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第七章-4 本当に大切な物の為には……

「俺の良く知っている物に上手いこと模倣できたとは思う。だから俺には分かるんだよ。これが神具などと呼ばれる代物じゃないってことを。これに何を仕掛けているのかは知らないが、俺を騙せるとは思うな」

「神を信じてもらえぬとは……」

「俺は神より常識とありきたりな展開を信じるさ」


 俺は騎士が持つ懐中時計から離れる。

 そしてステラさんの手を取り、帰る段取りにかかる。


「法王様――私に話したことは全て偽りだったのですか?」

「勇者様。そんなことはございません。私たちの歴史に偽りはございません」


 ステラさんは俺の手を取ってくれた。けど、法王の言うことを未だ信じようとしているステラさんは法王に問いかける。法王の返事は、変わらない。


「分かりました。私が試してみます!」


 そして、ステラさんの誠心も全く変わらなかった。


「ちょっと待った!」

「大丈夫ですケイタさん! ケイタさんの世界の技術に関しては――失礼ながら理解していますので、安心できます!」

「いやいやいや、無理ですから!」


 確かに俺たちの世界にはここにない技術が溢れてるよ!

 それでも異世界に飛ぶ技術は空想でしかないからさ!

 これが法王の罠で爆弾だったとしても、勇者であるステラさんなら防御の魔法で何とかなりそうだけど、もし、もし、これで異世界に飛ぶことが出来たら。そこが、俺の世界だったら。ステラさんは世相に押しつぶされてしまう!

 違う物語が語られてしまう!


「それにもし何かあっても、私は勇者です! 自分の力で何とかしてみせますから!」

「どうにかしちゃいけないルールが俺の世界にはあるんです!」


 夜になったからって野営をしていたら確実に職質されるし、焚火なんかしようものなら不審火、放火で逮捕されちゃうよ! もし助けを求める声が聞こえたからって魔法を使うはまだしも剣を抜いてしまったら銃刀法――は、剣鞘がある時点でアウトじゃんか!

 今まで俺がこの世界で生きてこれたのは、何もわからない俺をサポートしてくれたステラさんたちがいてくれたからだ。

 日本でもし、そんな人がいなかったら。彼女は。


「法王様それでよろしいでしょうか?」

「いや、それでは勇者様に万一のことがあれば――」


 今の今まで平静を装っていた法王様が焦り出す。

 おいおい……。これって。まさかのまさか。その懐中時計の伝説って。


「安心してください。これをどう動かすのでしょうか?」

「あっ――」

「何をしておる! 早く神具を取り返しなさい!」


 一瞬の動きに騎士は石像のように棒立ちとなり、法王が指示しても動き出せなかった。


「あっ。もしかして、これでしょうか? このネジを」

「ネジまき式か! だから動いていなかったのか!」


 法王の焦りと動いていなかった理由。

 それが動く瞬間。何かが起きることは、安易に想像できる。


「あっ! 動き出しました! うわ! 針がすごく動いて――って、ってぇぇ⁉」

「ステラさん!」


 だからここで動けるのは俺だけだった。

 迷わず俺はその中に飛び込んだ。


 白い光が広がる中。


 ステラさんの手元にある懐中時計を掴み。


 手と手が握り合うように。


 虹色の世界が、再び訪れた。

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