然と地位や名誉は付いてくるからだ。
「単純に、ご主人様の実力を知りたいだけなのでは?」
リオの意見にミーシャも頷いた。
「Sランクの冒険者ってどれ位強いの?」
「世界に唯一の存在ですし、フレイザーよりは格段に強いと思いますが、ユーク様は規格外の存在だと思いますので、勝敗は解りません」
「規格外って・・・」
「規格外で間違ってないと思います。フレイザーもユーク様と同じAランクでしたが全く相手に成りませんでした。普通同ランクでの手合わせの場合、もっと競り合ってもおかしくないのです。」
レミーの言う事は正しかった。
同ランクのフレイザーすら余裕で倒したユークは規格外なのだ。
地上界が勝手に定めた基準で、神魔の子を推し量る事すら可笑しいのである。
地上界は神界や魔界に比べると格段に低レベルなのだ。
地上界最強の地竜や水神竜、火竜も、魔界からすれば中級の魔物だ。
地上界で1人しか居ないSランク冒険者相当の力の有る者も、神界や魔界にはごろごろ存在するのだ。
ステータスの数値を並べて見た事が無いから気づかないがAランクの平均が、体力500魔力250なのだが、ユークのステータスは、体力、魔力共に2200と逸脱していた。
ユークのステータスだと、地上界ならSSを遥かに飛び越えていた。
後にEXランクと設定されるが地上界のそれより遥かに高スペックなのだ。
これは余談だが、ハーデスの体力、魔力が3800、ユーリアが4000なのに、ユークの最終値は5000に成るのだ。
件のガストンのステータスも600,300とユークに比べ遥かに格下である。
「面倒だし、依頼に行ってる事にして断ろうか」
適当に言い訳を作り手合わせを回避する事にして、レミーに返事を出して貰った。
数日が経ち、ガストンからの返事が来た。
※活躍されてる様でなによりです。 貴公の手が空いたらで結構、セルト迄は転移で移動出来る為当方は待つ所存。是非とも手合わせしたく思う。
との事だった。
「諦めてくれないのか」
「その様ですね。」
「受けるしかないね」
受けるしかないと半ば諦め、レミーに明後日には帰ってくる。その後は暫く依頼も入っていないと連絡して貰う。
「勝ってしつこく再戦を挑まれても困るから負ければ良いよね」
わざと負けると聞かされたミーシャがユークに告げる。
「手を抜かれるのですか?」
「相手の実力も解らないし確認しながらだけどね」
「ご主人様、それでは相手に失礼です。今更ご主人様の実力を隠すのも良いとは思えません。はっきりと実力を示した方が、今後この様な手合わせも無くなりご主人様も気にしなくてよくなると思います。」
ミーシャの意見にはリオ達も同意みたいだ。
「それに、私個人の意見ですが、ご主人様が負ける所など見たくありません。ご主人様には常に最強であって欲しいのです。」
ミーシャを抱き寄せ耳元で『僕が間違ってた』と囁き絶対に勝つと宣言した。
美女の激励はなによりの力だと思うのだった。
4日後にガストンから連絡が届いた。
手紙の差出日から考えて、明日の昼、場所はセルト王宮練兵所と成っていた。
度々手合わせしている場所だった。
立会人はユージンで、ヴィンラント王、マリアンヌ王妃、レイチェル王女、その他各国の王や王女も観戦すると言う事だ。
たまたまセルトでSランクの魔物の、対策会議が開かれていたから観戦者が多いのだ。
ミーシャ曰く各国にユークの実力を知らしめる良い機会だそうだ。
今回も一般の観戦は出来ないのだが、クララが見たいと駄々を捏ね出したのには大変困った。
宥めるも効果が無く、仕方が無いので連れて行く事にした。
放っておくと勝手に忍び込んだり無茶をすると解ってるからだ。
翌日、手合わせの時間前にアイスラークが迎えにきた。
ガストンや各国の王もそろそろ見えられるとの事だ。
ミーシャを先頭にリオ、レミー、クララと送迎の馬車に乗り込んだ。
ユークは最後だ。
馬車に乗ったまま練兵場の入り口まで送って貰い、女性陣は観覧席に、ユークは場内にと別れていった。
観覧席には、各国の王の他にも貴族らしき人も多数見受けられ、ミーシャ達は最前列でユークを見ている。
中央まで行くと観覧席からは見え難いのか客席から20m程離れた所にユージンとガストンと思われる人物が立っていた。
ユージンが双方を紹介し握手を交わして、注意事項を聞いた。
殺さない様に気を付ける事、ギブアップ後は直ぐに離れる事、挑発行為は控える事、お互いに遺恨を残さぬ事と注意された。
使用武器は自由、本来なら木剣なのだが、2人の実力なら木剣でも相手を容易に切断出来るから意味が無いのだ。
寸止めルールだがユークには自身が無かった。
ガストンは大剣(名前は知らない)ユークは素手だ。
寸止めなので、魔法も使えない。
「素手と言う事は魔法が主力か?」
ユークを見てガストンが聞いてきた。
「はい、ですが寸止めですから使いません」
「多少なら使って貰って構わんが、威力を見せて貰っても良いか?」
手の内を晒す様なものだが、使えないので、見せても構わないと頷いた。
ユージンが待機していた部下に、鎧を着せた人形を用意させた。
ユージンの部下が離れたのを確認してユークはファイアを人形目掛けて放った。
人形を中心に半径5m近くの爆炎が襲い、瞬時に墨と化した。
流石の威力に観覧席の一同も息を飲んだが、近くで見たガストンは大いに笑っていた。
「たいしたもんだ、魔力は俺以上だな」
実力もガストン以上なのだが、この時点ではまだ知らない。
ユークの力が魔法に偏ってると判断したのか、ガストンも素手でやると言い出した。
「剣を使って頂いて良いですよ、真剣な立会いで手加減はされたくありません。」
「見事な心意気、このガストン感服した。全力で当たらせて頂こう」
寸止め位ならガストンには造作も無いと非礼を詫びて剣を取った。
「それでは、宜しいですか」
ユージンの言葉に両者が頷く。
ユージンは観覧席の王達に一礼してから声を発してた。
「始め!」
お互いにさっと間合いを取り対峙する。
じりじりと間合いを詰めるガストンに対して、ユークはまだまだ余裕が有った。
先に仕掛けたのは、ガストンだった。
5m程の距離から一足飛びに大剣の間合いに飛び込みながらの薙ぎ払い。
ユークは当然とばかりに下がって避ける。
ガストンも伊達にSランクでは無い。
ユークに追従して切り返しの逆袈裟切りを繰り出した。
ユークはそれも回避する。
ガストンは一度距離を取り呼吸を整えていた。
「参る!」
ガストンが一言発した後、凄まじい連撃が始まった。
速度も先程とは桁違いに速い、当初の攻撃がガストンの全力だと思っていたユークは反応が送れ、回避もぎりぎりに成ってしまった。
離れようとしても確実に付いて来るガストンは流石と言える。
ユークはまだ実力を出しきって無いのだが、一度後手にまわると間を空けないと切り替えが難しい。
「ゆーくちゃま~~」
その時にクララの声が聞こえた。
意識が観覧席に流れた。
はっきりとミーシャ達の声援も聞き取れた。
余りにもフレイザーと違い素早い攻撃に少し焦っていたらしい、落ち着きを取り戻したユークに勝てる存在などこの世界には皆無なのだ。
ガストンの連撃を避けずに懐に飛び込み、ガストンの手を押さえて無力化した。
咄嗟に飛び退くガストン、間合いが離れもう一度対峙した。
ユークは、観覧席のミーシャ達に笑顔を見せる。
「行きます!」
今度はユークが攻める番だ。
全力に近い踏み込み、ガストンは既にユークを見失っていた。
次の瞬間には、ユークの手がガストンの喉元で止まっていた。
「勝負あり!」
ユークに気づいたユージンが声を上げた。
観覧席からは大きな拍手が送られていた。
「実力も俺以上か」
ガストンは呟き、ユークの手を取り高々と持ち上げた。
ユークと観覧席に頭を下げガストンは場外へと出て行ったのである。
ユークもユージンと観覧席に頭を下げ、ミーシャ達の元へと歩いていった。
「ご主人様が負けるかと少し心配しましたが、杞憂に終わって良かったです」
「余りにも早い攻撃に少し焦ってたみたい、でもミーシャやクララの声援が聞こえて落ち着けたよ、ありがとう」
そう言ってクララの頭を撫でる。
「ユークちゃま、かっこよかったでちゅ」
「クララにそう言って貰えて、僕も嬉しいよ」
「本当に素敵でした。」
リオやレミーも賛辞を送ってくれた。
その後各国の王や貴族も賛辞を送りに来たが余り覚えていない。
ガストンが気に成ったからだ。
ユージンに聞きガストンの控え室に行ったが既に姿は無かった。
翌日ガストンから引退表明の知らせと、ユークに世界を頼むと言う一文だけの手紙が届いたのであった。




