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第十一章-5 手を差し伸べようとしても……

 入り口の上部には大量の半球体型監視カメラが設置されていた。

 何とかそれに引っかからないように入れないかと伺うが、コンビニバイトで何度も見たこのタイプの監視カメラに死角は無い。下手におどおどしていたら怪しまれるので最終的に堂々と真ん中を歩くことにした。


 ――しばらくネオン煌びやかな都市を歩いてみる。異世界でも感じた視線を何度か受けるも、俺たちに職質をする人も、アンドロイドもいなかった。


「だ、大丈夫だった……」


 第一関門突破。内部への侵入に成功した。

 けど、本番はここからであり、まだ何も得てはいない。


「とりあえず。お風呂――銭湯みたいな所はどこに」

「うっうぅぅ……」

「ステラさん?」


 辺りを見渡しそれらしき看板を探していると、後ろから小さな呻き声が聞こえた。

 振り返ってみると、そこには自身の体を抱くようにして、小刻みに震えるステラさんがいた。


「ど、どうしたんですか? どこか体がおかしいんですか?」


 寒気を感じているような動きに不安が募る。

 まさか何らかの感染症にかかってしまったのだろうか?

 水とか空気感染、或いは蚊。土地が変わることでそもそも免疫を必要としていなかった病原菌に感染してしまったのだろうか。この世界の病気では彼女の治癒魔法ではどうにもできないみたいだ。


「大丈夫ですか⁉ くっ。どこか」

「お困りですか?」

「えっ? うわっ!」


 ステラさんに気を取られて気づかなかったが、俺の頭上にはキッチリとした黒い制服、胸に星のバッジをつけたアンドロイドが腰を屈めていた。その見た目でこの人、いやアンドロイドはお巡りさんだと分かった。


「お連れ様の具合が悪いように見えますが」

「はい……。ついさっき苦しそうにしだして――」

「……うずく……」

「へっ? 疼くって何が?」

「体が! 体がすごく疼くの!」

 

 ステラさんがいきなり厨二病的なことを言い出した!

 そんな無駄に自分を大きく見せる必要はあなたにありませんから!十二分にあなたは強いですから!


「駄目なの! 私を蝕むの!」

「闇に覚醒しかけてる!」


 この世界に入っていきなりどうしたんだ!


「かなりお困りのようですね、病状をスキャン致します――特に異常は見当たりませんね」


 ポリス型アンドロイドがステラさんの体に謎の光を当てる。解析をしてくれたようだが、ステラさんの厨二化はアンドロイドにも理解できないようだ。いや、理解できたら尊敬するけどさ。


「一体どうしたっていうんですか! 何が疼き始めているっていうんですか!」

「……体」

「体?」


 ステラさんは静かに答えた。そして顔を上げると同時に徐に俺の肩を両手で掴んできた。


「身体がとにかくかゆいの! もう我慢できないほどに! もう狂いそうなくらいに! もう誰かの血でもいいから身体を流すものを私は欲すの!」


 疼きって身体のかぁっ‼

 断風呂生活がステラさんをおかしな世界に追い込ませたぁー!


「待ってください! ここで血を流すような騒動は起こさないでください!」

「水分なら何でも十分です!」

「駄目です! 血液も涙も何も流させる訳にはいきません!」


 このままじゃステラさんがご乱心してこの都市にいる人間の体液が枯渇する! レジスタンスとしては大喜びな結果になりそうだけど、近くで見ていた俺にとっては後味が悪いし、何より正気に戻ったステラさんが平然としていられるわけがない! 大量殺人をしたと知ったらすぐさま自分の首をはねるに違いない!


「お困りのようですが。風呂場をお探しでしょうか?」


 そこに救いの手を差し伸べたのはポリス型アンドロイドだった。

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