第十六章-4 誰かの為にと問われたら……
「そんな……」
「俺があいつのことを抑えていたら、こんなことは」
ステラさんと智仁さんもその光景に唖然としていた。けど、それだけでも声すら出せない俺よりは大した物だった。
「……DANGEROUS……RECHARGE……120SECOND」
お悔やみの最中、真美ちゃんが急に割って入る。
それは別に空気が読めていない訳ではなかった。緊急を要していたからだった。
「やはりか」
そんな中で空気の読めない奴がもう一人いた。ある意味重要かもしれない緊急時でも冷静さを保っていられる存在ではあったが、今回の場合はそれが非情な判断を下す。
「このアンドロイドが、あいつらに伝えていたんだな。今のうちに処分しないと、次のターゲットは、ここになる」
「何だって! 真美を、真美を殺す気だってのか⁉」
「壊すんだ小僧。徹底的に、通信機が使えないどころか、通信元が割り当てられないほどにな!」
「ふざけんな! そんなこと俺がさせねえ!」
「なら、まずはお前からだな!」
「待って、80……てつ、や」
最悪な状況になってしまった。今まで牽制役だった咲倉さんが全く役に立たなくなり、男の独壇場になってしまった。丸腰の子供たちではどうしようも出来ないのは誰が見ても明らかだ。
ステラさんに頼るしかないのか? この男を仕留めるしかないのか?
だが、それだけじゃ終わらない。 その後のレーザーカノンをどう避ける。45秒後の一撃をどうやって避ける?
岩をも貫く一撃がアスファルトを貫かない訳がない。おまけにこの人数。どれだけの規模かはしっかりと見ていなかったから分からないが、犠牲者ゼロで済ませることは、絶対に出来ないだろう。
「60SECOND……」
真美ちゃんの目が俺たちを見ている。ターゲットの位置を指示するためのポインターと、彼女はなっているのか。彼女を思う哲也と共に、心中でもする気なのか。
彼女の制限時間は俺たちが戸惑っている間にも縮まっている……。
「そうか! 制限時間!」
俺は真美ちゃんが本当に伝えたいことを理解した。
もし、真美ちゃんが未だに敵対関係にあるのなら、制限時間何か教えるわけがない。静かに俺たちの場所を逐一伝え、時間が来たら確実に仕留め続けたはずだ。
「ステラさん! あの船まで一気に行けますか? 出来れば上まで何ですけど?」
テレポートとかは使えないことを聞いていた。けど、瞬間移動系ならどうだろうか? 一定時間や範囲内なら、あの剣戟の際に何度か見せている。
「あそこまで――なら、何とか! でも、その後はどうするんですか?」
「あれを斬るのは危険すぎるか――なら、止めるしかありませんね!」
「どうやってですか?」
くっ。ここでの説明か。
口で説明している時間も惜しい。かと言って俺が想像しようにも艦内。それも恐らく船長室に乗り込んだ事がない。だから、どこをどうすればいいかは分からない。
「50……」
「時間がない! ステラさん! 俺を持っていってくれませんか⁉」
「ケイタさんをですか⁉」
「俺くらいなら持っていけませんか⁉」
俺が振れなかった両手剣を軽々と持ち上げる実力の持ち主だ。俺くらいの存在なら短時間なら振り回すことは可能だろう。
「お前たちそうやって逃げる気か? なら、こいつはさっさと仕留めさせてもらうぞ?」
なっ。このおっさんはどこまで邪魔する気何だ!
「大丈夫です! 私なら何とか出来ます! なので、あなたも連れていきます。それで問題はありませんね?」
「俺もだと?」
「あなたは私たちに用事があるんですよね? なら、私達についてくれば、何の問題もありませんよね?」
ステラさんは未だに俺たちのことを執拗に追い、アンドロイドを嫌う男に提案を持ちかける。
「何故俺――」
「時間……40」
「ちっ。そうだな。俺はアンドロイドが嫌いだからな。そんな死にかけに興味はねえ。本体をやらせてもらうぞ」
男はそう言ってステラさんに手を伸ばした。ツンデレ――とか思いたくも無いな。
「それじゃ行きますよ! 気を付けてください!」
ステラさんの注意が聞こえた瞬間、俺の体がグンッ! と引っ張られた。まるでジェットコースター、いや上から勢いよく下に落ちるフォール系のあれに似た感覚が起きる。もしここで手を放したら体が引力に耐えられず海を渡ってしまうのではないかと錯覚してしまうほどの速度でステラさんは駆けている。
「もうじき船の上です! それと同時に効果を切りますから!」
「せめて甲板の上に下ろせよ」
砂浜を高速横移動した後の今度は物理法則を無視した上空壁キックの嵐。その間にもこの人たちは会話をし続ける。このおっさんどうしてこんな状況で喋れるんだよ!
「艦首に迎えば、司令室に入れるだろう。そこへ行けば止めることが」
「あれが砲台ですね⁉」
「そうだが、お前、何を⁉」
男が驚嘆する中で、俺は悟る。
この勇者様ならではの速攻解決策。普通ならやらないけど、この人ならやる、いややれてしまう破天荒な解決法。
「くぅぅっ……」
「おい待て! そうしたらどうなるのか理解しているのか⁉」
時間が無いから俺たちを投げ捨てると言うことは無かった。
けども、派手に飛び上がった後の着地に俺は失敗して背中から、それも不運なことに鉄製の甲板に背中から打ち付けられる始末。
だがらって腹部から着地して昨日の物全て吐き出していた方が良かったか? ――と言われたらそうかもしれない。そうなっていれば、目の前で起きる惨状を目の当たりにすることは無かった。
「はぁぁっ‼」
何人もの人を焼き殺したのか。
何百、何千、何億もの資産を費やしたのか。
幾つの工場の部品が集まったのか。
それでもこれだけは言える。勇者には関係ない。
男なら少しは夢見る人も多いだろう戦車や戦艦の砲台。戦闘機、ロボのビーム砲。
それがあっけなく、袈裟斬りされたちくわのような姿になってしまった。
どうやら真美ちゃんの発射予告時間までには間に合ったようだ。
――地上は。
「レーザーカノンに異常。電圧異常。逆流の可能性――急速冷凍、不可。電力遮断、不可。バッテリートラブル。エンジントラブル」




