5 川上結月は事件に巻き込まれる
「合原って、新しいストーカー?」昭子に恋心を抱く男子は多くおり、彼らの情熱故の空回った行動を聞くことは面白かった。
「朝、家の角を曲がると合原が立っていて「偶然だね」と一緒に学校に行くことが、ここ最近毎日続いたの。毎日時間帯を変更して家を出ていたのに」
「それはそれは」
「だから、先週の金曜日の朝、言ってやったの。「私は待ち伏せなんかしないで、朝練を頑張っているような人に惹かれるの」ってね。すると今日の朝、合原は待ち伏せをしていなかった。だけどスマホを見ると、自撮り写真がLINEに貼ってあったの」
昭子は、プリーツスカートのポケットからスマートフォンを取り出した。
「画像を送った」と言ったので、スマートフォンを取り出し、LINEの添付画像を表示させる。
バスケットボール部の部室を背景に斜め上から撮影された顔写真だった。合原は丸い目が特徴の幼い顔をしていた。赤色のラインが光り、全く擦れていないシューズを履いている。奥側に使い古されたシューズがあるおかげで、シューズがより輝いて見える。
『新しいバッシュを買ったから、朝練頑張れた!すでに腹ペコ(笑)』という文章も一緒についていた。
「奥にオレンジ色のバスケットボールシューズがあるでしょう。それは高柳のもので、色違いを購入したらしいの」オレンジ色のラインが入ったシューズをよく見ると、小さく「高柳」と名前が書かれていた。
「うわあ」既読のみついた、一方通行のLINEを見て言った。
「好きじゃない人から好かれるって、ほんとに迷惑」
昭子はスマートフォンを私に見せながら、親指でスクロールさせた。LINEには、合原の表情が何枚も撮影されている。「そろそろ制裁を加えてもいい頃かしら」
「制裁?」
「体育館裏に呼び出して、一発殴る」ボクシングの構えをした。
「暴力はやめたほうがいいと思う」私は忠告した。
「じゃあ、部室棟の裏のビオトープに突き落とす」ビオトープは先代の校長が作った、総合的な学習の時間ぐらいしか使われない小さな田んぼのことだ。
「今日は雨が降っているから、泥まみれになりそうね」一応、話を合わせておく。
数学練習ノートを職員室に提出した。二人で教室に戻り、ご飯を食べた。五時間目が始まる五分前のチャイムが鳴ると、昭子は席を立ち、扉に向かった。
しかし、はっと立ち止まり、急いで引き返してきた。「忘れないでよ」大きな二重の目がこちらを覗く。「部活が終わったら、教室で待っているのよ。先に帰らないでね」
「はいはい」私は頷いた。
六時間目が終わる。掃除担当に当たった者は掃除時間、それ以外は部活動や家に消えていく。
先ほどまで降り続いていた雨は止み、雲間から太陽の光が差し込んでいた。天気の躁鬱具合に軽く引いた。「異常気象だ」とクラスメイトと言い合ったが、もう、こんな気象が数年前から続いているのだから、異常という言葉は取れているのかもしれない。
私は教室掃除に当たっていた。クラスメイトと協力し、ゴミ捨てに向かった。
下駄箱に到着し、ゴミ箱を地面に置いた。下駄箱の扉を開ける。
一瞬、周りの音が聞こえなくなった。違和感を取り除こうと、もう一度、下駄箱の中を確認する。
……ない。靴が片方なかった。
「結月、どうしたの?」クラスメイトが私の下駄箱を覗き込む。咄嗟に見られたくないと思った。
しかし、はねのける前に、下駄箱の中身をのぞき込んでいた。
うそ!と隣で声を上げた。
身体が沸騰するようにとても熱い。脈拍が上がる。靴隠しの対象に選ばれてしまった事実に衝撃を受けていた。
なんとなくだが、私は靴を盗られるような人間ではないと思っていた。
私より、盗られそうな人間は多くいるはずだ。なのに……。
次から、第2章になります。深見がクラスメイトに追い詰められます。