第四章-7 やれることをやってみたら成果は出るけど……
「どういうことだ?」
俺は思わず疑問を漏らしてしまう。
「足場が崩れそうになったんです」
それに応えてくれたのはステラさんだった。
改めてよく見ると、確かに足場が脆くなっていて、小石がぱらぱらと落ちているのが見えた。
一歩戻ったバゼラは再度、違う足場、それも丈夫な足場を選び跳び移る。
ルートそのものは変わらないが、俺はそこで重要なことに気付いた。
立ち止まったとしても戻る可能性があると。
俺の狙いは変わった。
大きく跳ぶ前じゃない。大きく跳んだ後だ!
着地の瞬間。大きな力を使い、すぐさま行動に移せない地点。そこを狙えば当たる可能性は高まる!
俺のボウガンは次の地点に先回りした。
バゼラはトラブルに見舞われながらも順調に先に進む。その後に更なるトラブルがあると露知らずに。
「落ち着け、落ち着け」
自身の心に呼びかける。
少しでも異変があればまだ残るバゼラたちもどこかに逃げてしまうだろう。
そうすれば再度群れ探しからやり直しだ。そんなことにだけはなりたくない。
一旦ここは見逃して四頭目にかけることも考えた。
いや、後回しばっかりも駄目だ。出来るときに狙おう。
三頭目が例の跳躍場所に到達した。少しまごついているのはやはり距離があるからだろう。
狙うは着地した瞬間。二頭目と同じ体勢になるとは限らない。
それでも、ここが絶好の機会なんだ。
三頭目が跳躍した。
俺はその三頭目を見ることなく着地点を見る。追いかけていたら俺の腕力では追い付けない。そしてボウガンの矢が届くまでの時間を見計らい。
ダンッ!
俺は引き金を引いた。
矢は、着地したバゼラの首元にヒットした。
「よし!」
「いや、まだだ! 生きているぞ!」
「マジか⁉」
首に当たったのだから致命傷だろうと思われたが、どうやら少しばかし狙いがずれたみたいで、バゼラはまだ動けるだけの余力を残していたようだ。
このまま逃げられるか、と思ったがここで俺の考えが予想外の方向で功を奏す。
これ以上は危険だと判断して戻ることを決断したバゼラ。
しかし、戻るべき岩場は先ほど力を加えることによって届けた距離の岩場。
負傷し、力を奪われつつあるバゼラにとって、それは苦行だった。
前足をかける所までいけたが、その後下半身を持ち上げるだけの体力を持ち合わせていなかったバゼラは体勢を崩す。そして、その体は宙に投げ出された。
「よし! 行くぞ!」
マグウィードさんの合図と共にバゼラの落下地点に向かう。
そこには息も絶え絶えな魔物がもがき苦しんでいた。
「瀕死とはいえあの角に当たればただじゃ済まない。大人しくなるまで待つか大人しくするか決めよう」
二つの選択肢のうち、俺は前者を選んだ。いや、選ばざるを得なかった。今からボウガンの矢を装填し直している間にバゼラは息絶える。そう予感したからだった。
「待ちます」
「なら、辺りを警戒しないとな。血の臭いであいつが来るかもしれない」
「あいつ?」
「こんなにも群れがいるのに誰も近づかない真の理由さ」
マグウィードさんが謎かけのような説明をした直後だった。
「っ! 気を付けてください!」
「どうやらお出ましか」
ステラさんが何かに気付いたらしく。剣を抜いた。
それが何なのかをマグウィードさんは理解していったらしく目的のバゼラに背を向けて周囲を見渡している。
「たぶんバゼラの血の臭いに惹かれたんだろう。あいつらしいやり方だな」
「あいつって何ですか⁉」
「もう来るさ。もしかしたら君の世界にいるかもしれないし、いないかもしれないし、或いは――」
キィィー‼
謎の呻き声が俺たちの会話を遮る。
声の方角を向いてみるとステラさんが既に剣を構えて臨戦態勢を取っている。彼女が見つめる岩の影。昔に出来た偉人の碑のような大岩の真ん中辺りに五つの何かが取りつく。それが指であると分かるまでに時間はかからなかった。
「巨、巨人⁉」
そこから現れたのは大岩と肩を並べるほど大きな人間、いや二足歩行をする猿人とでもいうべき化け物。大きな右手で大岩を掴み、こちらを覗き込み、そして、再度威嚇してきた。




