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第十五章-2 苦難乗り越え分かったことは……

 ここまでくる道中で様々なトラブルはあった。

 孤児たちとレジスタンスの対立、アンドロイドたちの奇襲、賊との遭遇。

 しかし、どれも内部崩壊が起きたり、甚大な被害が出る前に事無く終えた。


 そして、歩き始めて一週間以上が経った。


「あれは、海か?」

「そうだな、太平洋に出たようだな」


 高台の方を歩いていた俺たちの前に青一色が埋め尽くす光景が現れた。

 空と海。どれだけ世界が穢れようとも、この二つだけは、澄んだように綺麗だった。日本を誇る象徴である富士山でさえ、根元の方が何らかの住宅か施設が浸食している光景を見た時は未来への絶望しかなかった。

 でも、未だに名残が残っている部分はある。

 どんなに大きな災害が起きたとしても、人々は手を取り合い、復興を成し遂げてきた。

 尋常じゃないほど朽ち果てたこの世界も、世代を渡すことにはなるだろうが、いずれ戻ってくれる。その場に俺が立つことは出来ないが、そう願っている。


「海? あれが海⁉」

「初めて見た! 本当にずぅぅぅっと奥まで水が溜まってる!」

「よっしゃ! 早速泳ぎに行こうぜ!」


 その光景にはしゃぎだしたのは勿論子供たち。それも孤児所属の子ばかりだ。


「お前たち! まずはやる事があるだろう! 場を弁えろ!」


 そしていつも通り咲倉さんに沈められる。この位になってからは哲也も実力の差を思い知らされたのか、ほとんど口ごたえしなくなってきた。


「一度下まで降りて老朽化の酷くない建物を全員で探そう。それが終わり次第設営班と周辺警備班に分かれる」

「割合はどうしますか?」

「ここら辺は安全だろう。周辺警備はあたしと悠、智人、それからステラと恵太で十分だろう」

「そうなると設営班の仕事がだいぶ早く片付きませんか?」

「一週間以上も歩き続け、安心できない寝床で取れる訳も無い疲れを取っていたんだ。ゆっくり休める場所ぐらいすぐに作って貰わなければ困る。だから仮に早く終わったとしてもいい。終わった後は自由にしろ」

「海に行ってもいいの⁉」

「必ず大人の監視役を連れて行け。何かあったらすぐに帰ってくることが条件だ。分かったな!」


 そして口調は変わらないにしても、この人の性格もだいぶ丸くなってきたな。始めは孤児たちとの関係にギスギスしていたが、最近は何だかんだ許諾範囲がかなり広がってきているし、余裕が出来たおかげで笑顔も増えてきた気がする。

 安全性に備蓄の量が、今まで明日どう生きるかすら考えなくちゃいけないレジスタンスにゆとりを与えてくれたに違いない。


「では、これより海岸近くに向かう。何が待ち受けているか分からん。総員、注意を怠るな!」


 咲倉さんの叱咤に全員が返事をした。

 その返事の数は、山梨都市を出発した時から一つも減ってはいなかった。


「広い海ですね」

「海の範囲から言うと地球の中では一番広い海ですからね。向こう側に幾つか島はあると思いますけど、大陸まで行くとなるとかなりの時間を要しますね。ステラさんの世界でも大きな海はあったんですか?」

「はい。何度か海賊とか、海竜の討伐などで船に乗ったことはあります」


 周辺警備に俺も任命されたが、そこまで戦力の無い俺は土地勘やこの世界の情報を知っているという点を活かし、ステラさんと同行することとなった。

 異世界では川しか見たことが無かったけど、異世界出身のステラさん曰く異世界にも海はあり、それに応じた魔物や賊も存在するらしい。

 どこまでも続く水平線。それを見て、ステラさんは黙ってしまう。


「昔のことでも思い出していたんですか?」

「そうですね。とある町で海竜、シードラゴン退治に向かった際のことを」

「竜ですか。最終的に遭うことはありませんでしたけど、凄く大きいんでしょ?」

「えぇっ……それはもう」


 ステラさんが言葉に困るほどの大敵か。

 凄く恐ろしいんだろうな。


「凄く大きな竜でした。一緒に同行していた依頼主の富豪さんが「この竜の皮膚は素晴らしい、そしてあの鋭利な牙は強力な武器になるに違いない! 骨格標本は蒐集家連中に高値で売れるかもしれない」とシードラゴンを丸々船に引き上げて連れて帰ろうとしたんです。そしたら、船が重みに耐えられずに沈んでしまい、結果船すら失った富豪さんは大赤字になっちゃったんです。もしあの時私が上手いことシードラゴンを切り分けておけば船が沈むことも、いえそんな言い訳しても駄目ですよね。私が重かったんでしょうね。前日に私の大好きなイチゴのタルトを食べてしまったせいで私の重量が増えたせいで船は沈んでしま――」

「ストップ! ストーップ! ストォォーップ‼」


 それ以上は言わないで! それ以上悲しい過去を語らないで! いや、それ以前にそれは君が悪い訳じゃないから! その強欲な富豪商人が馬鹿だっただけだから! 君の体重もイチゴのタルトにも何の罪も無いから!


「けど、けど……最近は痩せたと思うんですよ。そこまで多くの量を食べていませんから」

「そりゃこんな世界ですから量は食べれませんから!」

「でも、孤児の皆と湖に入っている時はいつも大きいって言われて」

「子供と比べちゃいけませんから!」


 リーダーの哲也でも中学生いく、いかない程度の年齢何だから他の子は小学生位だから! 張り合う相手が違うよ! 後大きいの対象が違うかもしんないでしょ、それ!


「因みにそれ誰に言われたんだ?」

「テツヤくんに」

「OK。後でぶん殴っとく」


 ついでに咲倉さんにも伝えとかねえとな。完全に覗きだし、公序良俗に反する。まぁ俺は大人だから真美ちゃんには黙っておいてやろう。


「まあここで定住するようになったら安定した食料供給も出来るように咲倉さんは考えるだろうな。例えば、魚を獲ったりね」


 俺の時代には環境問題があった。

 TVやネットで常に学者さんやお偉いさんが訴えかけていた。

 それでも漁業は常に盛んだったし、スーパーには勿論、コンビニでも加工した魚が並ばない日は無かった。

 そして1000年たった今も魚を食べる習慣は変わらない。俺たちがここ最近の主菜にしている鮭缶や鯖缶などの加工されたものが養殖で無い限りは、海は食材の宝庫になっているに違いない。

 釣りか網か、もしくは潜るか。

 どのような手段を使うにしても、この海は重要な拠点になるに違いない。


「ステラさん話したいことがあるんですけど」


 俺は意を決してステラさんに声をかける。

 浜辺で立った二人。夕陽が沈むにはまだ遠い上に片やそこら辺をぶらついていそうな一般男、片やコスプレイヤー少女。ホルスターに忍ばせた似合わない銃も相まってオタクが背伸びして彼女を呼んじゃったみたいになっているが、実際はそんなに淡い物ではない。

 それでも、これは今後重要になる課題だ。だからこそ、今言っておかなければならない。


「ステラさん、これから――」

「ケイタさん! あれは⁉」


 俺が言おうとする前にステラさんが海の方を指差して慄いた。


「海の上を輸送機のような鉄が動いています!」

「あれは、船?」

「あれがこの世界の船なんですか⁉」


 ステラさんは黒光りする船自体を驚いた。

 話をぶった切るような登場の仕方に少しばかし苛立ちを覚えたが、すぐさまその苛立ちは冷める。事の重大さを理解した。


「ステラさん。今すぐ浜辺を離れてアジトに戻りましょう」

「あれは、アンドロイドたちのですか?」

「恐らく……この時代に船を所持できる人なんて限られていますからね」


 動力源が何かにもよるが、手漕ぎで無い限りそれなりの原料を要すことになる。明日のくいぶちですら困る都市外の人々が所有しているとは考えづらい。だとすれば、あの船は都市を築いた奴らの所有物の可能性が高い。

 先回りされていた?

 危険因子になりうる存在に警戒するあまり、俺は先に告げるべきであったことを、すっかり忘れてしまうのだった。

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