ケース1 マリーさん 〜暫定プランと同意〜
「マリーさん、じゃあ今日マリーさんと話して決めた事の確認をさせてもらいますね」
「はい、お願いします」
俺はそう言って今日マリーさんと話して決めた事を確認する作業に入る。
そして、俺の隣では予め言っておいた指示を出しておいたティナが羊皮紙を広げる。
「それは……?」
「あぁ、これは今日決めた事を書いて記録して忘れないようにするのと、これからサービスを使うのに、サービスの方々とマリーさん目標とかを共有する為です」
「あら、そんな事まで……」
「いえいえ、これもマリーさんの生活を良くしていくのに大事な事なんで」
本来なら初回アセスメントしてから帰ってケアプランの原案を作って、後日説明して同意を得るが、この世界はアナログだ。
パソコンで作る訳でもないし、どうせてがきなら本人の前で一緒に確認しながら、作成していく方がいい。
そう、この場でケアプランの原案を作って同意を得るのだ。
マリーさんは、「いろいろとご親切にありがとうね」と言って微笑んでくれている。
俺は、「いえいえ、これからも一緒に充実した生活を送れるように考えていきましょうね」と言ってプランのまとめに入った。
「まず、マリーさんの意向ですが、マリーさんとしては『住み慣れた家で出来る限り自分で出来る事をして生活していきたい』でいいですか?」
「はい、そうですね」
「では、僕の方の援助の方針としては、『家での生活を続ける為にも、生活にメリハリをつけ、外に出ていろんな人と会話したりして楽しみを見つけましょう。それから外に出たり自分で出来る運動をして、自分で出来る事は自分でやって体力を維持しましょう。マリーさんが、住み慣れた家で充実した生活を送れるように支援させて頂きます』とさせてもらいますね」
「はい、お願いします」
これで、マリーさんの意向とケアマネとしての俺の総合的な援助の方針を確認できたな。
次は……。
「では、次にマリーさん意向に対してどのような目標を立て、どうやって行くか言いますね」
「えぇ」
次はその意向を達成する為の目標と具体的にどうしていくかを確認しなければいけない。
ふと、隣を見るとティナがスラスラと文字を書いている。手書きなのに速い。
できる秘書のようだ。
マリアとリリは俺がやっている事に、興味深々な感じで真剣な表情で様子を見ている。
普段とは全然様子が違うな。
そんな三人の様子を見た俺はマリーさんに向き直る。
「では、まずマリーさんの意向の達成する為の一つ目の課題、『家の事は出来る限り自分でやりたい』に対しては、長期目標を家の中の家事を一人で行う、短期目標を自分で洗濯を行うとさせていただきます。でも、マリーさんは腰痛があると言っていたので、無理しないでくださいね? それで、ここ目標を達成する為に、マリーさん自身には自分で身体を動かしてもらったり体操をしてもらう。それと、デイサービスの方へ行ってみるという事でデイサービスの方でも運動や体操をしてもらおうと思います。あと、ここにはさっき話していた通り、今後の検討課題として、腰痛がひどくなったりした場合は訪問メイドを考えるとさせて頂いてよろしいですか?」
「えぇ、なるべく一人でしたいから頑張らなくちゃ!」
「マリーさん、やる気が出ていいですね! でも、無理はしないでくださいね?」
俺とマリーさんはそう言って笑い合う。
うん、初めてのケアマネ業務としては順調だな。
これも勤めてたデイサービスで鍛えられたおかげだな。
「では、二つ目の課題、『自分で庭の手入れをしたい』に関しては、長期目標を自分で庭の手入れを出来るようになる、短期目標を庭に出て手入れする為の体力をつける、とさせて頂きます。そして、その目標を達成する為に、さっきと同様にマリーさん自身が身体を動かしてもらったり体操してもらうのと、デイサービスの方でみんなと運動や体操をしてもらおうと思います」
「はい、わかりました」
「では、三つ目ですが、三つ目は僕から提案させてもらったんですが、生活にメリハリを作るという意味で、『いろんな人を関わりを持ちたい』とさせて頂きますね。それで長期目標はたくさんの友人を作る、短期目標を馴染みの友人を作る、とさせて頂きますね。それで目標を達成する為の内容としては、デイサービスの方でレクリエーションや季節の行事への参加を通して社会参加をしてもらおうと思います」
「えぇ、ちょっと不安ですけど……」
「大丈夫ですよ! この話をまた後日デイサービスの職員とマリーさんを交えて話しますし、初めて行っても一緒行く僕以外にも向こうの職員に知った顔がありますから」
「まぁ、そうなの? 親切ねぇ!」
今日はケアプランの原案だ。
これに同意が得られたら、サービスに入る事業所を交えてサービス担当者会議を行う。
ちゃんとサービスを提供する前に、みんなで共通理解し、同じ方向性を向かないといけないしな。
「みんなで共通理解して、同じ方向を見てマリーさんの生活が良くなるようにしたいですからね! それで日程なんですけど、向こうとの調整もありますから明日というのはあれですし、明後日とかどうでしょう?」
俺がしているのは国策だから、明日と言えば明日に出来るだろうけど、急に言ってデイサービスに負担が生じたらいけない。
それに、マリーさんも連続で来られたら負担だろうしな。
「私は大丈夫よ。いろいろ親切にありがとうね」
マリーさんは微笑みながら言葉を返してくれる。
どうやら俺の初めてのケアマネとしての仕事はうまくいったようだ。
これも全て、勤務してた時にいろいろ叩き込まられたおかげだな。
「いえいえ! では、明後日にまた伺いますね!」
こうして、俺の初めての訪問は順調に終わった。