第1話:他人にはバレたくないから
第1話:他人にはバレたくないから
(学校が終わり、吉田がカバンに教科書を詰めている)
(吉田が短くため息をつき)
吉田(M): やっぱり難しいな、高校生活……。まだ通い始めて一ヶ月しか経ってないけど……。友達作りも、中学の時より遥かにハードルが高い。
(その時、担任の先生が吉田を呼び止める)
先生: 吉田〜?
(吉田が驚いて振り返り)
吉田: は、はい?
先生: ちょっと来なさい。
吉田: はい!
(先生が吉田に筆箱を手渡し)
先生: これ、お前がちょっと届けておいてくれ。
吉田: え? 誰のやつですか?
先生: 加藤美央って書いてあるだろ?
吉田: カトウ ミオ……。カトウ ミオなら、俺の隣の席の……?
先生: おぅ、すぐ隣の席なんだから仲が良いんだろ?
吉田(M): なんでそうなるんですか!?
(先生が愉快そうに吉田の背中をポンと叩き)
先生: じゃあ、頼んだぞ吉田〜。
吉田: は、はい……。
(吉田が魂の抜けたような表情で教室を出て、廊下を歩いていく)
吉田(M): 嘘だろ……。俺が隣の席の女子の家に……。
吉田(M): っていうか、あいつの家がどこにあるかも知らないのに、どうやって訪ねて行けって言うんだよ!?
吉田(M): えぇ……これ、マジで困るじゃん! 隣の席だから、後ろ姿とか横顔くらいは分かっても……家なんてさっぱり知らないっての……。
(その時、階段のほうを一人の女子生徒が通り過ぎていく)
(吉田の目が点になり)
吉田(M): あの髪の毛の色は……! 間違いなくあいつだ!
(吉田が急いで駆け出し、階段のほうへと向かう)
(吉田が息を荒くしながら、人のいない静かな階段の踊り場で、ぽつんと後ろ姿で佇んでいる佐藤を発見する)
吉田: はぁ……はぁ……。
(吉田が筆箱の名前を確認し、声をかける)
吉田: 佐藤! これ、先生から届けてくれって……。
(佐藤の目がカッと大きく見開かれ、驚いて後ろを振り返った瞬間、――佐藤の姿が煙のように消え去る)
(吉田が呆然とし、動揺に目を丸くする)
吉田: え……? き……消えた……?
(吉田が現実を理解できないまま、何もない空間に筆箱を差し出した形で身体が完全に硬直する)
(しばらくして、吉田が自分の頬をパチッと叩き)
吉田: 痛いってことは……夢じゃないな……。
(直後、吉田が静まり返った階段で大声を上げる)
吉田: えええっ!?!? なんだよこれ、じゃあ今のは何なんだよ!? 本当に消え……消え去ったのか!? マジで!?
(その時、廊下の奥から先生が歩いてくる)
先生: 誰だ、こんなところで騒がしいのは!
(吉田が慌てて頭を下げて)
先生: す、すみません! すぐに静かに移動します!!
(夜が更け、吉田の部屋)
(吉田が眠れずに、ベッドの上で横になっている)
(吉田が何度も寝返りを打ちながら悶々とする)
吉田: クソっ……全然眠れねぇじゃん……。あいつ、一体全体何なんだよ……!?
(翌日の学校。吉田が一人で席に座り、ノートを広げている)
(吉田がぼんやりとした表情で、ノートに落書きの絵を描きながら)
吉田(M): 本当に何だったんだ……。あまりにもインパクトが強すぎただろ。俺、本当に漫画の世界にでも閉じ込められたのか……? 瞬間移動……絶対にこの目で見たんだ……。
(その時、隣の席に佐藤が、どこか落ち着かない不機嫌そうな表情で腰を下ろす)
(吉田がチラチラと様子を伺いながら)
吉田(M): クソっ……こんな疑問、気になりすぎて破裂しそうだ……。だけど、ろくに喋ったこともない隣の席の女子に、いきなり声をかけられるわけ……。だけど……。
吉田: さ……佐藤……? だよね……?
(佐藤が驚いて、ガバッと吉田のほうを見つめる)
佐藤: え……あ……うん。そうだけど、何?
(吉田がカバンから、昨日の筆箱を取り出して差し出す)
吉田: これ……昨日、届けようと思ってたから……。
佐藤: あ……うん。ありがと……。
吉田: ごめん、昨日その場ですぐに渡せなくてさ。お前が急に『消えちゃったから』。
(その言葉を口にした瞬間、吉田の目が点になり)
吉田(M): え!? 俺、今……無意識のうちに消えたって言っちゃったか……!?
(その刹那、佐藤が吉田との距離をゼロまで詰め、彼の口を片手でガッと力強く塞ぎ込む)
(吉田の目がカッと見開かれ、あまりのゼロ距離に激しく動揺する)
(佐藤が周囲に聞こえないような小さな声で、耳元で冷たく囁く)
佐藤: ――見たんだね? 消える姿を。
(屋上の重苦しい空気の中、吉田が冷や汗を流しながら)
吉田: くっ……本当に……本当に現実だったのか!? 昨日のアレが……!
加藤: ちょっと、声を落としなよ! クラスの奴らに大声で宣伝でもする気!?
吉田: ご……ごめん……。
加藤: ――ちょっとついてきて。
吉田: どこに……?
加藤: 私がよく知っている場所。
(そうして加藤が周囲を気にしながら、屋上の鉄扉の鍵を開ける)
(吉田が驚きと戸惑いの表情を浮かべながら、広々とした屋上へと足を踏み入れ)
吉田: なんだよ……。どうやって屋上の鍵なんて……。
加藤: この程度のピッキング、朝飯前だし。
吉田(M): お前……一体全体、何者なんだよ……。
(加藤と吉田の二人が、屋上の冷たいコンクリートの壁に背をもたれかけ)
加藤: あんた、昨日はどこまで見たわけ?
吉田: 残念ながら、最初から最後までバッチリ全部見ちゃいました……。
加藤: そ……そうなんだ……?
吉田: だけどさ……お前、本当に人間なのか?
(加藤が途端にムッとして、怒りを露わにしながら)
加藤: はぁ!? 何その言い草! じゃあ何、私がモンスターかロボットだとでも言いたいの!?
吉田: いや……違う、違うよ……。
吉田: だけど、本当に瞬間移動ができるのか?
加藤: う……うん……。
吉田: わぁ……すっげぇな……。生きてて本物の超能力なんて、これっぽっちも見かける機会なんてないからさ……。
加藤: 当……当たり前でしょ……。
吉田: いつから使えるようになったんだ? その能力。
加藤: 私にも分からない……。後天的なものなのか、生まれつき備わっていたのかは……。ただ、中学校1年生の頃から、なんとなく発動し始めたんだよね……。
(吉田が底知れぬ好奇心を宿した目で、加藤の顔をじっと見つめる)
(加藤の顔がみるみる赤く染まっていき)
加藤: な……何よ、人の顔をそんなにじろじろと見つめて。
吉田: あ! ごめん! 瞬間移動なんて、漫画とかアニメの中でしか見たことがなかったからさ。
吉田: だけど、俺をわざわざ二人きりの場所に呼び出した理由は何なんだ?
加藤: あんたが他の奴らに言いふらすかもしれないでしょ! それを釘を刺すために呼んだの。それに……あんた、喋り方からして友達が多そうだし……。
吉田: 全然……そんなことないよ……。残念極まりないことにね……。
加藤: ふーん……そうなの? だとしても! あんたのことなんて、これっぽっちも信用できないよ! こんな噂が広まったら、本当に困るんだから!
吉田: 確かに、面倒なことになるのは間違いないな……。で、具体的にどうするつもりなんだよ。
加藤: と……友達になろう。
(吉田の目がカッと見開かれ)
吉田: えええっ!? と……友達……?
加藤: うん、何か文句ある?
吉田: 文句はないけど……(M:高校に入って初めてできた友達が、瞬間移動を操る超能力者だなんて……)。
加藤: なら決まり! 私たち、今日から正真正銘の友達だからね!
吉田: うぅ……。じゃあ、こうなった以上、少し気になってることを質問してもいいか?
加藤: うん、聞きなよ。
吉田: 今まで、お前が瞬間移動できることを知っている人間って何人いるんだ?
加藤: うーん……私と本当に仲が良い親友以外には誰もいない。だから、あんたを含めて全部で2人だけ。
吉田: 本当に仲が良い親友……。じゃあ、どこまでの距離なら瞬間移動が可能なんだ?
加藤: 自分の頭の中で、今までに行ったことがあって景色を覚えている場所に「行きたい」って強く念じると瞬間移動できるの。だいたい3秒くらいかかるかな。
吉田: じゃあさ! 海外とか、他の遠い地域にも一瞬で行けたりするのか?
加藤: え……。私、他の地域とか海外に行った記憶がそもそもないから……。
吉田: そ……そうか、そりゃそうだよな……。
加藤: あ! それとね、私はあんたのことを監視するから。
(吉田が激しく動揺して)
吉田: え? か……監視するって? 俺を?
加藤: 当然でしょ! 友達になったのも、あんたが余計なことを喋らないように見張るためなんだから。
吉田: えぇ……それじゃあ……俺たちって単なる『偽物の友達』じゃん。
(加藤の目が丸くなり、顔が耳の根元まで真っ赤に染まる)
加藤: そ……そんなふうに受け取らないでよ! わ、私だって……久しぶりに友達ができて、すっごく嬉しいんだからね、もう!
(吉田がそんな加藤の様子をぽかんと見つめた後、ふっと優しく微笑む)
吉田: あぁ! 分かった、よろしくな!
加藤: ――それと、私からもう一つだけ聞いていい?
吉田: ん?
加藤: あんた、名前は何ていうの?
(吉田がハッとして慌てながら)
吉田: あ! そういえば名前すら名乗ってなかったな……。吉田サエキ(ヨシダ サエキ)っていうんだ!
(加藤が真っ直ぐに吉田の目を見つめながら)
加藤: じゃあ、よろしくね、吉田くん。
(吉田の顔がカッと熱くなり、赤面して)
吉田: あ……うん……。よろしくな……加藤。
【第1話 完】
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