プロローグ
赤ん坊の泣き声が部屋中に響き渡る。
ベビーベッドを覗き込んでいる、一組の夫婦。おもちゃを手で振り回しながら火が着いたように泣きじゃくる息子のその様子に、困惑気味の表情を浮かべていた。
「オムツは変えたばっかりだし、お腹もいっぱいのはずなのに……」
「急にどうしたんだろうな」
抱き上げようと手を差し伸べても、おもちゃでそれを払われてしまう始末。もはや打つ手なしと困り果てている二人。
そんな両親の様子を見ていた長女が、子供らしい発想で二人に声をかける。
「おもちゃがイヤなのかもよ?」
確かに彼女の言葉通り、泣き始めたタイミングはおもちゃを手にしたのと同時だった。
子供だからこそ素直にそう考えられたのだが、それを聞いた両親は何かに気付いたようにハッと顔を見合わせる。
「まさか、九十九家の……?」
「そのまさか、かもしれない」
深刻そうなその表情は、ただの赤ん坊のぐずりに対するものとは明らかに違っていたのだが、そのことを指摘するような人物はこの場には存在していなかった。
いまだにおもちゃを振り回している赤ん坊の手から、なんとかしてそれを取り上げようと奮闘すること数十秒。握る力の強い赤ん坊の手がようやく緩んだ隙をついて、その手からおもちゃを抜き取ることに成功したのだが――。
「……寝てる?」
「いや、むしろこれは……」
気絶に近いのかもしれない。
そう呟いた父親は、息子の寝顔をどこか複雑そうな表情で見つめていた。




