第六話 博打師アレクセイ
アレクセイは町郊外の谷の間に軍を構えていた。アネモネ軍は北寄り接近し、マギナ市に入るためには絶対にこの谷の間にある道を通過しなければならない。そのためこの地点は要衝であり、同時に防衛側に有利な地点となることと過去の経歴から、『死の谷間』と呼ばれていた。
俺達がそこに到着するころにはすでに戦闘が始まっており、辺り一面に血の臭いが漂っていた。俺はすぐに司令部テントに飛び込んだ。
「おお、君たちか。この通り、戦闘が始まってしまった。まだ敵軍先鋒との小競り合いだが、これから大規模化する」
「俺達はどうすれば……」
「取り敢えずは戦闘に参加してもらうが、君は残れ、ブレイン。この先は強いもの以外はお呼びでない。君の戦場はここにある」
俺は二人に目を向けた。すると強気な視線のニニエとリラは笑いながら言った。
「「邪魔だからここにいろ、ブレイン」」
「……分かった。ちゃんと帰ってこいよ」
言葉には罵倒が含まれていたが、二人の精一杯の優しさを感じるようであった。
やがて二人は戦場に走って行った。俺はそれを見送る事しかできなかった。
「……アウトローズね。良い組織じゃないか。構成員三人とは言え、ここまで慕われるブレインもなかなかいないだろう」
「あの、俺は――」
「未来予知系なんだろ? だったらそれを役立ててもらう。お前の裁量次第で死者が一人は減るかもな」
「は、はい!」
重役だと俺は気合を入れる。あの二人が安心して帰って来れる様に、俺は俺に出来ることをやるのだ。
「それで具体的には何処から調べれば」
「アネモネ軍の本体が接近する時間、そして敵の大ボスの出現時間だ」
俺は早速取り掛かる。そしてその答えをアレクセイに伝え、彼はそれを元に指示を伝達していった。
そして数分が経った頃、アレクセイが世話話を始めた。
「しかし、ルーの奴になるべく敵を殺すなと言われたときは何事かと思ったが、まさかあんな方法で敵の企業を丸ごと参加に入れるとはな。我が友ながら恐ろしい奴だよ」
「ルー? ボスの事ですか?」
「ああ。あいつは学生時代の友人でな。あいつの嫁さんを巡って争ったこともある。……あの頃の俺は差別主義でな。ドワーフと同じ学校にいるのが我慢ならなかった。まあ俺だけではなかったがな。だからお前がすごいと思うよ」
果たして自分のどこがすごいのだろうか? と疑問に思う。彼らの基準では確かにすごいのだろうが、俺がドワーフなどの別種族に対しても好意的なのは日本のオタクであったという事と自分にもいじめられたり差別されたりした経験があるからと言うだけの事であった。
「そんな、凄いだなんて大袈裟ですよ」
「いや、凄いぞ? エーデ族の小娘のために保釈金を払ったそうじゃないか。しかもあの状況で。殺されても文句言えない状況だったぞ」
「そうですね。でも、あんなに可愛い子は一人にしちゃいけないんですよ。要は下心です」
「結構! たとえ下心でも、人のために動けたのなら大したものよ。しかしな、あまり無茶をすると、この世界だとすぐに死ぬぞ? って、そうは言ってもお前は死なないか。その能力があればな」
そうだ。俺には自分が死ぬかどうかが分かる力がある。仲間を救えるかどうかが分かる力がある。未来を見通す力がある。
って、そう考えるとかなりのぶっ壊れ能力なんじゃね?
「なんか、最初はがっかりしたけど凄い能力っすね。これ」
「そうだとも! お前の無茶にじっくりと付き合ってくれる、無茶を押し通せる能力だ。そして今は俺達がそれに守られる。俺達はそんなお前を守る」
「……任せてください!」
何だか照れくさくなり、俺は勢い良く返事をした。
「……それで物は相談なんだが、ちょっと調べてくれんかい? ここを放棄した場合の勝率。高ければ実行するから」
「……ってええええええええええええッ! 死の谷間で戦えば有利なんですよね!? 調べませんよ! ここで戦いましょうよ!」
「お前は俺達が守る。お前は俺達を守る。さっき言ったばかりじゃないか!」
やけに持ち上げるなと思ったら、こんな博打みたいなことをやろうとしていたのかと驚愕させられた。あの褒め殺しには裏があったか……。大人って怖い。
「ま、まあ調べるくらいならやりますけど、低かったら実行しないでくださいね?」
「アアワカッテルワカッテル。速く、はーりーあっぷ!」
マジで頼んだぜと俺は勝率を調べ、そして出た数字に口を噤んだ。五割、とても決行できる数字ではない。
しかしアレクセイはそれを見て表情を崩さないまま、宣言した。
「これから出来る限り防御して、時を見て退却するとマギナ市に伝令!」
「ちょっとおおおおおおおおッ! 五割、半分っすよ! 滅茶苦茶っすよ! 何もしなくてもここで撃退すればいいじゃないですか!」
「任せろ。博打には自信がある!」
「やっぱりなんもしなければよかった!」
心底後悔しつつ、俺は目の前の指揮官の言葉を聞いているしかなかった。




