大怪我
朝食を食べながらその日の予定を話すのも、毎日の決まり事にになりつつある今日この頃
「今日は何か、良い依頼が有ったら行ってみようか?」
「「はい」」
朝食を食べ終えてギルドに向かう。
覚醒の日からも10日程経ったのだが、未だに注目を集めるのでギルドにも2回程しか行ってなかった。
ギルドに着いたが、今日もレミーの姿は見えなかった。
(シフトが夜なのかな?)
2回の依頼でかなりの報酬も経ていたので、来る必要も無かったのだが、レミーの事も気がかりだったのでギルドに来たのだが、あの騒動以来レミーの姿は確認していなかった。
「今日も居ませんね」
ミーシャが主人が気になってるのを知ってるので、先回りして聞いてきた」
「そうだね~」
聞いてみたほうが良いかと思い、カウンターで聞いて見る事にした。
「すいません、少しお聞きしたいのですが」
「はい、なんでしょう」
「レミーさんって、お休みなんでしょうか?」
「あれ? 貴方彼氏さんじゃなかったの?」
「彼氏では無いですけど・・・」
「違ったの!それじゃあ知らなくても仕方ないのかな~」
意味深な言葉に3人で顔を見合わせ、先を促す。
「レミーちゃん、辞めちゃったのよ」
「「「えっ!」」」
「ほんとうですか? それって、いつの事ですか」
「辞めたのは、この前、貴方達がここで騒いでた日よ。」
約2週間位前の話になる。
「レミーさんは、今何処に?」
「寮も出ちゃったから、住所までは知らないけど、たまに此処にも来てたけど、ここ2,3日は見てないわね」
「レミーさん冒険者に成ってるんですか?」
「依頼を受けてたから、そうだと思うわよ」
ユークが知る限りレミーは、大の運痴である。
ギルドの職員なので、冒険者の登録は義務なので、登録だけはしていたが全くの初心者のはずだ。
ユークみたいに、最初からある程度の装備を整えられたらましなのだが、レミーがそこまでの装備を揃えられたかが疑問であった。
なぜならレミーは、ギルドの安月給で何時も休みだけどお金がないと、言っていたからであった。
お姉さんに礼を言いギルドを出た。
「気になりますねご主人様」
ミーシャの問いかけに答えるユークだが、リオも同じ感想の様だった。
「何度かギルドに来てたって事だから、近くの宿屋を探してみよう」
「「はい」」
虫の知らせ的な何かにとらわれ、急がないといけない感じがして、手当たり次第に探すことにした。
レミーが宿泊している宿屋は、予想を反して2軒目で見つかった。
「すいませ~ん ここにレミーさんが泊ってませんか?」
「ギルドに居たレミーちゃんならここに居るよ」
レミーの泊まっていた居た宿屋は冒険者ギルドから徒歩3分の格安の宿屋だった。
「今、レミーさんって部屋にいますか?」
「あんた達知らないのかい!」
「何がですか?」
「レミーちゃん大怪我で、今動けないんだよ」
「「「えぇぇっぇぇぇ~~!」」」
「面会って出来ませんか?」
「本人に聞いてくるから、ちょと待ててくれるかい? ところであんた名前は?」
「僕はユークといいます。」
「ユークさんだね、聞いてくるよ」
そう言い残し宿屋の女将は2階に上がっていった。
しばらく待って、女将が降りてきた。
「ごめんよ。会いたくないから帰ってって、言ってんだよ」
まさか断れるとは思っていなかったユークは、女将に怪我の状態を確認してみた。
「レミーさんの怪我って、どんな状態なんでしょう?」
女将さんの話しでは、かなりの大怪我で、死んでいてもおかしく無かっただろうと言う事だった。
詳しい内容は解らないらしいのだが、同じ宿の冒険者が、たまたま依頼の帰りに見つけて救けてくれたらしいのだ。
現在手持ちの薬草は飲んだらしいのだが、数も買えなくて効果は低かったらしく、今も全身包帯だらけだそうだ。
「僕なら治癒魔法使えますから、治せると思うのですが、部屋に案内して貰えませんか?」
「本人は会いたくないって言ってんだけどね。治癒魔法使えるなら直接話してみるかい」
女将さんの好意で、レミーの部屋の前に案内される。
扉をノックして、レミーに声を掛けた。
「レミーさん、僕だよ、ユーク」
「ごめんなさい。こんな姿見せたく無いから帰って」
力のない返事が帰ってくる。
「女将さん、僕は、レミーさんのフィアンセなんで、入らせて貰いますね」
女将さんが朝食を運んだようで、扉が少し空いてたので、断ってから返事も待たずに押し入った。
ベッドに横たわる彼女は、痛々しく全身包帯だらけで、至る所に血が滲んでいた。
「レミーさん、ごめん入ったよ」
「見ないで!帰って!」
力ない怒声が響くが、怪我の治療が最優先と、無視してベットの横に跪いた。
「無視してごめんね、嫌われても良いから、僕が治療するよ」
レミーは嗚咽を漏らしていたが構わずに治療を始めた。
レミーの怪我は、ヒール位では埓のいかない程ひどい怪我だった。
リオにもそれが解ったみたいで、足元からハイヒールで、治療していた。
ユークもハイヒールで、頭部から順番に傷を塞いで行く。
10分程かけ続けた所で、リオの魔力は枯渇した。
「リオも有難う、僕がやるから休んでて」
「すいませんご主人様、お力になれなくて」
「助かったよ、ありがと」
リオに声をかけ、休ませながらも治療を続けていく。
全体敵に傷は消えたと思うので、ミーシャに包帯を外して、寝巻きか服を着せるように指示して、一旦外にでた。
ミーシャの合図で部屋に戻り、今度は折れた骨等を直していった。
1時間位ハイヒールをかけ続け70%位の魔力を使った所で、何とか治療は終了した。
普通の冒険者なら、SSランクの魔力量でも足りない程の怪我だったと思う。
「レミーさんどう?まだ痛いところある?」
怪我は治ったのだが、かなりの出血だったみたいで、体が動かしづらい様だが何とか無事なようだ。
「明日も来るから、今日はしっかり食べて、ゆくり休んでね」
女将さんに感謝されるも『当たり前の事をしただけ』とレミーの食事を頼んで、屋敷に戻った。
屋敷ではレミーに何が有ったのか色々話したが、明日本人に聞けばわかると早めに休むことにした。
翌朝はかなり早く目が覚めたのだが、気がはやってるので、朝食も取らずにレミーの所にむかった。
受付の女将から、しっかり食事も取ってたからもう大丈夫だろうと、太鼓判を貰いレミーの部屋に向かった。
ノックの音で起きたのか、起きていたのかは解らないが、レミーはすでに起きていた。
「おはようレミーさん、具合はどんな感じ?」
「「おはよう御座います」」
「ユーくん、ミーシャさん、リオさん 昨日は本当に有難う、帰っれって言って御免なさい」
泣きながら謝るレミーを励ましつつ、ゆっくり寝かせた。
「もう少し休んでたほうが良いですよ」
ミーシャの言葉に、更に泪を流しながら従った。
「何があったか聞いていい?」
少し落ち着いたところで、ユークが聞いた。
レミーの話だと、ギルドの騒動の後、自分は戦いに向いてないのが解っていたので、奴隷に成るしか無いと思ったそうだ。
奴隷商人に貴族区へ行きたいから奴隷に成りたいと言ったのだが、ユークが来る前に違う買主が見つかれば行かなければ成らない。
仮にユークと一緒に来て、売買が成立したとしても、教育が有り直ぐには渡されないとも言われた。
それだけでは無く、商品なので検査もされると言われ、ユーク以外に見られるのも触られるのも嫌だったので、奴隷の道は諦めるしかなかった。
その後、商人なら、住めるのでは?と商人ギルドで聞いてみたのだが、最低でもCランクの白が必要と言われたのだ。
冒険者と違い、商人のランクは、売り買いの金額の10%が経験値として溜まっていくので、莫大な時間とお金が掛かってくる。
持ち合わせも少ないし、ギルドの変更手数料もとても払えなかったので、冒険者に成るしか無かったのだ。
退職金の制度もないので、いきなり辞めたレミーは、殆ど持ち合わせもなく、宿代と、銅の片手剣を買うのが精一杯だった。
Fランクなので、依頼も雑務系ばかりで、経験値も0に近く、魔物を探して狩るしかなかった。
最初の内は、一角兎を討伐出来ていたので、頑張って倒していったのだが、このままだとCランクまで、3年以上掛かるだろうと思い、比較的弱くて纏まって出てくる、ワイルドウルフに的を絞り倒しに出かけたのだ。
しかし考えが甘く、一角兎でも1匹づつしか倒していなかったのに、さらに強いワイルドウルフで、群れと来れば勝てるはずもなかった。
囲まれ嬲り殺しにされかけてた所を、たまたま依頼が終わって帰宅途中だった、この宿屋の冒険者に助けて貰ったのだが、怪我の酷さから、助からないだろうと、女将さんに丸投げされたのだ。
女将さんも諦め半分で、レミーのリュックの中に有った、薬草を有りっ丈飲ませたのだそうだ。
多少の効果は有ったのだがユークの声に、死に行く姿を見られたくなくて、力を振り絞り答えたのが、昨日のやりとりだったのだそうだ。
多分あと1日遅くユークが到着していれば、レミーは間違いなくこの世に居なかっただろうと思われた。
ヒールでは切り傷程度なら治せるが、噛みちぎられた肉や折られた骨は、ハイヒールでしか治らない。
薬でも同等の効果のある物も存在するが、高価で手が出ない品物だった。
レミーの言葉に誘ってくれればと思うも『奴隷以外とはパーティーを組まない』と宣言してるので、言い出せなかった。
(追い込んだのは僕なんだ・・)
そう思ってしまいレミーに謝ることしか出来なかった。
体力の回復が第一なので、そのまま安静にして、2,3日ゆっくり休むように言い部屋を出た。
女将さんに部屋代と食事代と言って、ユークが5日分支払った。
屋敷に戻り、色々解決策を相談したが良案は浮かばなかった。




