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第五章 対価は高いのだけれど……

 ガウムを再度出発してからの行路は順調だった。石畳とまでは言わないが、地面がかなり強く踏み固められ、自然の道路が出来上がっていたからだ。

 その間、俺は荷馬車の中ではガウムの商業ギルドから頂いた商売の手引きを読み、野営を張った時はボウガンの矢を装填する為の練習、簡単に言えば筋トレをしていた。


 何度か魔物に遭遇するもののステラさんの存在がそれを障害とみなさず、俺の練習となる前にあっという間に片づけてしまった。代わりにその都度謝ろうとする彼女を素早く宥めるのが早くなるというあまりよろしくない副産物を手に入れてしまったが。


 そして三日後。


「すげぇ……」

「あれが宗教都市セイスキャンです」


 白い外壁に囲まれ、その奥にはいくつもの建物が顔を出している。

 その中で一際目立つのが光を反射する、恐らくステンドグラスで出来たでかでかとした窓が建てつけられた建物だ。この都市について何も知らない人(俺も含め)であっても、あそこがこの国の中心であるということは一目瞭然だろう。城門には既に馬車と人の列が出来ている。恐らくあれが検問だろう。

 俺がガウムをセイスキャンだと勘違いしたのが恥ずかしいほどの圧倒的違いだった。ガウムが地球で言う地方都市とすれば、セイスキャンは東京位の違いだ。

 外壁が近づくにつれ、その大きさが現実味を帯び、思わず感嘆する。


「これだけででかい外壁なら、安全ですね……」

「そう思うだろ? でも、実際は魔物だって負けて無いんだ。この前見たナマケモノは自分のねぐらから動くことはほとんどない。けど、余りにも空腹だったり子供がいたりすると近場の食料がありそうな場所を襲うんだ。欠点とすれば弱った奴を狙ってばかりいたせいで、相手の力量や勢力を全く考えずに攻め込むとこかな。下手したらこんな要塞都市でさえ一頭で立ち向かってくることだってある」


 ナマケモノはかなり背が高い。それでもこの外壁には及ばず、驚異的な跳躍力でも秘めていない限り、登っている間に槍なり弓なりで撃墜されてしまいそうだ。


「それでも被害が出ない訳では無い。さっきの場合は一体だけだったが、それが群れを成せば、被害は相応の物になる。伝説のスライムが現れれば軍事力の無いセイスキャンなど抵抗すらできないだろう」


 思ってはいけないのだけれども、会ってみたい。ゲームの序盤で最悪素手でも倒せる生き物がこの都市を滅ぼす姿を見てみたい。押してはダメと言われたスイッチを押したくなるような衝動に駆られてしまうのをグッと堪える。

 堪えることが出来た要因の一つとして挙げるとしたら、目の前に見えた一部崩落した外壁だ。

 下の部分に大きな衝撃を受けたせいで上の方から雪崩のように崩れた白い石が広範囲に散らばっていた。よっぽどでかい物がぶつかったのは、その穴のでかさから推し量れる。


「これってセイスキャンが武器を集めているのと何か関係あるんですか?」

「そうだね。魔物の襲撃が最近は多いらしくて、傭兵を雇うと同時に国力を上げるために武器を貯蓄してるみたいです」


 崩れた外壁を見てその理由に納得がいく。


「人手が足りないのでしょうか。城門にも兵士らしき人がいませんね」

「普段は検問があるんですか?」

「大事でも無ければ検問はほとんどいませんね」

「魔物に襲われているのは大事では無いのですか?」

「魔物と人の違いは分かるでしょう流石に」


 マグウィードさんは笑いながら門を潜る。ただの一商人だろうと見なされたのか、馬車は止められることも無くすんなりとセイスキャンへと入ることが出来た。

 …………。

 声はかけられなかったが視線だけは感じることができた。やっぱ都市でも目立つのか、この衣装は。

 

 セイスキャンはヘインス、ガウムと違い木造よりも石造建築の家の方が多かった。正確には分からないが、その理由は何となく理解した。

 隙間なく詰め込まれた石畳の道路。

 所々曲がり角に立つ騎士、修道士、女神の石像。

 公園らしき広場の真ん中には石と言うよりもどちらかと言うとアイボリーに近い材質の噴水も見える。


「この国は芸術家の人が多いんですか?」

「ぉ。ケイタさんは目利きもできるのですか?」

「いえ、そう言う訳では無いんですけど、何というか美的センスを感じる建築が家を含めて多い気がして」

「そこに目がいくとは、絵画の売買をしたらうまく行くかもしれませんよ?」

「俺が逆に手玉に取られそうなので堅実にいきます」


 鑑定士のように目利きができる訳じゃないし、そもそもこの世界の歴史に疎いどころか何一つ知らない俺がこの世界の芸術品を商売にするとしたら、確実に倒産路線だ。

 今は商売先輩と冒険者先輩について行くのが安牌だ。


「じゃあ富豪様とは無関係な場所に行くけど、それでいいんだね?」

「異議はありません」

「それじゃバゼラの革を売りに行くとしますか」


 そう言ってマグウィードさんの荷馬車はあるお店に止まった。


「直接売るんですね」

「商業ギルドは君の世界で言う問屋と呼ばれる立場にあるからそこに売ることも可能だけど、それは最終手段だ。どこも買い手が無くて廃棄するようじゃ商人が減って商業ギルドとしても困るから何でも買い取ってくれるんだ。最安値でね」


 俺たちの荷馬車が止まったのは裁縫を専門にしたお店のようで、窓の奥にはカーテンらしき物が大量に展示されていた。


「ここは私のお得意先の一つです。普段は二、三枚多くても五枚程度の革しか納めていないですから、素材不足であってもこれだけの数を受け取ってもらえるか分かりませんが、何枚かは買って貰えると思います」

「そうしてもらえることを願うだけですね。そうしないとセイスキャンの滞在費が心許ないことになっちゃいますからね」


 バゼラの角は一本4銅貨で21×2×4=164銅貨とそこまで高値で売れなかった。

 狩りをした当日の宿賃をお礼も含めてステラさんの分も支払い、ボウガンの矢を揃え、セイスキャンまでの食料も確保したら最終的に50銅貨近くしか手元には残らなかった。もしここで売り上げが無ければまたステラさんに負担をかけることになってしまう。

 ましてやここら辺の宿屋は言っては何だけどガウムの町にあった宿屋よりも質が良さそうなので、宿泊費が高めに設定されている可能性がある。最悪俺だけ野宿する覚悟さえ必要になるかもしれないが、そうなると負い目を感じてステラさんまで野宿しかねない。


 俺は願うようにしてマグウィードさんの後について行く。

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