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第八章-7 約束したのだから……

 その夢は爆砕音によって覚めることとなった。


「何事⁉」


 眠気を吹き飛ばすには十分すぎるアラームは俺の体を跳ね起こす。


「いっつ!」


 そして背中に激痛を伴わせる。痺れにも似た感覚に、俺はすぐさま原因究明に乗り出る。

 が、その必要性はあまり無かった。

 周囲を見れば、俺がそんな目に合う原因は一目瞭然だった。


「何だここは」


 ただ、そう言うしか無かった。

 辺りは瓦礫の山だった。


 材質は岩――みたいだったが、違う。俺は、違うと断言できる。

 これは――コンクリートだ。

 そして俺の寝床になっていた場所はアスファルトだった。けれども整備は最低どころではない。強烈な地震が来て隆起したようなアスファルトは、どう頑張っても走行できる代物ではなかった。


「ここは、地球か? それとも異世界か?」

 ステラさんの世界にしては技術の発展が飛躍しすぎている。

 俺の世界にしては技術の荒廃が飛躍しすぎている。

 どっちつかずなこの世界に答えを見出すことは限りなく難しかった。


 またどこかで破砕音が聞こえる。

 発生源は大体特定出来る。黒煙立ち込めるあの一体だ。

 俺は人工のクレバスが存在しそうな足場を慎重に進んでいく。

 登山家か密林探検家のような動きで、僅か数百メートル行くのにかなり時間をかけてしまった。その間にも爆発音は鳴り響き、目的地に近くなった時、その音はやっと沈黙した。


「な、何なん、ですか、これは」


 人の声。それも聞き覚えのある声だった。

 俺の足取りは一気に軽くなり、近場にあった瓦礫の山を一気に登った。

 そこには、いくつもの黒煙の中に佇む、白銀の髪を持った少女の姿があった。

 間違いない。あの人だ!


「ステラさん!」


 ありったけの空気を吐き捨てるように呼びかけた。


「ケイタさん!」


 その声にステラさんも答えてくれた。

 俺が苦労した瓦礫たちを飛び石のように軽々跳びこえ、俺のもとに近づいてきた。

 その顔は紅潮し、息も切れきれだった。


「大丈夫でしたか! ケイタさんが飛び込んできた時、巻き込まれてしまったんじゃないかと思って、私不安で、不安で」


 その顔に涙が加わった。

 心配をさせてしまったみたいだ。


「もしあの時私が手を放していたら二人とも飛ばされずに済んだはずなのに、どうして私はあそこで手を放さなかったんだって、ずっと後悔していたんです。私のせいで変な所に飛ばされてしまっていたらとなると、何であの時あれを手放さなかったのか後悔してもしきれません。寧ろあの時自分の手を切り落としてでもあの異変を断ち切るべきだったと――いえ、今こそここで自らの過ちを懺悔して」

「そこまで心配なさらなくても俺は生きてますから!」


 過去の努力は結局何だったんだ‼

 あの世界はパラレルで終わってしまったのか‼


「今ここで自害させられても今度は俺が困っちゃいますから! 法王のせいで変な場所に飛ばされて、向こうで苦労してようやくステラさんの元に戻れたんですから!」

「変な場所に飛ばされて?」

「そうですよ! まぁ、助けて貰った訳ですけど」


 過去のあなたに。


「飛び込む形で懐中時計に触れたせいで、別の所に飛ばされてしまったんです」

「そうだったんですか……でもケイタさんならその位出来て当然ですよね!」

「いやいや、買いかぶり過ぎだって。さっきも言ったけど、助けて貰ったんですから」


 そう偶然の助けがあったからこそ、俺は助かった。それが無かったら俺は未だにあの過去を彷徨っていたに違いない。


「何を言っているんですか? ここはケイタさんの世界何ですから、助かる方法はケイタさんの方が詳しいじゃないですか」

「…………………………え?」


 ステラさんはそれを必然だと答えた。

 ここが俺の世界だから、だと。


「違いますよ! 俺の世界はこんな排他されたSFか近未来パンデミック世界じゃないですから!」

「えすえふ? パンデミック?」

「ここまで荒れ果ててはいないってことです!」


 漫画や映画に出てきそうな世界ではあるが、ここが日本以外の内戦が酷い国であったとしてもここまでボロボロな場所を、俺は知らない。


「でも、これはありましたよ!」


 ステラさんは突然走り出し、壊れたアスファルトの隙間から何かを引っ張り出してきた。

 あらゆる方向にひん曲がった鉄棒。真っ直ぐ向いた物と宙を向いた車輪。どう頑張っても元の使用条件を満たすことは出来ないが、その形からそれが何か答えるのは簡単だった。


「自転車?」

「そうですよね? 私はこれを目当てにこの世界まで渡ってきたんです。と言うことはこの世界はケイタさんのいた世界じゃないですか?」


 そんなことが出来るのか、と思ったけど幼少期には既に身につけていた技と言う裏付けがあるから否定することは出来なかった。


「確かにこれは自転車ですけど、でもですよ。ステラさんの世界にランプがあったように、俺たちの世界で言う自転車がある異世界が他に――」


 それでも、俺は未だに目の前に広がる世界を、自分たちの世界だと認めない努力をした。

 が、その想いは、手の隙間から水が零れ落ちるように、儚く、散った。


「品川――区」


 自転車のナンバープレートにはそう書かれていた。


「ここは――本当に、日本なのか?」


 俺は帰ってきた。

 異変に苛まれた、地球に。

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