第十一章-7 手を差し伸べようとしても……
後は無事脱出するだけだが、入る際に何も無かったのだから出る時も何もないだろう。
「うっ……尿意が」
ほっとした証か、唐突な尿意に襲われる。
ベッドから重い腰を上げ、部屋の入り口付近にある部屋に入る。
「どうなってんだこれ……」
一目見ての率直な感想。近未来のトイレ小さすぎだろ。
半畳程度の部屋の壁に小さなガラスの受け皿のような物がついていた。
ここに足すのか? 確実に飛び散るだろ? 明らかに欠陥だろ。施主呼ばれるぞ?
とはいえ、尿意もそこそこ限界値に近い。
どうなろうと設計が悪いと、俺は一物を取り出す。
その時だった。
『小でよろしいでしょうか?』
「は、はいーぃ⁉」
俺が男性の象徴を出したのを見計らったかのように突然機械的な声に問いかけられた。
『小ということでよろしいのでしょうか?』
そして何だこのしょうでいいのかって。
トイレ……しょう。
もしかして、大小の小ってことか?
てか、それくらいしか考えられないよな。
「あぁ。小だ。小がしたい」
尿意もそこそこやばい状態で一物をずっと外に出し続けるのは辛いので、何のことを言っているのかさっぱりわからないがさっさと返事をしてことを済ませようとする。
『かしこまりました』
「はぁっ⁉」
その瞬間の異変に驚かない人はいないだろう。
壁についていた便器と思わしき受け皿が動いたのだ。
その後ろには透明なパイプ、ホースのようにグネグネする物が備わっていて、その姿はまるで透明な蛇のようだった。
そして、蛇で例えるなら口の部分に相当する器部分が一直線に向かったのは、俺の股。
奇行のスムーズさに身動きさえできなかった俺は成す術もなく、
「おぅっふ」
思わず変な声をあげてしまった。
ガラスの器は見た目よりも柔らかく、俺のあそこにジャストフィットした。器部分は吸盤のように覆い、パイプ部分には俺の愚息がきっちりと収まっている。
「な、なんだこっこっれ、あっあ……」
そして限界だった俺のあそこは謎の便器機構に牛の乳搾りよろしく、搾り取られるように尿を放出した。
勢いの良かった尿は次第に垂れる程度にまで搾り取られた。
『終了しますか?』
「はい……」
ギブアップ宣言のように、俺は告げる。
役目が終わったと理解した器は、掃除機のコードのように元あった場所にシュルシュルと戻っていった。
…………。
「未来のトイレヤバすぎだろ⁉」
場所の縮小か知らねえがこれはねえだろ! というか小と大を訪ねていたってことは大もこれでやることになるのか⁉ お尻を覆うのか⁉
それと、俺には関係ないけど、関係ないけど、女性の場合どうなるんだ。小の方は。
「止めよう。変な詮索は止めよう」
頭を振って煩悩に近い謎の想像を払い、その原因となる極狭トイレを出る。
トイレを出ると目の前には扉。ステラさんが入浴しているであろう扉だ。
「大丈夫かな……」
トイレがあれだっただけにお風呂も異常なのではないかという不安は拭えない。今頃風呂場の中でステラさんは大変な目に遭っているかもしれない。けど、ここを開けるわけには流石にいかない。そうすればこっちが大変な目に遭うことになるだろう。
まぁ……気に入らなければすぐに出てくるだろう。我慢すれば残っているかもしれないけど。
「長くなるから、その間ベッドで休むことに――あれ?」
そこで俺はあることに気づいた。
お風呂の入り口であろう扉が二つある。
ステラさんがすぐさま入って、すぐさま脱ぎ始めたので気づかなかったけど、もう一つの部屋は何だ?
普通に考えたらトイレだろうが、トイレは向かいにあった。
「洗濯場かな?」
俺はそう思って何気なく扉を開けた。
そこは、少し前に見たことがある脱衣所だった。
俺はすぐさま扉を閉めようとした。が、何か違うと直感した俺は少しだけ扉を開けて内部を確認した。
違いは確かにあった。籠の中にステラさんの服がない。
俺は静かに室内に入り、辺りを確認したが、ステラさんの服は無かった。
「もう一室浴室があるのか?」
一番安い部屋なのにそんなことがあるのか? 普通どんなに高い宿でも浴室は一つだろうし、露天風呂付きとかになるとかなりの高額になるはず。
じゃあ、これは――? 俺はゆっくりとすりガラスに近づく。中に人影が無いか伺うと、それらしき姿はどこにもなかった。実は浴室が一緒で混浴になるという形ではないようだ。本当にもう一室お風呂があるようだ。
「俺も入っておくか」
ステラさんがすぐさま出てこないということは、トイレとは違いそれなりに良い設備が整っていると言うことなのだろう。だとしたら、あの人は一時間以上出てこないことになる。
それから俺が入る時間を考えると――外で待たされてる悠さんが不憫でならない。
なら、せめてもの時短で俺もさっさと入ることにしよう。
俺は自分の服を籠に入れる。
『洗濯、乾燥をいたしますか?』
俺はその声に悪寒を感じる。それはトイレで話しかけた声と一緒だった。内容は良いものだが、先の件がある。
「いい。遠慮しておく」
『かしこまりました』
そう述べると、辺りには静寂が訪れた。
何故か分からない疲労感を抱え、ため息を吐いた。
「どうしちまったんだ、1000年後の日本……」
現状の交戦状態もそうだが、便利さと引き換えに何か大切な物を失っているような気がしてならない。
そして、この先にもその断片があるのかもしれない。
が、俺もお風呂に入らず一週間経った身。ステラさんみたいな禁断症状は出ていないが、流石に気持ち悪くはなってきた。
意を決し、浴場の中に入る。
すぐさま後悔する。
中には、浴槽すら無い。
てことは――。
『お湯を用意致します』




