第十一章-6 手を差し伸べようとしても……
「そうです! どこかに入れる場所はありますか⁉」
「承知しました。検索中……」
ポリス型アンドロイドが上の空で停止する。ピロピロと言う音が漏れているので故障して止まった訳ではないようだ。
「該当の物で一番近い場所はそちらにございます」
ポリス型アンドロイドが指さした先には達筆、というか崩しすぎて最早なんと読んでいいのかわからないネオン看板の店があった。
「そこへ行けば入浴が可能でしょう」
「本当ですか⁉」
ステラさんの顔に生気が戻る。
そして、すぐさまその店へと走っていく。待ってください! あなたお金持ってないでしょ!
「症状が戻らないようなら遠慮せずにまたお声をおかけください」
「た、たぶん大丈夫だと思います。ありがとうございます」
俺がお礼を言うと、ポリス型アンドロイドは綺麗なお辞儀をして俺の元を離れていった。外で交戦したアンドロイドたちとは違うこの友好性。相反する対応を見せるアンドロイドに、どれが正しいのか理解出来なくなりそうだ。
いや、今はそれよりも。
「何か問題起こす前に行かねえと!」
臨界点絶賛突破中のステラさんが何かおかしな行動を起こす前に俺は教えてくれた店の方に向かった。
「お客様。こちらのお店ではまず前金を」
「今すぐこの穢を解き放ちたいの!」
予想通りやばいことになってた!
言っていることはかっこいいですけど、やろうとしていることは無銭入浴ですからかなりダサいですよ!
「連れがすみません。こちらで大丈夫でしょか?」
俺は唸るステラさんを押しのけて、店員( こちらもアンドロイド)にカードを見せる。
「こちらの方でチェックをお願いします」
店員型アンドロイドが手のひらで指し示した場所に、モニターが唐突に現れる。まじか、ビジョン型のモニターかよ。タッチパネルとかの比じゃねえぞ。怪しまれないように、使い慣れているように。それと、バレないように、残高がありますように――不安だらけで手が震えそうになるんだけど!
カードは……たぶんこのおサイフケータイパネルみたいな所だな。そこにかざせば。
ピロン。
カードは反応した。
そしてモニターの所に150,226と言う数字が現れた。
「ご利用内容をお選びください。オプションを使用された際は追加料金を自動的にこちらからお引きします」
「は、はぁ……」
店員型アンドロイドが別のモニターを虚空に生み出す。
そこには銭湯にしては少し高めの料金表示と部屋の画像が提示されていた。ポリス型アンドロイドは銭湯ではなく宿を紹介してくれたようだ。それは意図があったのか、或いはこの時代には銭湯という存在が既に無くなっているのか。
俺は全てを一度確認し、一番安い場所を選択する。譲ってもらったとはいえレジスタンスのお金だから無駄遣いするのははばかれた。
「こちらへどうぞ」
部屋を決めると奥にいた別の店員型アンドロイドが俺たちを招く。
それについて行くと扉を既に開けて待っている店員型アンドロイドがいた。
そこにステラさんが滑り込んで、俺はその後ろを呆れながら入っていった。
「ごゆっくりお楽しみを」
そう言うと店員型アンドロイドは部屋のドアを閉める。それと同時に部屋の施錠がなされた。セキュリティーがしっかりしてるな。
しかし――お楽しみを?
「ここがお風呂⁉」
そう言ってステラさんは勢いよく扉を開いた。
俺が後ろからそこを覗き込むと、そこには洗面所と脱衣所らしき場所があった。入り口近くにあることから考えて、ここが水場と考えて正解だろう。
「ここですね。ここが今の時代のお風呂らしいですね。ただ、沸かし方は――」
「大丈夫です! 何かすればどうにかなると思いますから!」
「って! うわっ!」
ステラさんが根拠のない自信を見せると、おもむろに上着を脱いだ。
幸いにして俺の角度からは健康的な背中しか見えなかった。これが少しでも角度がずれていたら大変なことになっていただろう。
俺はどうやってお湯を張るのか説明することさえ許されずに部屋を追い出された。自主的に。まぁ今思えば未来のお風呂がどんなものか知らないから、いたとしても役に立たなかったに違いない。
「はぁ……何とかなった」
俺は部屋の奥にある、一人用にしては大きなベッドに身体を投げた。
部屋の中には簡単なテーブルとクローゼット、飲み物が入っていそうな冷蔵庫があった。
開けてみようとしたらが、追加料金があるみたいなことを言っていた。どれが発生源かも分からないから開けるのはよそう。
色々トラブルはあったとは、第二関門は突破か。




