第八章-2 約束したのだから……
いや、可愛らしいよ。小さくて可愛らしいよ! 小さいことは良いこと――って落ち着け! 表に出せないからって脳内で全てを爆発させるんじゃない俺!
冷静に。まずは状況を考えよう。
何故ステラさんが小さくなってしまったのか?
そしてここは、ステラさんの世界で言うどこら辺なのだろうか?
出来れば俺の知っている土地の近くであれば、小さくなった彼女に負担をかけることも無いだろう。
「ここってどこら辺何だろう?」
「? お家の側にある森だよ?」
「えっ? お家?」
「うん。私の家。その近くにある森。だけど、魔物がいるから、お友達は近寄らないの」
「そ、そうなんだ」
この人の家って宿。だったよな……。実家で暮らしていた訳じゃないはずだ。
となると、ここはステラさんの家の近くで。そこまで俺は飛ばされたのか?
「でも、ミルディウちゃん――私の友達がお花を摘みに行ったとき、森の中に入っちゃったの。そしたら恐い声が聞こえてきて――とっさに逃げたんだけど、その時大事な物を落としちゃったの」
「そうなんだ――もしかして、ここってその森?」
「うん」
「恐い声が聞こえたって言ってたけど、大丈夫なの?」
「……怖くない。だって」
「勇者様だからでしょ? そんなに強がらなくても」
こんなに小さくなってもステラさんは勇者としての役目を担おうとしているのをその白い髪を梳き、宥めた。
「? お兄ちゃん私勇者じゃないよ?」
「えっ?」
ステラさんは首を横に振った。
自身が勇者であることを謙虚するわけでも無く否定してきた。
自尊心がかなり低い部類にあるにも関わらず、俺と出会った時には迷わず勇者であると告げてきたステラさんが、否定した。
「だって私女の子だし。勇者は、イシリオル家の男の子がなるって。お父さんが言ってた」
「でも、君の家って確か男の子は生まれて無いんだよね?」
「? まだお母さんの中に赤ちゃんがいるんだよ? また女の子が産まれるの?」
「産まれて――無い?」
ヘインスの町の長老に男の子がいなかったから自身が勇者になったって言ったのはステラさんだったはず。それを今更否定する意味はあるのか?
いや、彼女は嘘をつけるような人物ではない。
僅か一週間だけど、彼女は嘘をつかない。と言うよりも素直過ぎて嘘をつくのが下手だし、それ以前に嘘をつかれてもすぐに騙されてしまう。
と言うことは嘘じゃない。
じゃあ、この状況は――
俺の考えが間違っている?
その瞬間、俺をこんな状況に追い込んだ原因を思い出す。
古びた懐中時計。
時間を伝える道具。
時間――。
「ここって過去なのか⁉」
「ふぇっ⁉」
「あっ、ごめん! 突然叫んで!」
今まで心掛けてきた誓約が一瞬で崩れ去った俺に、ステラさん――昔のステラさんが怯えてしまった。
とりあえず何も無かったと平静を再度着直し、頭を冷やし、深呼吸をしてから、今の事態を新しい考えに当てはめていく。
まずあの懐中時計。
あれで人がどこかに消えたと言うのは事実だったようだ。法王の戯言、セイスキャンの伝承は正しかった。
だが、行く場所を間違えていた。
そこは異世界ではなく過去だった。
その事実を知って一つの謎に合点が行った。
突然無くなった懐中時計がある日戻ってきた話。と言うのは過去に飛ばされた人がその日まで生き延び、セイスキャンの旧教会にまで戻り、これを戻していったのだと。
法王の奴がこれを知っていたか否かを確かめるには、ステラさんの年齢的に後10年は先になりそうだ。あの野郎。邪魔だった俺を勇者の納得する形で消そうとしていたのか。
つまり、それまで俺は一週間と言う異世界研修を積んだ地に、十年近く一人で生きなくてはならないのか。違う。ここは元いた世界の十年以上前だ。異世界の文明レベルはそこまで高くは無いが、それでも十年で技術力は格段に上がる。石が中心だったのが鉄になったり、狩猟の仕方が危険である正面の殴り合いから安全な弓矢での遠距離戦闘、罠を使用した方法に変わる。俺たちだって携帯電話と言う存在が僅か十年でパソコンやゲーム機の肩代わりをする存在になるなんて誰も思わなかっただろうし。
「お兄ちゃん。さっきから唸ってばかりだよ? 頭痛い?」
「あ。いや、大丈夫だよ。俺は至って元気だから」
「我慢しなくていいよ。この奥に頭痛に効く薬草があったはずだよ」
ステラさんは涙を拭い。そして森の更に奥へと歩を進ませようとする。
「待って! そっちって危険何でしょ?」
「そうだよ。この奥に生えてるの」
「俺の為にそんなことをしなくてもいいんだよ! 慢性的な頭痛じゃなくて、一時的な物だから!」
少女に頭痛の症状を伝えても分からんだろうと思いながらも俺は止めにかかるのに必死だった。なんせ、彼女の性格をよく知っているからだ。
「私は勇者の一族だから、困っている人がいたら、助けてあげるの」
「いやいや、君は今別の子、えっと――君のお友達を助けようとしてるんだよね? 困っている人を放っておけないのは分かるけど、皆の悩みを聞いていたら君が困っちゃうよ? 君の体は一つ何だから」
「そうだけど……」
「その薬草が見つかっても、友達の大切な物が見つからなかったらその子が悲しむよね?」
「…………」
「それにもし君が遅くまで帰ってこなかったら、親御さんだって困るんじゃないの? 勇者様だからって一人旅はまだ早いよね?」
後に勇者になってすることになるんだけどね。
でも、一人旅をするのはもっと後。困っている人を助けたい所は今も昔もそっくりだから。
「…………うん」
「分かってくれたかな?」
ステラさんが頷いた。納得してくれたと安堵し、俺は小さなステラさんと目線を合わせるように屈む。
「私はイシリオル家の子だから誰でも助けることがお仕事って教わったの。でも皆困っているの。私がどこかに飛び出したり、木の上に登ったり、わんちゃんに立ち向かって襲われてたりしたら、皆困った顔するの。喜んでくれないの。お仕事は皆を笑顔にすることだよね? パン屋のゴードおじさんの家に来る人は皆笑顔なの。何でか分かる。ゴードおじさんのパンは美味しいから。じゃあ私が作れる笑顔って何? 勇者が作れる笑顔は困っている人を助けること。なのに、私は笑顔を作れてないの。皆待ってるの。私の弟。皆待ってるの。勇者様を」
「分かり過ぎだよね⁉」
今も昔もそっくりだぁ!




