第二十話「宴の始まり」
タイトルはそのままの気持ちです……
【春臣視点】
「君がさくらちゃんだね、お邪魔するよ」
「は、はい。どうぞ……」
「お邪魔しまーす。へー、ここが野咲さんのお家なんですねー」
「あ、こちらのスリッパをお使いください……」
普段ではあり得ないような冷たいトーンで声をかける雅也と、チラリともさくらさんを見ずに玄関を見回している池谷さんに、さくらさんは戸惑い気味に対応している。
出迎えてくれたさくらさんは大きな黒縁メガネをかけていた。
今まで気がつかなかったが目が悪かったらしい。
それはいいとして顔が妙に赤い。
熱でもあるのだろうか?
「顔が赤いですけど大丈夫ですか、さくらさん。熱があるなら無理しないでくださいね?」
「い、いえ……。ちょっとサングリアを味見してたら酔って寝ちゃったみたいで……。さっきの電話で起きて慌ててお掃除したら、なんだかお酒が回ってしまったのかポーっとしてるんです。ごめんなさい……」
「い、いえ……」
そう言う事か。
言われてみればさくらさんは少しお酒臭いかも……。
「とにかくお酒のおつまみ的なものは出来てますのですぐにお出ししますね」
「あ、ありがとうございます……」
なんだかんだ用意はしてくれてたみたいだ。
とにかく、寝てたのなら尚更さっき家に電話をかけて正解だったな。
まあ、あとは雅也と池谷さんがどう出るかだな。
それぞれほどほどにしてもらいたいものだ……。
【さくら視点】
しかし春臣さんのお友達なだけあって二人ともオシャレさんよね。二人とも春臣さん同様、全身黒で独特だけど。
ただ、二人ともなんか取っ付きにくそうなんだよね。
男の人は夜なのに大きなサングラスかけていて、表情がわからない上に冷たい口調だからちょっと怖い感じだし、女の人は冷たいどころか私なんて完全に見えてないみたいだよ……。
この二人、春臣さんとはどういう関係なんだろう。
「二人とも料理が美味しいって喜んでますよ。さくらさんも一緒に食べましょうよ?」
春臣さんがキッチンに来て小声で話しかけてきた。
あの二人、料理は気に入ってくれたみたいね?
蛍さんに感謝しなきゃ。うん。
「いや、せっかくお友達で集まったんですから私なんて気にせずに楽しんでください。それに私が入ってもどうせお話について行けませんし、まだ調理が残ってますから」
調理はほぼオーブンがやってくれるんだけどね……。
「そうですか……。でも、もう下ごしらえは済んでるんですよね? 二人ともさくらさんと話したいって言ってますから、それが焼き上がったらひとまずテーブルについてくださいよ」
「はい……」
バレてたみたい。
まあ、今の私はオーブンを眺めてるだけで、何もしてなかったからね……。
「そう言えばさくらさん」
「なんでしょう」
「いえ、なんなでもありません……。ではお待ちしてますので」
「はあ……」
なんだろ、春臣さん。
【春臣視点】
まあ秋葉さんの事は今聞く必要ないよな。
それに、どう考えてもさくらさんが彼女を怒鳴りつけた挙句、無理矢理追い返すような真似はしないだろう。
ま、どうしてそんな話になったか気になるはなるけども……。
「えーっ、そうなんですか!?」
「どうしたの池谷さん、そんな大声出して」
テーブルへ戻ると、話が盛り上がっている感じだった。
雅也が何を言ったかわからないが、池谷さんは大袈裟に身体を仰け反らせている。
この子、雅也をとっちめるんじゃなかったのか?
この様子だとすっかり忘れてそうだな。
まあ、仲良くするのはいい事だし、その方がご飯も美味しく食べられるからいいんだけど。
「野咲さん!」
「な、なに……?」
急にキッと睨んでくる池谷さん。
っていうか、ちょっとキッチンへ行ってる間に2本目のビールがあいてるし……。ペース早くないか?
「あのさくらさんって人と一緒に住んでるんですか!? ハウスキーパーって話は嘘だったんですか!? って言うか野咲さんは女性も好きなんですか?! だから山峰さんの事も放任してたんですか!?」
「…………」
なんだなんだ?
チラリと雅也を見ると、雅也はニヤつきながら顔を背けた。
アイツ…………。
「そ、その沈黙はやっぱり……」
「だから俺の事をどうこう言うのはお門違いって訳で……」
「山峰さんは黙っててください!」
「お、おう……。ま、ま。とにかく飲もう?」
雅也が池谷さんに自分のビールを注いであげると、彼女は一気にそれを飲み干した。
「だったら……。だったら私じゃダメなんですか?」
池谷さんが赤い目で見つめてくる。
赤く据わった目だ。
これはアルコールによるものなのだろうか?
「ちょっと待ってよ、池谷さん。ダメとかそう言うんじゃないんだって。そもそも僕と彼女はそう言う関係じゃないし。雅也から何を聞いたか知らないけど、雅也が勝手に言ってるだけで事実無根なんだって」
「じゃあ一緒に住んでるって話も嘘なんですか?」
「それは…………あっ」
さくらさんがいつの間にかトレーを持って立っていた。
「や、焼き上がったんですね。えー、なんか変な感じでごめんね。と、とにかく座ってください……」
「え、いや……はぃ…………」
こんな空気じゃ座り辛いよね。
わかる。わかるんだけど……。
【さくら視点】
なんだろ、この空気。
座るどころか凄く居辛いんですけど。
てか私、いない方がいいんじゃないの?
「えーと……。マッシュルームのオイル焼きです。上にのってるアンチョビとベーコンの塩気のみの味付けですので、お好みでこの胡椒を振って召し上がってください」
とは言え、お皿をテーブルの中央へと出しながら言われた通りに座った。
沈黙が痛い……。
オリーブオイルがプツプツ言ってる音がヤケに大きく聞こえるよ……。
「お、これは美味しそうですね、さくらさん」
「熱いので気をつけてくださいね……」
春臣さんがを空気を変えるように明るく言いながらマッシュルームに手を伸ばす。
「話をはぐらかさないでください、野咲さん!」
「…………」
凄い剣幕の女性に春臣さんの手が止まった。
私、やっぱりいない方がいいでしょ?
なんだかお尻がムズムズしてくるんだけど……。
「エイルちゃんもそう話を急がないでさ。楽しく飲もうよ。次はサングリアにする? さくらちゃんもサングリアかい?」
「いや、私は…………」
断る間も無く注がれてしまう。
なんだろ、この人。
一人だけ違う空間にいるみたいに楽しそうだ。
さっきの冷たい口調は嘘みたいだよ。
しかもサングラスを取った彼はかなりのイケメン。
切れ長の涼しげな目にすっと通った鼻筋が、なんとも魅惑的な印象を与えている。
春臣さんとまた違った感じのイケメンだ。
も、もしかして彼が春臣さんの…………?
「ほら飲んで飲んで?」
「あ、はい……」
勧められるがまま飲んでしまう。美味しい。
私、実はいける口だったのかしらね?
「で、さくらちゃんは春臣に惚れちゃったの?」
「ッ!!」
いきなりの質問にサングリア噴いてしまった。
ブーっと。




