言いがかり
護衛依頼から屋敷に戻り10日が過ぎたが、カルロス伯爵や不審な人影は見なかった。
気のせいだったと流すのも引っ掛かる物があったので、ユークはユージンを訪ねていた。
カルロス伯爵の事をユージンに聞く為だ。
「カルロス伯爵か、余りいい話は聞かないな」
ユージンの話では、カルロスは功績も無く家柄だけの伯爵で、妻も金の力で無理やり娶ったそうだ。
王家の呼び出しには直ぐに参集するのだが、意見も言わず近々爵位も取り消されるのではと言われているそうだ。
貴族特有の重婚をしており、10人の妻が居るらしく奴隷も20人近く居て扱いも酷いらしい。度々ギルドからも注意されてるらしいのだが、金の力で有耶無耶にしてるそうだ。
ミーシャ達に目を付けたのかと思ったがミーシャ達の居ない時に目撃されてた。
レミーかとも考えたがエルダを含め女性陣は誰も見てないのだ。
「おおかた爵位の剥奪を回避しようとユークに取り入ろうとしてるんじゃないのか」
「それも違う様な気がするんです」
ユークは、依頼から帰って来てからは毎日庭に出ていた。
カルロスがユークに取り入ろうとするなら何らかの接触が有っても良かったのだ。
それすら全く無く今日に至るのだった。
「カルロス伯爵の事なら宰相に聞くのが早いと思うがな」
「デズモント様ですか、お忙しいでしょうし気のせいかもしれませんから聞くのも躊躇いますね」
「ユーク、お前は本当に偉ぶらなくて良い奴だから教えるけどな」
「そうですか」
「ああ、お前が宰相に話があると言えば例えデズモント様でも無視は出来ん。俺もお前って言ってるけど本来なら様付け敬語が当然なんだ」
ユージンに敬語で話されるのはユークも落ち着かないのでそのままが良いと改めてお願いした。
「些細な事でも聞いた方がいいと思うなら聞けばいいんだよ」
流石に王宮内に勝手に入る事も出来無いとユージンがデズモントに連絡してくれる事に成った。
数分でデズモントがユージンの部屋にやって来た。
「突然お呼びして申し訳有りません。デズモント様」
「ユーク殿の呼び出しなら喜んで駆けつけますよ」
ユージンの言った通りだ。
ユージンに話した事をデズモントにも話す。
「カルロス伯爵の爵位の剥奪はまだ決まってませんな。確かに問題も多いですが、王家への貢献度も高いのです」
「それって、献金って事ですよね?」
「そこまでご存知でしたか。・・・そうです、カルロス伯爵は大変な資産家です。問題も自身の財力で多少強引では有りますが解決しております。」
それならユークの屋敷を覗き見た理由が更に解らなくなった。
「ユーク殿のともは大変な器量の女性ばかりですから、誰かに目を付けたかユーク殿自信を囲いたいかのどちらかでは無いかと」
「デズモント様もご存知だとは思いますが、ミーシャ達に何か有れば僕は容赦しませんよ」
「あははは、ユーク殿がお供を溺愛して居るのは皆が知ってますよ。貴族区に住んでて今まで声を掛けた愚か者が居ましたか?」
言われてみれば誰も居なかった。ミーシャ達程の美女だと貴族なら妾や妻、奴隷として囲いたくなってもおかしくは無かった。
しかし今まで、ミーシャの誘拐未遂以外は何一つ起きていない。
デズモントの話によると、王からの命令でユーク家に手出し無用と貴族に知らされているらしい。
「もし、ユーク殿に非が無いのならばカルロス伯爵程度なら問題なくユーク殿を支持出来るでしょう」
デズモントと話してる時にミーシャから念話が入った。
(ご主人様!、大変です)
デズモントとユージンに念話の事を告げてミーシャに答える。
(どうしたの?)
(それが、カルロス伯爵がお見えになってアベルさんを連れて行こうとしてます)
(意味が解らないんだけど?)
(私も良く解らないのですが、アベルさんが何やら伯爵に粗相をしたとか)
(兎に角すぐに戻るから、屋敷から出さないで)
(解りました)
「理由は良く解りませんが、庭師が何かしたらしくカルロス伯爵が庭師を連れて行こうとしてるらしいのです」
デズモントとユージンに念話の内容を簡単に教えて屋敷に戻ることを告げた。
2人に礼を言い挨拶をして全力で屋敷に戻った。
「お待ち下さい、カルロス伯爵」
疾風の様に戻ってきたユークに門番とカルロスは驚いていた。
風が吹いたと思ったら、ユークが姿を表したからだ。
「アベルが何かしたのでしょうか?」
理由も無く連れて行かれる訳にも行かない。
「俺の靴に泥をかけたのだ。」
見てみると確かに泥が付いていた。
だがアベルは必死に否定した。
「私は庭の花壇を手入れしてましたしクララも家の中に居ました。確かに土を触ってましたが、此処から塀の向こうの伯爵様に掛かる事が有る訳無いじゃ有りませんか」
「俺が嘘を言ってるとでも言うのか?家人風情が」
「アベルさん!アベルさんが言ってる事に間違い有りませんね」
ユークはアベルに確認した。
「ユーク様、本当に私じゃありません」
「解りました。僕はアベルさんを信用してますから信じますよ」
「確かにユーク殿は高名な方だが、家人の戯言と伯爵の私どちらの言い分が正しいか解りませんか?」
カルロスもユークには強く言えないらしく、言葉は選んでいるみたいだった。
「カルロス伯爵の事を僕は余り知りませんが、アベルの事は良く知ってます。嘘を付く人では有りませんし、ましてや通りに土を飛ばす様な雑な仕事もしません」
「ユーク殿も私が間違いだと申すのですね」
「それしか考えられません」
「解りました。今日の所は下がりましょう、しかし家人如きを庇っても良い事は有りませんぞ」
カルロスは捨て台詞を残して帰っていった。
アベルからは何度も謝られたのだが、謝る必要も無いと何度も言い聞かした。
この事件は序章だったようで、この数日後に新たな事件が起こったのだ。
場所は平民区12番街の市場だった。
エルダとクララが夕食の買い物に行った時にクララがカルロスにぶつかり服を破ったと言い、2人を連れて行ってしまったのだ。
エルダ達より少し遅くに買い物に出たレミーが、騒ぎの余韻に気づき聞き込みをしたところエルダ達らしき2人が貴族に連れて行かれたと聞いたのだった。
事件を目撃した人は居なくて、気がつけばクララが泣いていたという事らしい。
屋敷に戻ったレミーから話を聞いたユークはアベルの元に向かったがアベルは不在だった。
門番に聞いた所、少し前に男が来てアベルと走っていったとの事だ。
カルロスの家も解らないユークはユージンの元に走った。
ユージンに理由を話しカルロスの家まで案内して貰った。
カルロスの屋敷はユークの屋敷の倍以上大きかった。
門番に止められ理由を話したが取り次いで貰えない。
ユークは、ユージンに押し入るからと言い。ユージンも構わないとユークを支持した。
門番を軽く気絶させ門扉を蹴破り中に入って行く。
玄関は空いていたので、大声でアベルとエルダの名前を呼んだ。
出てきたのは執事で、アベル達の所に案内された。
勿論ユージンも一緒だ。
泣いていたクララに声をかけカルロスに話を聞いた。
「クララが何かしたのですか?」
「この小娘が私にぶつかり服を破いたんですよ」
目撃者も居ると1人の男を引き合わされた。
アベルにも話を聞いたが、どうやら目的はクララみたいだ。
アベルに責任をとり娘を奴隷として差し出せと言ったらしい。
ユークを見て、泣き止んだクララに声を掛けた。
「クララ、もう大丈夫だからこっちにおいで」
ユークの側に駆け寄ろうとしたクララをカルロスが掴んだ。
「この娘は我が家の奴隷になるんだ勝手に声を掛けないで貰いたい」
アベルもエルダも全く了承しては居なかった。
「まだ決まった訳でもないだろ、その手を放して貰えますか」
ユージンもユークの意見に同意とカルロスに注意した。
「カルロス伯爵、ユーク家に手出し無用と聞いてる筈です。その手をお放し下さい」
「ユージン団長か、話は聞いているよ。しかしこいつ等はただの下働きだ、ユーク殿の身内や奴隷でもない」
「その様な屁理屈は通りません」
必死に手から逃れようとクララは暴れているのだが、子供過ぎて全く意味も無かった。
「解りました。もしカルロス伯爵の言う通りなら僕も引き下がりましょう。」
「やっと理解頂けた様で」
ユークの言葉にいやらしい笑をみせた伯爵だがユークは言葉を続けた。
「言う通りならと言いましたよ。確認できるまではクララには一切触れないで下さい」
証言者も居るから勝ったと思ったのかあっさりと手を離した。
ユークに飛びつき泣き出したクララを優しくあやした。
「クララ、あの人の服を破いたの?」
クララは首を振り否定した。
「ぶつかったのは本当?」
「わたちが立っていたらうちろからぶつかったの」
クララの言葉をユークは反芻した。
「クララが立ってる所に相手がぶつかって来たんだね?」
「うん」
「ガキの言うことなど証言に成るか!、こっちには目撃者も居るんだ」
ユークは目撃者に向き直り威圧を込めて問いただす。
「貴方がぶつかる所、服を破いた所を見たと言うのは本当ですか?」
ユークの威圧感で辺りが冷たくなった。
「ほ、本当だ、俺がみ、見た」
「どうして、言い淀んだのですか?」
「べ、別に嘘は言ってない」
「本当ですね、今僕の仲間が目撃者を探しています。もし貴方が嘘を付いているなら今の内に本当の事を言わないと探し出してでも報復しますよ」
ユークの脅しに完全に萎縮した目撃者は、土下座して謝った。
カルロスに、金で雇われたらしく、現場にすら居なかったらしいのだ。
「カルロス伯爵、どういう事か説明して貰えますか?」
「私がお話しましょう」
口を挟んだのは先程の執事だった。
「爵位の剥奪の噂が流れてから、奥様達は皆様出て行かれました。残ったのは、私達数名の奴隷だけです。それから伯爵は街を彷徨うようになられまして、その時たまたまクララさんをお見かけして自分の嫁にしようと画策されたのです」
何とも身勝手な言い分だ。
執事の話しでは、奴隷達もほぼ開放されて残ってる奴隷も僅かしか居ない。
お金だけは有るので、クララを娶りもう一度奴隷を増やそうとしていたらしいのだ。
カルロスも黙って聞いては居なかった。
「執事風情が何を語ってる。それにユーク殿も出しゃばら無いで頂こう」
「出しゃばる?」
「あぁ、高々使用人のそれも子供の為に団長まで連れて出しゃばってるではないか!」
支離滅裂とはこの事であろう。
「一山幾らの使用人、俺が束でくれてやる。黙って帰れ」
ユークにとって、アベル一家も大事な家族だと思っている。
それを一山幾らと罵倒されて流石に我慢も限界に成っていた。
「アベルさん、エルダさんとクララを連れて先に帰ってくれませんか」
「ユーク様、しかし・・・」
ユークの怒りが解ったのかアベルはクララ達を連れて帰っていった。
(ミーシャ)
(はい)
(今、アベルさん達がそっちに向かったから屋敷の方で待機して貰ってて)
(解りました)
「ユージン様、僕は家族が馬鹿にされ、個人の欲望の為だけに罠に嵌めて利用する様なクズは許せません」
ユークの言いたい事が解ったのかユージンは頷き下がった。
「奴隷達には何の責任も無いので、開放して頂けますか?」
カルロスに言うのだが全く聞く気もないらしい。
「ユージン様、こっちで勝手に開放して宜しいでしょうか?」
「それは構わんが、今から奴隷商を呼びに行くと時間が掛かるぞ」
「それは大丈夫です僕が出来ますから」
ユージンの許可が出たので、執事に頼み奴隷を全員集めてもらった。
カルロスを無視して、ナイフで切りつけ血を集めた。
大袈裟に喚き散らしたが、ユークは気にしていない。
カルロスはユークに金銭での買収を持ちかける。
「ユーク殿に1億出そう、奴隷の開放も認める。それで許してくれもう2度とあの一家にも手は出さん」
カルロスの嘆願も完全に無視して奴隷の開放を行っていく。全員の開放が済んで腕輪の事はユージンに任せた。
後がないと悟ったカルロスは、壁に掛けてあった飾りの剣を抜きユークに最後の忠告をしてきた。
「2億まで出そうそれでダメなら死んで貰うしかないぞ、俺は剣の腕前なら騎士隊にも負けん。お前が死ぬと王様も困るだろうから金で解決してやると言ってるのだ。」
相変わらずの無茶苦茶な言い訳だ。
「お前を殺さずに地下牢に入れて、お前の奴隷達を順番に嬲ってやる事も出来るんだぞ」
勝つことを前提に言ってるらしいが、ミーシャ達の事を持ち出したのはまずかった。
流石に命までは取るつもりも無かったのだが、活かしておくとミーシャ達に被害が出ると宣言しているのだ。
「ミーシャ達をどうするって言いました」
この言葉にユークがビビっていると勘違いしたのかカルロスは尚も増長してきた。
「今ならおれが金を払って終わりだが、このまま決闘となったら止められんぞ。俺はやると言ったら必ずやる男だ、お前を生涯監禁してお前の奴隷をお前の前で死ぬまで嬲ってやる」
カルロスが言葉を吐き終わった瞬間カルロスの両手は無くなっていた。
ユークがナイフで切り落としたのだ。
その動きはユージンにも全く見えなかった。
「た、たすけてくれ~~」
ユージンに助けを求めるカルロスなのだが
「カルロス伯爵がいけません。ユーク様の女性達を冒涜し過ぎです。貴方が彼女達を引き合いに出さなければ、命までは取られなかったでしょうが、今と成っては誰も止められません。貴方はAランク冒険者、特にユーク様を舐めすぎです。王がわざわざ御布令まで出してるのにそれを無視した挙句、今度はユーク様の女性達まで嬲り物にすると宣言してしまった。もとよりユーク様に対抗出来る実力のある者はこの国には存在しません。私は王に報告する事しか出来ませんが、ユーク様に非は有りませんから覚悟を決めて下さい」
ユージンの言葉を待たずに両足も切断されていた。
次の瞬間には首が床に転がっていたのだ。
「ユーク、後始末はこっちでやっておく。クララちゃんだったか早く安心させてやれ」
まだ怒りが収まらないユークだがユージンの言葉に少し落ち着いた来た。
「面倒を掛けますが頼みます」
「問題ないさ、このままお前に暴れられると屋敷が壊れる。カルロスの残した財産は国の物だからな」
あははと、大きく笑っていた。ちゃっかりしたものだと思ったのだった。
カルロスの屋敷を出るとアベル一家とミーシャが立っていた。
「どうして此処に?」
「ご主人様が気がかりだとクララが飛び出したので追いかけ途中で捕まえて戻ろうとしたのですが、今度は泣きじゃくる物ですから仕方無くここで待つ事に」
「そうか。心配掛けてごめんね、クララ」
笑顔で、クララの頭を撫でる。
「ごめんなちゃい ゆーくちゃま」
「クララが謝る事は無いから、それに悪いおじさんは退治したからこんな事はもう無いから安心してね」
「うん、ゆーくちゃま」
「ん、なに?」
「ゆーくちゃま、だいちゅき」
「僕もクララの事大好きだよ。リオやレミーも心配してるから早く帰ろ」
クララと手を繋ぎ屋敷にもどった。
リオとレミーが用意した夕食をみんなで食べ、アベルに顛末を話しアベル一家は帰っていった。
「ご主人様カルロス伯爵を始末する必要が有ったのですか?」
「最初は始末するつもりは無かったけどね」
「ではどうして」
「カルロスが、僕に勝ったらミーシャ達に手を出すって宣言したからね。聞き間違いかと思って確認もしたけど、やっぱりミーシャ達を嬲り物にするって言うから流石にキレた」
「ご主人様」
ミーシャだけでなくリオとレミーまで、しな垂れ掛かって来た。
「クララの事もそうだけど僕にとって3人は特別だから、小さな芽でも3人に関わるなら全力で排除する。それはこれからも変わらない。例え世界を敵にしてもミーシャ達さえ居てくれたら僕には何も必要ないから」
「ご主人様が行かれる道がどの様な道でも一生付いて行きます。」
皆が同じ意見だと頷いていた。
こうしてアベル一家を巻き込んだ事件は解決したのだった。




