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第十九話「出ない」

タイトル……。

とにかく、今回は妄想回ではないので短めです。



 


【さくら視点】


【あーあーあああああーあ、あーあーあああああー♪】


 …………。


【あーあーあああああーあ、あーあーあああああー♪】


 …………。


【あーあーあああああーあ、あーあーあああああー♪】


 …………。




【春臣視点】


「お疲れ」

「ん? な、なんで……?」


 振り向いた雅也は何故か鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

 一瞬約束を忘れているのかとも思ったが、すぐにその原因に気づいた。

 雅也の視線が僕の後方へと向かっていたからだ。


「あ、そうか、言ってなかったか。今夜は池谷いけたにさんも一緒だから」

「よろしくお願いします」


 後ろにいた池谷さんが一歩前に出てペコリと頭を下げる。

 雅也はそれに曖昧に頷きながら僕に近づくと、


「な、何するんだよ……」


 ヘッドロックしながら部屋の隅へと僕を引きずって行く。


「何するんだよじゃねーだろ。お前こそ何してんだよ?」

「いや、だから池谷さんも話があるって言うから。それに彼女今日頑張ってくれたしね……ってマジで締めるなよ、痛いって!」


 クイクイからギュギュっとヘッドロックに力が入る。

 ジムに通う雅也は細身だけど脱ぐと意外とマッチョで力が強いのだ。


「俺も春臣んちに行く為に仕事頑張ったっつーの」

「わ、わかったから力抜けって……」

「罰として今日は泊まるからな?」


 ミシミシミシミシって音がした。

 コイツ、本気だ……。


「わ、わかった……」

「よし」


 ヘッドロックを解いた雅也は嬉しそうに乱れた僕の髪を整える。うざい。


「雅也はソファだからな」


 雅也の手を振り払いながら言うと雅也はニヤリとやらしい笑みを浮かべる。やっぱりうざい。


「じゃあ行くか?」


 雅也はさっさと自席に戻ってバッグを肩にかけて歩き出す。

 さもヘッドロックの件がなかったかのようだ。

 ミシミシ言ったぞ、ミシミシ……。


「今日頑張ったんだって?」

「はい、野咲さんのおうちで食事会と聞いたら余計に頑張れました!」

「そっか。でも今はアトリエてんてこ舞いだろうから、あまり周りに言っちゃダメだぞ?」

「勿論ですよー。そんな事アトリエでは恐ろしくて言えませんよー」

「だよな?」

「ですよー」


 二人で楽しそうに話しながら先に行ってしまう。

 なんだよ……。


「ほら、行くぞ、春臣!」

「あ、おう……」


 また完全に雅也ペースだな。

 チラリと雅也の机を見たらDMにコメントを手書きしてる束が積んであった。

 確かに頑張っていたようだ。

 まあ、僕を待つ間の暇つぶしにやってたのだろうが。



「それで、あれからハウスキーパーさんには連絡ついたんですか?」

「え、ああ。未だ連絡とれてないんだよね……。もしかしたら携帯がサイレントモードにでもなってるのかも……」

「え? 大丈夫か、このまま手ぶらで帰って?」


 雅也の言葉通りで、ここまで連絡とれないと正直言ってその不安は募ってきている。


「野咲さん、家に電話はあるんですか?」

「あるけど?」

「サイレントモードの可能性があるんだったら、そっちへかけてみてはいかがです?」

「そうか……」


 それもそうだ。盲点だった。

 池谷さんの助言に従い家の電話へかけてみる。


 出ない……。


 もしかして本当にスーパー帰りで事故にでも遭ったのだろうか?

 急に胸騒ぎがしてきた。


「も、もしもし。の、野咲です……」


 あ、出た。


「野咲です。さくらさん大丈夫ですか?」

「は、は、春臣さん!」

「どうしました、さくらさん!?」

「い、いえ……な、なんでもありません。っえ! 今何時ですか!?」

「え? ああ、今は20時少し前です。思いのほか仕事がはかどって帰宅時間が3、40分ほど早くなるんですよ。時間大丈夫ですか?」

「さ、3、40分! だ、大丈夫です! えっ、あと30分もないじゃないですか! な、なんとかします! で、で、ではお待ちしております!」


 切れた。


 寝てたな、あれは。

 それにしても凄く慌ててたな……。


「大丈夫なのか?」

「ああ。多分大丈夫っぽい」


 とは言ったものの本当に大丈夫なのか……?

 まあ、急なお願いだったんだし最悪はビザとかでもいい。

 それにこの時間だったらウーバーイーツも行けるかも知れないし。

 いやいや、今はさくらさんの言葉を信じよう。

 とにかく帰ってからでいい。


「…………るの?」

「ん?」


 あれこれ考えてて聞いてなかった。


「家に酒はあるのかって」

「ああ、ワインなら2、3本あるかな。確か赤と白両方」

「じゃあビール買って帰るかな。瑛瑠エイルちゃんはもちろんビール派でしょ?」

「え、なんで私がビール派なんですか?」

「いや、だって名前がビール派っぽいじゃん」

「だからなんでそれでビール派なんですかー」

「いや、もういいや。でも最初の一杯はビールが飲みたいからビールは買おう。決めた」

「まあ、最初の一杯目にビールってのはわかります。そしたら私もビール買います!」

「お、そうか。でも今日は俺が買ってやるからな?」

「本当ですかー? ご馳走になりますー」


 なんだかこの二人、ヤケに仲良くないか?

 本当に池谷さんは雅也をとっちめてくれるのだろうか?

 まあ、何もなければ無いでそれはそれなんだけど。



【さくら視点】


 まずい。


 あと30分もないじゃない!

 うー、いい気になってサングリア飲みすぎたよ。


 それにしても、まさかこんな時に寝ちゃうとは……。


 いや、今はそんな事を考えてる暇はない。


 料理の方はほぼほぼ準備が出来ている。


 あとはお掃除!


 玄関にトイレにキッチン周りも綺麗にしとかなくっちゃ。

 順番はどうしよう……。

 何かポイントもあるかも知れないし、ここは師匠に電話だ。


 って、出ない。


 やっぱり主婦だとすぐに出られないか……。

 まあ向こうは向こうで旦那さんが帰って来ているだろうし、夕飯時だとそれどころではないわね。


 とにかく玄関のお掃除から始めよう。うん。


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